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84/103

84.因縁の

「アタシの肉体美に勝てるものはいないのよォ! 《情熱に燃える赤い炎》ッ!」


 そう言い放ったマクスの身体が赤く燃える。

 火の属性を身に纏って、周囲にやってきた選手達に攻撃を加える。

 早い話、炎属性を身に纏った魔法攻撃であり、ああいう名前の魔法は存在しない。

 だが、その威力はすさまじい。

 氷でできた船を溶かし始め、周囲にいた選手を一掃する。

 リースが跳躍して距離を置く。

 レインは縛られた状態のまま、センに抱えられる形でその場から離れた。


「いや、そろそろ解いてほしいんだけど!」

「仕方ないわね。今解くから待ってなさい」


 センがそう言ってレインの縄を解き始める。

 その間にも、状況は刻一刻と変化していた。

 剣を持った選手が数人、センとレインに向かってやってくる。

 センが再びレインを抱えて、その場から跳躍する。


「あ……!?」


 襲ってきた選手の一人が、驚きの声を上げた。

 自身の付けていた水着が――その場ではらりと落ちたのだから。

 センの手には、すでに剣が握られている。

 襲ってきた瞬間に、水着だけを切り落としたのだろう。


『水着を切り落とされた選手は失格ですよー! 水の中にどぼんしてくださいっ』

『水着大会において水着を脱がされるのはすなわち、戦場において刀を折られることと同じこと。然らば、失格となるのも自然だろう』


 実況と解説のそんな話が耳に届く。


(水着大会で脱がされると負けって……え、じゃあ脱がそうとしてくるってこと?)


 レインはそこで、ようやく大会において自身がもっとも危惧すべきルールを理解する。

 水着大会に負けるということは、すなわちここで脱がされるということである。

 そうなると、レインは自身の裸をここで晒すことになるのだ。

 大勢が見ている場で――レインにとって、それは決して許されることではない。


「ちっ、さすがにこの状況じゃ解けないわね」

「いや、センが剣を使えば余裕でしょ!」

「あ、そっか」


 ポンッと納得したように手を叩くセン。

 センがレインを再び下ろすと、剣を軽く振るう。

 曲がりなりにも剣士として優秀なセン。

 縄だけを切ることくらい造作もないことだろう。


「あ」

「え、何その『あ』って声は!?」

「大丈夫よ、レイン。肩のところちょっと切っただけだから」

「切ったって――ちょ、切れてる!?」


 肌が傷ついた、それくらいならレインは気にしない。

 重要なのは、水着の左肩の部分が切れたということだ。

 ペロンと垂れて、素肌が露わになる。

 慌てて右手で抑え込む。

 幸い、他の箇所が切れているわけではないようだ。

 ルール上、水着が脱げれば失格にはなる。

 一部が切れただけならば失格にはならないのだが――


(何もしてないのにちょっと脱げそうになるなんて……!)


 まさかの味方であるセンのミスによって若干追い詰められたレイン。

 てへっ、という表情で舌を出すセンに少し苛立ちながらも、やってくる選手達を見てセンの後方へと隠れる。


「と、とりあえず僕は魔法で援護するから、やってくる人達の相手は頼むよ!」

「そこはお姉さんに任せなさい――と言いたいところだけど、どうやらそういうわけにもいかないみたいね」

「……え?」


 センの視線の先――そこにいたのは、同じく剣を構えるエイナの姿だった。

 姉と妹、戦場で向き合う二人がやることは一つ。


「こんなに早く失格になっていいの? 姉さん」

「調子に乗るなよ、セン。私も強くなった……お前を倒せるほどにな」

「あら、いいじゃない。それなら是非見せてほしいわね」


 すっかりやる気になってしまったセンとエイナ。

 エイナの後に続くように選手達も構えるが、


「邪魔だ。私とセンの戦いの間に入ってくるな」


 一瞬で、周囲にいた選手達の水着が切り落とされる。

 どうやらこの作戦はエイナの本意ではないらしい。

 幸か不幸か、エイナのおかげで迫りくる危機を回避できた。


「――うふふっ、仕方ない子よね。そうなると、私の相手はあなたということになるのかしら。レイン」

「……!? 師匠……!」


 背後からやってきたのは、《水の竜》に乗ってやってきたフレメア。

 姉妹対決と、師弟対決が同時に始まる。


(ど、どうやって逃げる……!?)


 ――前に、逃げ切ることを考えるレインだった。

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