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53/103

53.戦線離脱

 捕まったままのレインは、その様子を見る事しかできなかった。

 リースとセンが構える。

 対峙するのはフレメア――水の球体が彼女の周囲に出現する。

 相変わらず、二人はどんな相手だろうとやる事は変わらない。


「どう攻める?」

「がっつり対人戦って久しぶりなのよね――あ、姉さん含めるとそうでもないか」

「君は逃げていたんじゃないのか?」

「そりゃあ追いつかれたら迎撃はするでしょ」

「まあ、君ならそうするか」

「それよりも作戦、でしょ?」

「そうだな……まずは――」


 そう話始める瞬間に、リースが動いた。

 床を蹴ると同時に、フレメアの眼前に迫る。

 槍を振るいながら、フレメアの喉元に槍を突き付けようとするが、


「残念。不意打ちは無理よ」


 ドォンと球体から水のカッターが放出される。

 リースは後方へと跳び、それを回避した。

 今度はセンが仕掛ける。

 センは――天井にいた。

 トンッと一瞬だけ張り付くと、鞘ごと剣を振るう。

 頭部の部分を狙って、剣を振るった。

 できる事ならば気絶させて戦いを終わらせる――それが理想的だと踏んだらしいが、フレメアは甘くない。

 フレメアの顔の横に水の壁が出来上がると、それがセンの攻撃を防ぐ。


「――っ!」

「ふふっ、通らないわ」


 センとリースが再びフレメアと対峙する。

 すぐに二人はまた動いた。

 フレメアの左右から同時に攻撃を仕掛けるが、周囲を舞う水の球体がそれを阻む。

 攻撃と防御を兼ね備えた戦闘スタイル――それがフレメアの戦い方だ。


「ちっ、魔導師の相手は面倒だな」

「わたし達魔法は苦手なのよね」

「ふふっ、なら諦めたらどうかしら」

「そうは――」

「いかないでしょ!」


 今度はセンが剣を抜いた。

 スッと床に剣を刺したかと思えば、センはその剣を思い切り振りあげる。

 風を切るような音と共に、床が割れていく。

 レインの頭の少し上の部分まで、その斬撃は届いた。


「《奔り斬り》――こんな小手先の技は魔物相手には使えないけどね」

「そんな技を使ってどうするの?」

「拘束具くらいは斬れるわ」


 レインの腕の部分にあった鎖に直撃し、切断した。

 そんな技をセンが持っていた事が驚きだったが、続けざまにもう一度放つ。

 今度は足の部分の鎖を切断する。


「レインを逃がす作戦かしら」

「元々それが目的だからな」


 リースがフレメアの前に立つ。

 今度の槍の振るい方は――止めるつもりなどない。

 全力でフレメアに向かって刺突を繰り返す。

 水の壁がフレメアの前に出来上がり、その攻撃を防ぐ。

 だが、その状態だとフレメアの動きはわずかに鈍る。


「小癪な事をするのね」

「こう見えてそういう勝負は得意な方でね」

「そ、これが作戦っていうわけね」


 その間にセンがレインの前に移動した。

 レインも手が自由になった事で、首輪も含めて全て外す。

 完全に全裸の状態になってしまうが、そこは気にしている場合ではない。

 さっと見えないように大事な部分だけは隠すが、


「今更隠しても意味はないわよ、お姫様」

「えっ……? それってどういう――」

「話は後ね。どういう状況か知りたいところだけど、一先ずは逃げるところね」

「わ、分かってる」


 それと同時に――部屋全体を覆うように水の壁が出来上がった。

 全体を包むようにして全員をこの場から逃がすまいとする。


「レイン、頼むわよ」

「ああっ」


 今度はレインが魔法を使う。

 すぐに、周囲が凍り始める。

 それを見て、フレメアが目を細めた。


「へえ……レイン。これがあなたの力?」

「はい、そうです。今の僕なら、師匠の水魔法にだって対抗できます……っ」

「随分可愛い事言ってくれるのね……私がまだ本気を出していないというのに」


 フレメアが向けてきたのは殺意にも似た視線――ゾクリと背筋が凍るような感覚がした。

 センが即座に行動に出る。

 凍った壁の方に向かって走り出すと、氷ごと壁を斬り裂いた。


「リース! 逃げるわよ!」

「ああ!」

「逃がすとでも――」

「《フリーズ・ショット》!」


 氷の礫をフレメアの足元に向かって飛ばす。

 フレメアの前に再び水の壁が出現した。

 その壁ごと――レインの魔法は凍らせる。


「ナイス、レイン! さ、跳ぶわよ!」

「え、ちょっと僕服とか――」

「いつもの事だ! 気にするな!」

「そ、そんなっ」


 そういう事を言っている場合ではないのだろうが、結局迷っている暇もない。

 センとリースが宿から飛び出すと同時に――


「見つけたぞ、セン!」

「げ、姉さんこのタイミング!? ――リース、パス!」

「え、ちょ!?」


 空中でレインを投げるという荒技に出たセン。

 だが、そこはSランクとAランクの冒険者――しっかりとパスの連携は取れていた。

 リースはレインを抱えて、


「引き受けた!」


 リースが着地すると同時に、そのまま走り出す。

 レインは後方を確認する。

 センとエイナが剣を交えているのが見え、宿からはフレメアがこちらを見下ろしているのが見えた。

 追ってくる様子はない。


「シトリアとエリィもおそらくは脱出しているだろう。このまま拠点の方まで逃げるぞ」

「あの、服とか……」

「そんなものはない」

「……だよね」

「心配するな。建物の上を移動するくらい、私なら造作もない」


 リースはそう言うと、地面を蹴って家の屋根に着地した。

 この辺りの身体能力はさすがだと思う。

 気を使ってくれるのも、リースだからだろう。

 このまま抱えていたのがセンだったら、迷わずに真っ直ぐ町中を抜けていたかもしれない。


「それで、レイン。この後はどうする?」

「え、この後って……?」

「フレメアはこの町にいるんだから、また君が狙われるだろう。何か対策はないのか?」

「そう言われても――いや、何かしないといけないのは分かってる」


 そもそも、狙われたというかフレメアはあくまでレインと話すつもりで来たのだろう。

 過激になりやすいのが彼女の性格だが、何とか落ち着いた場所で話せればいいのだが。


「まあいい。まずは拠点に戻るぞ」

「う、うん」


 レインは頷く。

 リースはそのまま、建物の上を伝って移動していく。

 何とかレインは助け出されたのだった。


   ***


 レインとリースが去った後を、フレメアは見据えていた。

 途轍もない魔力によって、フレメアの水の魔法が凍らされた。

 レインは想像以上の力を持っている――しかも、女の子になった状態で。


「うふふっ、楽しくなってきたわねぇ」


 宿の方も半壊しているが、この程度弁償する事はフレメアにとっては難しい事ではない。

 パチンッと指を鳴らすと、周囲の氷が次々と砕け散っていった。

 下を見ると、センとエイナが戦っていた


「エイナ」

「なんだ、フレメア!」


 鍔迫り合いになりながら、ちらりとエイナがフレメアの方を見る。

 その表情を見てか、エイナが一度センと距離を取った。


「おまえを連れ戻したいのは山々だが……こちらも仕事ができた」

「仕事……? それって、レインの事?」

「あの子はレインというのだな」


 ちらりとセンもまた、フレメアの方を見上げてくる。

 フレメアは笑顔で返すが、センは特に反応もなく、


「だったら今度は、わたしが姉さんを狙う番かしら」

「なに――」


 センがその場から距離を取る。

 一度は撤退をするようだ。


「レインはうちのパーティメンバーだから。狙うっていうのならわたし達が相手になるわ」


 そう言い残して、姿を消した。

 Sランクの冒険者としての実力はあるだろう。

 フレメアとエイナもまたSランクの冒険者ではあるが、エイナはセンを一度取り逃がし、フレメアはレインを奪還されている。

 エイナがフレメアのところまでやってくる。


「どうするつもりなのだ。紅天というパーティの場所は分かっているが」

「別に、どうもしないわ」

「なに? ならばなぜ止めた」

「あなた達がいつまでやり合っても終わらないからよ」

「それは……」

「どのみち、レインも私から逃げられるとは思っていないわ。そうなると、何かしら提案してくるかもしれないわね」

「提案?」

「そ、だからこちらも考えておきましょう」


 フレメアはそう言って、くるりと反転して部屋に戻る。

 破壊された壁は、フレメアの操る水の魔法によって修復が開始されていた。

 もちろん、ひび割れた部分が戻るわけではないが、壁としての役割は果たしている。

 何事もなかったかのような静けさだけが、そこには残った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 理不尽なパワーが物騒すぎる…こわいですね…
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