表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/103

65.再び毒の湿地へ

「ふぅん、それで猫耳と尻尾がね……」

「うん……」

「確かに本当に生えてるみたいね」

「あ、あの……それ本当にダメにゃんだけど……」

「それってどれ?」


 猫カフェを出た後、レインとエリィは路地裏の方にやってきていた。

 半信半疑だったエリィも、レインの猫耳と尻尾を見て納得したようだった。

 ただ、先ほどからエリィがマタタビをレインの方に向けてくる。

 身体が思わずそれに反応してしまっていた。


「これ振るたびに耳と尻尾が反応するわけね」

「た、確かめにゃくていいから……!」

「そうね、大体話は分かったわ」


 エリィが懐にマタタビをしまう。

 ようやく落ち着いて話をする事ができそうだった。


「とりあえず、その猫耳と尻尾をどうにかするために調査するって事でいいの?」

「うん。シトリアとはエリィと合流したら《キシュール図書館》で待ち合わせる約束をしてる」

「図書館? あ、戻し方を調べるって事ね」

「にゃんか心当たりがあるにゃらエリィからも聞こうって感じだけど……」

「その話し方はどうにかならないの?」

「にゃらにゃい……」


 レインも何とか努力はしているが、基本的に話し方についてはどうしようもない。

 意識しても「な」が「にゃ」になってしまうのだから。


「ま、残念だけどあたしも戻し方とかそういうのには詳しくない」

「そうだよね……」

「図書館で調べるっていうのが正攻法でしょ。協力する分には問題ないわ」

「ほんと?」

「別に拒否する理由はないじゃない。あんたの自業自得だったとしても」

「うっ、それを言われるとそうにゃんだけど……」


 エリィの言葉が胸に突き刺さる。

 ――とはいえ、レインはレインで元に戻るという重要な目標があるのだ。

 まさかの男に戻る前に、普通の人間に戻るという謎の目標を達成しなければならなくなってしまったが。

 レインとエリィは一先ずシトリアと約束している図書館へと向かった。

 町にある図書館は全部で三つ――そのうち町の北東に位置するのがキシュール図書館だ。

 魔法薬に関しての一般的な知識についての本など、取り揃えられている本は多岐に渡る。

 まだシトリアは図書館には到着していなかった。

 図書館内には魔導師と思われる者から武装した冒険者まで様々な人が利用している。

 ローブで身を隠した状態のレインは、そそくさとエリィと共に人気のない場所に移動していく。


「色々とありすぎてどこ見ればいいのか分からないわね」

「一応、魔物から抽出した薬の副作用だから……魔法薬と魔物についての本が無難だと思う」

「それならあたしは魔物について調べるわ。薬を作ったのはあんただから、そっちの本を調べて」

「うん、分かった」


 こうして二手に分かれて調べ始めたレインとエリィだったが、魔物の本に関しても数種類以上存在している。

 それに書かれている事からではそれほど多くの情報は得られない。

 一方のレインも、魔法薬の消し方についての調査をするが、一般的な方法しか基本的には書かれていない。


「にゃかにゃかにゃいね……」

「ま、そう簡単に見つかるとは思ってないけど。もう戻るの諦めたら?」

「諦めるの早くにゃい!?」

「あたしも魔法薬に詳しいわけじゃないけど、効果時間っていうのは存在するわけでしょ」

「そ、それはそうだけど……」

「水着大会まであと一週間――それまでに戻れるかどうか分からないけど、いっそそのまま出た方が勝てる確率もあがるかもしれないし」

「みんにゃそれ言うよね……」


 シトリアも同じような事を言っていた。

 水着姿で人前に出るだけでも難色を示しているレインにとって、さらに猫耳尻尾の姿で出るというのは最早選択肢としてはあり得ないものだった。

 意地でも戻る方法を探す――レインはさらに詳しく魔法薬について書かれている本を探す。

 主に強い効果を持つ魔法薬を打ち消す方法について、だ。

 そこに、シトリアも合流してくる。


「無事合流できたんですね」

「あ、シトリア」

「こういう調べ物ならあたしだけじゃなくてセンとリースにも頼めばいいじゃない」

「エリィさん。私は常識人を選出したつもりです」

「常識人って……一応リースはあたしの姉なんだけど」

「エリィさんから見て、リースさんは常識人ですか?」

「……」

「む、無言にゃの……?」


 エリィから見ても、少なくとも調べ物に関してはセンとリースは戦力外という事らしい。

 実際、あの二人はパーティにおける近接戦闘を担当しており、主に戦術については毎回話しあっているが、結局ゴリ押しの面が強い。

 こういう事に関しては後衛三人だけで調べる方がむしろ早く済むとシトリアは考えているようだった。

 センについては――もはやレインの邪魔にしかならないと判断されているようだが。


「さて、どこまで調べていますか?」

「あたしは魔物に関して。レインは魔法薬について、ね」

「一応上から二段目くらいまでの本は一通り読んだけど」

「中々の速読具合ですが、具体的な解決策は見当たっていないと」

「そう、だね……」


 シトリアが来るまでに得られた成果はほとんどない。

 魔法薬を打ち消すのに特化した魔物についての情報はあったが、この近辺には生息していないタイプの魔物だった。


「これが近くにいれば探すのもありだとは思うけど」

「《マルボア》ですか」


 身体が丸っこい猪の魔物――毒の沼でも通り抜ける事ができるという高い耐性を持つ魔物だが、この付近での目撃情報はない。

 だが、シトリアは何かに気付いたようにポンッと手を叩く。


「耐性という事であれば、似た生息地にいる魔物であればいけるかもしれませんね」

「似た生息地って……あ」


 レインもシトリアの言葉を聞いて気付く。

 一度、シトリアと二人だけで言った事もある場所だ。

《毒の湿地》――ここからさほど距離もなく辿り着く事ができる。

 ただ、あそこではそもそも魔物を目撃する機会がほとんどない。


「棲息してる魔物が毒を持ってる可能性だってあるじゃない」

「以前申し上げた通り、レインさんは毒などには高い耐性を持っています。私が保護する必要はないくらいには」

「耐性はあるのに猫耳と尻尾は生えるのね」

「そ、そんにゃ事言われても……」

「キノコも生えますが」

「!? それは忘れて!」


 以前あった事件について触れたシトリアだったが、自分で触れておいて「ふふっ」と軽く笑うあたり意地悪だった。

 エリィも思い出してか、笑うのを我慢しているような仕草を見せる。


「お二方が調べた限りで見当たらないのであれば、ここにいつまでもいるよりは毒の湿地で魔物を探した方が効率がいいと思います」

「うん、そうだね。それにゃら早くそっちの方に行こう!」

「待ってよ。外に出るのはいいけど、三人だけで行くの?」

「以前レインさんと二人だけで行きましたが、特に問題はありませんでしたよ」

「それならいいけど……ま、そもそも人数多く行く方がリスクもあがるか」


 シトリアの魔法で保護しなければならない対象が増える――それだけで、毒の湿地を歩くのにはリスクが増える。

 ゆえに、後衛職しかいない状態でもレインを含めた三人で行く方がいいと思われた。

 レイン達は、毒に耐性を持つ魔物を探すために毒の湿地へと向かう事になった。

一カ月後くらいまではスローペースになるかと思います。

申し訳ないです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ