公爵令嬢ですが違う女を毎日連れてきて婚約破棄を宣言されるので物理サバイバルが必須です
「スカーレット、君との婚約を破棄する!」
私は拳にうなりをつけ、婚約者の腕に絡みつき瞳を潤ませている特待生の聖女候補を、ぶっとばした。
その翌日。
「スカーレット、君との婚約を破棄する!」
私は抉れるほど強く床を蹴って跳躍し、婚約者の背に胸を押し当て切ないため息を漏らしている男爵令嬢に、脳天チョップを炸裂させた。
さらにその翌日。
「スカーレット、君との婚約を破棄する!」
私は身を低く沈め3歩前に進むと、婚約者の首に腕を巻きつけニヤリと口元を緩ませている子爵令嬢に、疾風の如きアッパーカットを見舞った。
さらにその翌日。
「スカーレット、君との婚約を破棄する!」
私は片足を軸にして異国の舞踊のように華麗に回転し、婚約者の胸にもたれかかりウットリとした表情で頬を擦り寄せている伯爵令嬢に、渾身の蹴りをくらわせた。
さらにその翌日。
「スカーレット、そろそろ結婚しないか」
私は婚約者の身辺を注意深く観察した。
今日は珍しく、ほかの女を連れてきていないようだ。
私はほっと息をつき、婚約者の隣に腰をおろす。
「その霊媒体質が治らない限り、お断りでしてよ」
「本当にすまない。情けないけど、スカーレットの除霊だけが頼りだよ」
私の婚約者には女性の霊が寄ってきやすく、婚約者は毎日のように操られては私に婚約破棄を叩きつけてくる。
これで結婚などすれば今度はきっと、愛人狙いの霊が毎晩とりつき 『君を愛することはない!』 などと彼に言わせてくることだろう。
そうなれば私はいつか邸じゅうを破壊してしまうかもしれない。ストレスで。
「霊が寄ってこないよう、ずっと修行しているのにな」
「愛が足りないのではなくて?」
「ならもっと、君のことだけ考える」
私は婚約者とキスをする。
幼い頃からの婚約。お互いに愛も信頼もあるのは、知っている。
それでも ――
結婚する気にはまだ、とてもなれない。
「どうしても、結婚できない?」
「そうね。もしくは、国じゅうの霊をなるべく早くあの世に送るしかありませんわね」
聖地のど真ん中にあるため、昇天できない未練の強い霊が集まる国。
いつ婚約者が操られてしまうか、気が気ではない。
私のサバイバルは、まだまだ続きそうだ ――
「スカーレット、一刻も早く結婚なさい。さよう、これは王命である!」
私は婚約者の背後に両手を回し、肩越しに覗きこんでくる先代王と王妃の、透き通った青白い頬を思いきり、つねりあげた。
義両親のくせに、出歯亀してくるんじゃない。
なろうラジオ大賞応募用1000文字短編です。お題は「サバイバル」




