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ILIAD ~幻影の彼方~  作者: 夙多史
Episode-12
92/119

091 これからの旅

「――なるほど、あいつはそんなことを考えていたのか。まったく、どうしようもない」

 腕組をしたままセトルの話を聞いていたアトリーはやれやれというように首を振る。ウルドも彼に同意して頷く。

「そうだな。行動を起こすにしても、もう少し見てからでもよかったはずだ」

 この話はその場で行ったため、ウートガルザ王も聞いていた。ロキ王妃はシャルンが去った後、横の扉から出ていったようだ。王は先刻のシャルンのことで頭がいっぱいかと思いきや、彼は完全に頭を切り替えてこの話に耳を傾けていた。流石は王といったところだろう。

「彼らの居場所はわかっているのですか?」

 ウェスターが眼鏡を押さえながら訊くと、しぐれが首を横に振った。

「わかってへんよ。うちらアキナで探ってんねん。見つかったらうちのところにも式神が来るはずや」

「兄さんたちの最終目的地ならわかるよ。僕の故郷〝幻境の村〟テューレン、こっちで言う〝幻影の村〟ミラージュのことだよ」

「でしたら、こちらはあまり動かない方がいいでしょう。ミラージュへ行く方法もわかりませんし。――しばらくは私の邸を使ってくれてかまいません」

 ウェスターのその厚意は、拠点のないセトルたちにとって非常に助かるものである。事情を知らないシャルンの家を拠点にするわけにもいかないし、セトルはどうしようかと考えていたところだ。

 アランがそのウェスター邸の映像を頭の中で蘇らせる。

「あのでかい邸か……。サニー、迷子になるなよ」

「ならないわよ! ……たぶん」

「もう二、三回ほどなってますからね♪」

「うぐ……」

 あまり知られたくないことをウェスターにさらっと言われて、サニーは半歩下がる。

「軍の方でもワースの行方を追うつもりだ。何かわかったら連絡しよう。行くぞ、アトリー」

「ああ、一応『語り部』を捜していてくれませんか。彼の協力が必要になるかもしれません。

「わかった」

 ウルドは了承すると、早速アトリーをつれて謁見の間を後にした。

「ウェスター、お前はどうするんだ?」

 ウートガルザが玉座に座ったまま親友兼相談役のウェスターに尋ねる。

「私は彼らと共に行動するつもりですよ、陛下」

「それがいいだろうな。ウェスター、シャルンのことも頼むぞ」

「わかっていますよ」

 それを確認するとウートガルザは立ち上がり、ロキ王妃と同じように横の扉の奥に消えていった。

「ウェスターが一緒なら心強いね、セトル」

「ああ、うん……そうだね」

 具現招霊術士(スペルシェイパー)であるウェスターが仲間として戦ってくれるのなら、サニーの言う通りこれ以上心強いことはない。それはわかっているのだが、セトルは今さらながら他人を巻き込むことに気が引けている。だから曖昧な返事をしてしまった。

「一度私の邸に向かいましょうか」

 ウェスターが促し、一行は彼の邸へ向かうことにした。シャルンも捜さないといけないだろうが、それはもう少し後からでもいいだろう。


         ☨ ☨ ☨


 シャルンはすぐに見つかった。

 城門の前に立って彼女は海の方を眺めていた。そしてセトルたちが後ろに来たとわかると、彼女は船が往来している海を見詰めたまま口を開く。

「全部、聞いたわ」

 一瞬、何を言っているのかわからなかったが、セトルはすぐに先程謁見の間で話したことだと理解する。出ていったあとすぐに戻ってきたのか、謁見の間の外にずっといたのかわからないが、そこでの会話を聞かれてしまったようだ。

「何を?」

 とぼけるつもりはないが、一応訊いてみた。

「ワースのこと。放って置いたらこの世界がどうなるか、みんながどうなるかを」

「知って、どうします? 我々と共に来ますか? 私としてはそうしてくれた方がありがたいのですが」

 ウェスターは眼鏡の位置を直し、その奥のエメラルドグリーンの瞳に彼女の姿を映す。一緒にいた方がありがたいというのは、王に彼女のことを頼まれたからだろう。

「そうね……。王女の件はソテラと一緒に考えてみたけど、やっぱりすぐに答えは出そうにないわ。だから、またあなたたちと旅をするのも悪くないかもしれないわね」

「ソテラと一緒にって?」

 シャルンの言葉の中に出てきた謎な部分にサニーが小首を傾げる。そこでシャルンはこちらを振り返り、手に持った見覚えのあるイアリングを皆に見せる。それはソテラの形見のイアリングだった。

「村を出るときは、いつも持ってきてるの。持っていると、ソテラが近くにいるような気がするから」

 静かに目を伏せるシャルン。

「答えを出すためにも、一緒にいていいかしら?」

 それが今の彼女の答えだった。アランが即答する。

「もちろんだ! 寧ろ歓迎さ。な、セトル」

「いや、僕は……うん、そうだね」

 少し迷ったが、セトルは仕方ないというように微笑んだ。

「またこの六人で旅できるんやな!」

 しぐれは嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。しかし、これからすることを旅と言っていいのだろうかは疑問だ。実際、しばらくはここから動けないわけだし。

 そんな彼らに知らせが届いたのは、それから数日後のことになる。


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