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61.知っていても知らなくてもやる事は同じ

「ど、どどどうしよう!?」


 物凄い慌てようのレインに対して、シトリアはどこまでも冷静だった。

 センの声色からして酔っぱらっている。

 それもかなり、だ。

 それならば、それほど活動時間は長くない。

 眠ってしまえば次に起きた時は二日酔いになっているだろう。


「レインさん、部屋のどこかに隠れてください」

「隠れるって言われても……あっ」


 レインが何か思い立ったらしい。

 シトリアがその隙に部屋の外に出る。

 丁度、センがシトリアに気付いた。


「シトリア一人ぃ?」

「はい。おかえりなさい、センさん」

「ただいまーっ! ひっく」

「……随分酔っていらっしゃるようですが」

「それがねえ……樽のみ競争とかいうお洒落な祭りやってたのよぉ」


 樽のみ大会のどこにお洒落要素があるか分からないが、少なくともセンが出掛けた理由とはまるで違う事だけは分かった。

 おそらく出かける途中でその祭りに出くわし、勢いのまま参加して帰ってきてしまったのだろう。

 センはちらりと、シトリアの後ろの部屋のドアを見る。

 やはり、センが酔っている時に絡む可能性が高いのはレインだった。


「レインは?」

「用事があるらしく、出掛けていました」

「ふぅん……」


 一先ずは嘘をつく。

 これで凌げれば御の字だが、センは目を細めてシトリアに言った。


「人の気配はするけどなぁ、お姉さんそういうの察知できちゃうから」

(酔っていても分かりますか……)


 レインに気配を完全に消せ、というのは酷な話である。

 少なくとも、セン相手に扉一枚程度では隠れるのは不可能だった。

 センはシトリアの横を抜けると、そのままレインの部屋に突入する。


「レイン! 遊びにきたわ! あら?」


 バンッと思い切り扉を開くが、そこにレインの姿はない。

 シトリアもちらりと部屋を見る。


(何か思い付いたようでしたし……上手く隠れたよう――)


 シトリアの視線が部屋の隅に移った瞬間、その考えは吹き飛んだ。

 隅には黒い箱がある。

 丁度、身体を丸めれば人が入れるくらいのサイズだ。

 持ち手の部分に穴が空いていて、一見すると物入れか何かに使う箱なのだろう、と。

 だが、その持ち手の部分から白い尻尾がはみ出していた。


(どう見てもレインさんですね……)


 さすがのシトリアも動揺した。

 何をもってあれで隠れたと思えるのだろうか、とレインの事が心配になった。


(動揺しすぎて……? それとも実はセンさんにいじってほしいとか……?)


 シトリアの中でレインドM説が浮上していく中、箱の中のレインは勝ち誇っていた。


(ふっ、この箱があってよかった!)


 レインが自信を持つのも無理はない。

 この箱は一見するとただの箱だが、全身を包み込む事で相手から見つからなくなる優れものの魔道具だった。

 ただし、匂い等は消せないため状況は限定される。

 さすがのセンも匂いでレインを判別はしないだろう。


「あの箱なに?」

「っ!?」

(なっ、ばかな!?)


 びくっとレインの身体が震える。

 見えるはずのないものがセンには見えている。

 まさか魔道具が壊れているのかとも思ったが、


「さあ、何でしょうか」

「白い尻尾が出てるじゃない」

(尻尾ぉ……!)


 今のレインから生えている白い尻尾も身体の一部という判定らしい。

 レイン自身、尻尾が生えたてのために感覚がよく分かっていなかった。

 触れられると敏感だが、通常時は気にならないのだ。


「そう言えば、レインさんが素材を集めていたのでその一つでは?」

「素材ぃ? なんの?」

「さあ……レインさんは魔導師ですし。ともかく、部屋にはいらっしゃらないので」


 シトリアが何とかフォローを入れて部屋から出そうとする。

 レインは箱の中でただただセンが過ぎ去るのを待った。


(こ、このまま動かなければ大丈夫……っ!)


 そんなはずもなかった。


「へえ、なかなか上質そうな毛並みじゃないの」

「あっ、センさん。お待ちください!」

「いないから勝手に入ってもセーフよ」


 シトリアの制止の声も聞かず、センが尻尾に触れた。

 ドンッ、と思い切り箱が揺れる。


「んー、何? 今の音?」

「さ、さあ……」


 かなり酔っぱらっているらしく、センは箱が動いた事に気付いていない。

 だが、尻尾を乱暴にこねくり回しているのを見て、シトリアの表情も引きつる。


「これすごく柔らかいわ! ほしいんだけど。引きちぎったらレイン怒るかしら?」

「たぶんマジギレしますね……」

「そうよねえ。短気だし。そうだ、シトリアも触ったら?」

「私は遠慮しておきます」

「えー、こんなに柔らかいのに。心なしか動いてる気もするわ」

「き、気のせいでは……?」

(先ほどのソフトタッチであの反応……つまり、今は拷問レベルの状態では……?)


 そんな冷静な分析は完全に当てはまっているのだが、逆に強くいじっている事が幸いした。

 刺激が強すぎてレインは動けなくなっていた。

 ただ、それにも限界はある。


「……っ、ふっ……!」

(も、もう無理……っ!)


 カタカタ揺れる箱がそれを物語るが、ここでようやくセンが尻尾を離して立ち上がる。


「やばい、吐くかも」

「洗面所へどうぞ」


 サッとシトリアがセンを案内する。

 一先ず危機は去った。

 早急にレインと共にここから脱出しようとシトリアがレインに駆け寄る。


「レインさん、大丈夫ですか?」

「にゃ、にゃんとか……」

「それではすぐに出ますよ」

「ま、待って……腰が……」


 まさかの腰が抜けたという宣言を受けて、シトリアは小さくため息をつく。

 酔っぱらいの悪魔から受けた拷問のダメージは大きかった。

 ただ、何とかセンにはばれずに二人は外へと出る事ができたのだった。

 そこに、第二波がいるとは思わずに。


「ん、二人ともこれから出掛けか――って、随分体調が悪そうじゃないか。大丈夫か、レイン」


 心配そうな表情でやってきたのは、常識人の皮を被った女好きだった。

ネタを考えている間に息抜きでTSの新作始めてしまいましたので、軽い読み物程度にお暇があればそちらもどうぞ。

弱いけど幸運な主人公なのでこちらとは正反対……? かと思いましたが、最近こちらは強い要素出てなくないですかと自分で思ってしまいました。

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[良い点] 語彙なくなくって「よい…よい……」しか言葉が出ません
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