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死者の蠢く世界で  作者: 三木 靖也
百折不撓
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後悔

「俺は帝国のスパイだった。……いや、スパイチームの一員だったんだ。」


「チーム……。」


「あぁ。俺と智樹と瀬奈。俺たちは世界が終ったあの日の前からずっと一緒だった。俺と瀬奈は付き合っていて、智樹はまるで兄のような奴だった。だが、帝国が智樹を変えてしまった……。」


和久井は胸ポケットから一枚の写真を取り出した。


そこには、三人の人がとびきりの笑顔で写っていた。


恐らく、一番左が和久井で、中央の女の子が瀬奈、そして一番右の男が智樹なのだろう。


「俺たちは大阪の大学であの日を迎えた。その直後に、岸沢から招かれたんだ。『私たちの仲間にならないか』とな……。俺たちは岸沢を尊敬していた。だが、智樹は異常だった。あいつは狂ったほどの忠誠を誓っていた。俺たちでスパイチームが作られると聞いた時も、これで岸沢閣下の役に立てるといきり立っていた。そして、俺の転機が訪れた。」


「転機?」


「そうだ。俺たちは東北の基地に潜入し、ある情報を盗み出した。それは、この今行われてる奇襲作戦についてだ。」


和久井は煙草に火をつけると、それを咥えて再び語りだす。


「俺と瀬奈は帝国に疑問を抱いていた。その主義に。在り方に。だから、いっそこの機会に帝国は滅ぼされた方がいいのかもしれない、と。だから俺と瀬奈は智樹にそれを伝えた。……あの時ああしていなかったら…。いや、後悔するのはよくないな。俺たちは智樹にそのことを伝えた。すると智樹は怒り狂い、天誅と称して俺に銃を向け、撃った。俺は死んだと思ったが、死ななかった。瀬奈が……俺の盾になった。」


和久井は煙草を地面に押し付け、ウイルスの浸食による痛みに歯を食いしばりながら語りだす。


「瀬奈は即死だった。俺は雄たけびをあげて智樹を撃ち殺した。そして、一人取り残された俺は、車に二人の遺体を乗せ、川に捨てて放浪の旅に出た。そこで大関……だったか。あいつに出くわしたんだ。」


悠斗はなぜ今までこんなに他人なのに麗香の救出に手を貸してくれるのかわからなかった。


だが、今のではっきりわかった。


和久井はやり直したかったのだ。


麗香と瀬奈を重ね合わせることで。そして、助けることでわずかでも贖罪をしようと思ったのだ。


その直後、カエルがこちらを見つけて、奇怪な声を上げる。


「悠斗、行け!こいつは俺が何とかする。」


「でも!」


「うっせぇ!俺は不死身なんだよ!後から必ず行くから行け!」


ここでいかなければ和久井の思いを無駄にしてしまう。


「……わかりました。では……お元気で!」


大きく敬礼をする。


和久井が敬礼で返したのを見届けると、悠斗は駆け出した。


涙を振り払いながら。












「さぁ……てと。」


和久井の左手がぐじゅぐじゅと蠢き、触手で編みこまれた新しい腕を形成した。


じっとカエルを見据える。


カエルは物珍しそうにこちらを見ている。


「始めるか!」


右手で拳銃を撃つ。


数発がカエルの頭を捉えるが、一向に意に介さない。


「だったら!」


和久井が走り出す。


カエルがそれに反応し、舌を突き刺してくる。


それを左手で握りつぶすと、


急接近する。


「ッおおおおおおおお!!!」


カエルから放たれるもう一本の舌が和久井の心臓を貫く。


それでも。


「喰らえッ!」


触手により編みこまれた強靭な手をカエルの頭に打ちつける。


ミシミシという音がして、カエルの頭がひしゃげる。


だが、和久井の腕ごとその傷を治してしまった。


カエルの頭に和久井の腕が突き刺さっているまま治ってしまったため、腕が抜けない。


カエルが勝ち誇ったように声を漏らす。


だが、和久井は余裕の表情を浮かべていた。


「いくらバケモンでも……核はあるだろッ!!!」


そして、カエルの頭の中で手榴弾が炸裂した。


「グギゲェェェ!」


カエルが地面をのた打ち回り、やがて動かなくなった。


「へ、へへ……やったぜ。」


その場にへたり込む。


だが、周りがそうさせてはくれない。


「いたぞ!バケモンだ!」


帝国の兵士が数十名駆けつけてくる。


「一服くらいさせてくれよ……。」


そういって煙草に火をつけ、まっすぐ兵士たちを見つめる。


「回復能力がどれほどのもんか知らねぇが……。いや、正気がどんだけ持つのかもわからねぇが……。少なくとも囮にはなれるか。」


和久井は銃弾の雨の中を走り続けた。


その頭の中に、瀬奈との思い出を思い返しながら。





























次回もお楽しみに。

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