表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/103

99.大勝利、とはいかず

『決着決着決着ーっ! 大立ち回りを見せてくれた《紅天》の面々に拍手を! 素晴らしい戦いでしたね!』

『うむ、実に見事。水着が映えていた』

『そうですね! やはり水着による戦いは素晴らしいものです!』


 それ関係あるのか、と実況と解説に思わず突っ込みたくなるレインであったが、そんな気力もなくその場にへたり込む。

 ようやくフレメアに勝利した――彼女と久しぶりに出会ってから、色々なことがあったけれど、何とかここまで辿り着くことができたのだ。

 見れば、他のメンバー達は息も絶え絶えであり、辛勝であったと言う他ない。他方、フレメアはというと、


「見事な連携だったわ。成長したわね、レイン」


 水着は斬られ、生まれたままの姿であるにもかかわらず、余裕の態度でレインの前に立つ。

 およそ敗者とは思えないが、彼女のその『自信』を知っているからこそ、レインには勝てるビジョンが湧かなかったのだ。

 今だって、本当に勝てたと信じられないくらい、フレメアは遥か格上だ。


「師匠、僕は――」

「何も言わなくていいわ。あなたが勝ったのは事実だもの。ま、私も十分楽しませてもらったから、これまでの件は水に流してあげる。水着だけに」

「……」

「笑いなさい」

「何も言わなくていいって言ったのに!?」

「あなたが変に気の利いたことを言おうとした雰囲気を感じたのよ。そういうタイプでもないのだから、勝ってよかった万歳――って感じでアホみたいに喜びなさい」

「や、やっぱり勝った気がしない……」

「――いや、どうあれ私達の勝利だ」


 レインの言葉を否定したのは、リースであった。


「全く、こんな強い相手に決闘を挑むなんて、レインはバカよね」

「本当よ。しかも勝つ算段もないなんて!」

「まあ、結果的に勝てたのですからよかったのではないでしょうか」


 シトリアがフォローを入れてくれたが、それ以外のメンバーからの評価は散々だった。

 けれど、リースの言う通り、何とか勝てたことは事実だ。一先ず、ここは素直に喜んで――


「ンフフッ、まさか、これで終わりだと思ってないでしょうね?」

「っ!」


 五人の前に再び姿を現したのは、一人の変態――ではなく、マクスであった。

 ボロボロになりながらも、彼の水着はまだ健在であり、すなわち失格にはなっていない。

 しかも、フレメアと手を組んでいるわけでもない、純粋な参加者の一人だ。


「まだこいつ残ってたのね」

「まさか、あれで生きているとは」

「……殺すような真似したの?」


 驚くリースの言葉に、エリィが若干引き気味な表情を見せた。

 センも呆れた様子でマクスを見ているが、やはり鍛えられた肉体を持つ男。簡単に脱落するような相手ではなかったようだ。

 しかし、状況はかなりよくない。

 エリィはすでに戦闘を続けられる状態になく、リースとセンだってかなり疲労しているはずだ。

 まともに戦えるのは、シトリアとレインの二人と言ったところか。


「では、私がお相手しましょう」

「え、シトリア……!?」


 レインが動くよりも早く、前に出たのはシトリアだった。


「レインさんが下手に動けば、水着を失って失格になりそうですし」

「地味に辛辣……!」

「それに、私だけまだまともに戦っていませんし」


 そう言われると、シトリアには主に守りをメインに担当してもらっているから、戦いという戦いはしていないのかもしれない。

 レインとしては、守ってくれるだけで十分にありがたいのだが。


「あら、あなたがお相手? アタシはそこのレインと戦いたいの。邪魔者はすっこんでいてくれる?」

「邪魔者はあなたの方ですよ。私達、今は勝利の余韻に浸りたい時間なんです」

「勝利の余韻? ハンッ、それはアタシに勝ってから浸りなさいッ!」

「では、そうさせていただきます。『聖鎧重装』――」


 シトリアの身が光で包まれる――以前、全身を鎧で包んだ白銀の騎士の姿になった時の魔法だ。確か、魔力の塊で身を包んでいるという。


「『強制解除フルバースト』」

「ぎゃあああああああっ!」


 そして、次に聞こえてきたのはマクスの断末魔であった。

 シトリアが光の鎧に包まれた瞬間、それがすぐに解除され、まるで砲弾のようにマクスへと襲い掛かったのだ。

 あまりの速さに避けることもできず、マクスはシトリアが放った『鎧の残骸』によってボコボコにされ、落下していく。


「え、えええええ……!? そういう攻撃ありなの……!?」

「いわゆる初見殺しですね。『聖鎧重装』自体、魔力の消費が激しいので。そのまま殴り合ってもよかったのですが――まあ、落としても勝ちなので」


 さらりとそんなことを言い放つシトリア。……マクスにとっては相手が悪かった、という他にはないかもしれない。


『何やら一悶着ありましたが、今度こそ決着――ん?』


 実況が何かに気付いたように声を漏らす。まだ他に生き残った選手がいるのか、と見渡すが、どうやらそうではないらしい。

 会場全体を影が覆い――その場にいた全員が把握した。上空に、『何か』がいる、と。


「面白そうなのが寄って来たわね」


 ポツリと、フレメアが呟くように言う。

 この状況では、全く面白そうには見えない。――太陽を覆い隠すように、巨大な魔物が天を舞っていたのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 魔物の攻撃で水着だけ溶けるに一票!
[良い点] レインちゃんが結局脱がせられるに一票。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ