99.大勝利、とはいかず
『決着決着決着ーっ! 大立ち回りを見せてくれた《紅天》の面々に拍手を! 素晴らしい戦いでしたね!』
『うむ、実に見事。水着が映えていた』
『そうですね! やはり水着による戦いは素晴らしいものです!』
それ関係あるのか、と実況と解説に思わず突っ込みたくなるレインであったが、そんな気力もなくその場にへたり込む。
ようやくフレメアに勝利した――彼女と久しぶりに出会ってから、色々なことがあったけれど、何とかここまで辿り着くことができたのだ。
見れば、他のメンバー達は息も絶え絶えであり、辛勝であったと言う他ない。他方、フレメアはというと、
「見事な連携だったわ。成長したわね、レイン」
水着は斬られ、生まれたままの姿であるにもかかわらず、余裕の態度でレインの前に立つ。
およそ敗者とは思えないが、彼女のその『自信』を知っているからこそ、レインには勝てるビジョンが湧かなかったのだ。
今だって、本当に勝てたと信じられないくらい、フレメアは遥か格上だ。
「師匠、僕は――」
「何も言わなくていいわ。あなたが勝ったのは事実だもの。ま、私も十分楽しませてもらったから、これまでの件は水に流してあげる。水着だけに」
「……」
「笑いなさい」
「何も言わなくていいって言ったのに!?」
「あなたが変に気の利いたことを言おうとした雰囲気を感じたのよ。そういうタイプでもないのだから、勝ってよかった万歳――って感じでアホみたいに喜びなさい」
「や、やっぱり勝った気がしない……」
「――いや、どうあれ私達の勝利だ」
レインの言葉を否定したのは、リースであった。
「全く、こんな強い相手に決闘を挑むなんて、レインはバカよね」
「本当よ。しかも勝つ算段もないなんて!」
「まあ、結果的に勝てたのですからよかったのではないでしょうか」
シトリアがフォローを入れてくれたが、それ以外のメンバーからの評価は散々だった。
けれど、リースの言う通り、何とか勝てたことは事実だ。一先ず、ここは素直に喜んで――
「ンフフッ、まさか、これで終わりだと思ってないでしょうね?」
「っ!」
五人の前に再び姿を現したのは、一人の変態――ではなく、マクスであった。
ボロボロになりながらも、彼の水着はまだ健在であり、すなわち失格にはなっていない。
しかも、フレメアと手を組んでいるわけでもない、純粋な参加者の一人だ。
「まだこいつ残ってたのね」
「まさか、あれで生きているとは」
「……殺すような真似したの?」
驚くリースの言葉に、エリィが若干引き気味な表情を見せた。
センも呆れた様子でマクスを見ているが、やはり鍛えられた肉体を持つ男。簡単に脱落するような相手ではなかったようだ。
しかし、状況はかなりよくない。
エリィはすでに戦闘を続けられる状態になく、リースとセンだってかなり疲労しているはずだ。
まともに戦えるのは、シトリアとレインの二人と言ったところか。
「では、私がお相手しましょう」
「え、シトリア……!?」
レインが動くよりも早く、前に出たのはシトリアだった。
「レインさんが下手に動けば、水着を失って失格になりそうですし」
「地味に辛辣……!」
「それに、私だけまだまともに戦っていませんし」
そう言われると、シトリアには主に守りをメインに担当してもらっているから、戦いという戦いはしていないのかもしれない。
レインとしては、守ってくれるだけで十分にありがたいのだが。
「あら、あなたがお相手? アタシはそこのレインと戦いたいの。邪魔者はすっこんでいてくれる?」
「邪魔者はあなたの方ですよ。私達、今は勝利の余韻に浸りたい時間なんです」
「勝利の余韻? ハンッ、それはアタシに勝ってから浸りなさいッ!」
「では、そうさせていただきます。『聖鎧重装』――」
シトリアの身が光で包まれる――以前、全身を鎧で包んだ白銀の騎士の姿になった時の魔法だ。確か、魔力の塊で身を包んでいるという。
「『強制解除』」
「ぎゃあああああああっ!」
そして、次に聞こえてきたのはマクスの断末魔であった。
シトリアが光の鎧に包まれた瞬間、それがすぐに解除され、まるで砲弾のようにマクスへと襲い掛かったのだ。
あまりの速さに避けることもできず、マクスはシトリアが放った『鎧の残骸』によってボコボコにされ、落下していく。
「え、えええええ……!? そういう攻撃ありなの……!?」
「いわゆる初見殺しですね。『聖鎧重装』自体、魔力の消費が激しいので。そのまま殴り合ってもよかったのですが――まあ、落としても勝ちなので」
さらりとそんなことを言い放つシトリア。……マクスにとっては相手が悪かった、という他にはないかもしれない。
『何やら一悶着ありましたが、今度こそ決着――ん?』
実況が何かに気付いたように声を漏らす。まだ他に生き残った選手がいるのか、と見渡すが、どうやらそうではないらしい。
会場全体を影が覆い――その場にいた全員が把握した。上空に、『何か』がいる、と。
「面白そうなのが寄って来たわね」
ポツリと、フレメアが呟くように言う。
この状況では、全く面白そうには見えない。――太陽を覆い隠すように、巨大な魔物が天を舞っていたのだから。




