81.恒例の作戦会議と
『――というわけで、全員の準備が整ったようなので、いよいよレースの開始となりまーす! はいはーい! 水着姿の私に注目するのもいいけど、コースに注目してね!』
アシュリーの宣言と共に、レースが開始されようとしていた。
多くの参加者は魔法によって作り出した船に乗っている。
基本的には木造だが――中には二本足のゴーレムを作り出している者までいた。
ある意味、転覆するような心配はないだろうが、レースとしてはどうなのだろう――そんな疑問もレインが感じていると、
『ちなみにレースは妨害ありです! みなさん張り切っていきましょうね!』
『うむ。如何なる状況においても冷静な判断力が必要となる。それが水着レースなのだ』
アシュリーと解説のトキゾウがそんなことを言う。
「いや妨害ありって……」
「まあそうなるだろうな」
「そうよね。レースだもの」
リースとセンは冷静にそんなことを口にする。
二人は氷で作り出した船首に立つ。
水着姿の女性二人のはずなのに、何故かレイン以上に男らしく見える。
水着を着て恥ずかしそうにしているのがレインを含め少数というところも大きかった。
(大体こんな薄着で大衆の前に出て恥ずかしくないのか……!)
――水着大会に出るメンバーなのだから、当たり前のことではあるが。
そんなことをレインが考えている間にも、リースとセンが作戦を考え始める。
「どうする? 妨害がありなら船に乗り込むか?」
「乱戦上等――と言いたいところだけど、わたしはあまり乗り気になれないわ。それってつまり、妨害して勝つってことでしょ?」
「そういうレースだろう?」
「違うでしょ。妨害しあうようなレースをする気はないの。参加者が追い付けないくらい最速でいくっていう方法もあるでしょ?」
「本気のレース、というわけか」
「レインだってそっちの方がいいでしょ?」
「え? あ、うん」
話半分だったレインはこくりと頷いて答える。
割と妨害するのに乗り気だったレインだったが、パーティの戦闘狂だった二人が意外にも戦わないという選択をした。
ある意味勝ちにこだわっているとも言えるだろう。
(僕としては勝てればいいけどさ……)
「でも、速度なんて出せるの? 僕達の船は他の参加者に比べても大きいけど」
「うちの加速装置を使う時が来たのよ」
「加速装置……?」
「私の妹に変なあだ名をつけるな」
「え? 妹って……エリィのこと?」
「エリィ! こういう時こそ炎の魔法よね!」
「え、あたし?」
エリィも名指しされるとは思っていなかったらしく、少し驚いた表情で答える。
「エリィの炎の魔法の勢いで一位を取りに行くわよ!」
「ええ!? それって大丈夫なの……!?」
センの言葉を聞いて、レインはようやく理解する。
船尾にエリィを配置して、炎の魔法を利用して加速しようと言うのだ。
実際他の船を見ていると、船尾で構えている者や帆を張って構えている者もいる。
魔法による加速という判断はどうやら参加者で共通しているようだった。
「エリィは魔導師としても優秀だから、他の参加者にも引けは取らないはずよ」
「まあ、その点については賛成だ。エリィは優秀だからな」
若干シスコンを見せるリースに対して、レインはあまり乗り気にはなれなかった。
「いや、それはそうかもしれないけどさ……」
「なに? また女々しいことでも言うつもり?」
「まだ何も言ってないだろ!」
「レインさん、挑発に乗ってはいけませんよ」
センの言葉に反論しようとしたレインを制したのは、シトリアだった。
センとレインの間に割って入り、センの前に立つ。
「あら、シトリアも反対派?」
「いえ、賛成派です」
「え、そうなの!?」
同じように反対してくれるのかと思ったがそんなことはなく、くるりとシトリアは反転してレインの方を向く。
「いいですか、レインさん。今回の件については追い詰められてからなりふり構っていられない――みたいな状況を作るわけにはいかないんです」
「そ、それは……」
「いつもレインさんは散々迷った挙句に何とか切り抜けてきた、そう思っているかもしれませんが、レインさん一人だと正直生きているかも怪しいのは事実だと思います」
「わ、分かってるけど」
「けどではなく、今回は勝つための方法を取りましょう。迷っている暇はありませんよ」
「……はい」
粛々とシトリアに怒られるような形となり、レインも同意した。
そんなシトリアの姿に驚いた表情を見せるのは、リースとセンだ。
「どうした、シトリア。君らしくないな」
「そうね。反対派の方がまだ自然だったわ」
「レースはもうすぐ始まりますからね。少なくとも、私はセンさんもレインさんもパーティから失うようなことは避けたいと思っているんですよ?」
微笑みながらそう答えるシトリア。
(シトリア……なんだかんだ言っても心配してくれてるのか)
やはりこのパーティにて唯一の良心と言っていいのかもしれない――
「いじる相手がいなくなるものね」
「はい」
「台無しだよ!」
「そもそもあたしもやるって言ってないんだけど……」
いい話風にまとまるかと思ったが、決してそんなことはなかった。
この後、渋々エリィも合意したことにより、一応はレースでの方向性は決定したことになる。
――ダントツでの一位を狙う。
ある意味、《紅天》らしい選択だった。




