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ILIAD ~幻影の彼方~  作者: 夙多史
Episode-12
88/119

087 エリエンタール邸

 ある程度の事情を話したところで、セトルたちはシャルンの家へと案内された。彼女は元々ここの住人で、エリエンタール家はこの村を拠点として活動していたらしい。家はその時のものを使っており、外れにある少し大きめなものだった。

 誰も口には出さないが、ボロ屋であることは変わらず、しかも何年も放置していたためか他の家よりもだいぶガタがきている。

 エリエンタール家が大所帯だったことで、セトルたち五人が入ってもまだ広く感じる。

「大体の事情はわかったけど、まだ何か隠してるわね」

 ワースたちのことは彼女に話さなかった。それを見抜かれてそう言われたが、四人とも口をつぐんで何も言わなかった。言えば、巻き込んでしまう。ハーフ全員が必ず犠牲になる道をワースが進もうとしていると言えば、彼女なら一人でも阻止するために動くはずだ。

「まあいいわ。言いたくないなら無理には訊かない」

 シャルンはボロボロの大テーブルに頬杖をついて小さく息を吐く。

「あの戦いの後からずっとここに住んどるん?」

 空気が気まずくなってきたので、しぐれが話題を変える。ええ、とシャルンは頷く。

「ソテラのちゃんとしたお墓も造らないといけなかったし、それに村のみんなが心配だったから」

「でも手紙くらいよこそうぜ」

「そんな余裕ないわよ」

 残念そうに舌打ちしてアランは天井を仰いだ。

 たとえ手紙を出す余裕があったとしても、シャルンは書くつもりはなかった。考えなかったわけではないが、特に書くこともないし、書いてどうするという話だった。

「ソテラのお墓、ここにあるん?」

「この家の裏よ」

「そんなら行ってみるわ。セトルも行こや」

 しぐれは椅子から立ち上がると、セトルの手をとった。セトルも、ああ、とどこか曖昧に頷くと、そのまま立ち上がる。

「アランは?」セトルが訊く。

「俺は……後で行くよ。あんまり大勢で行くのも何かあれだろ」

 アランは少し考えたあと、微笑みを浮かべてセトルの誘いを断った。

「あ、あたしも行く」

 とサニーは三つの意味で墓参りに行くことに決めた。一つは純粋に墓参り。本当に少しの間しか会ってないが、それでもシャルンの友人だから自分にとっても友人のようなもののはずだ。

 二つは、単純にセトルとしぐれだけにはしたくない。

 三つ目は、これも単純にアランとシャルンを二人きりにしてやろうというおせっかいな配慮だ。

「……」

「……」

 三人が出て行ったあとは、会話が途切れて沈黙が続いた。それでもアランは何か言おうとして、とりあえず思いついたことを訊いてみる。

「お前、仇をとった今、目標とか何かやることってあるのか?」

「前にアキナで言ったでしょ? わたしはわたしと同じハーフの人を護りたい。ハーフということで苦しんでいる人を救いたい」

「だからまずはこの村から……ってことか」

 シャルンは頷いた。だが実際、さっきの様子からしてあまりうまくはいっていないようだ。セトルについては混乱していたが、自分たちには明らかな憎悪を向けられていた。どれだけアルヴィディアンやノルティアンに虐げられてきたのか、それでよくわかった。いや、こちら側としては完全にわかってあげることはできないのかもしれない。

「ありがとう」

「ん? 何が?」

 唐突にそう言ってきたシャルンに、アランは首を傾げた。

「ソテラのこと」

 つまり墓参りのことを彼女は言っているのだろう。

「いいってことよ。実際、一緒にいた時間はないにも等しいけどよ、何となく他人じゃない気がするんだ」

「ずっと一緒だったわ。わたしと共にいた」

 ソテラの遺品であるイアリングを、彼女はいつも大切に持っていた。そして時々眺めては、何かを語りかけていたのを覚えている。

「そう……だな」

 アランはどこか曖昧に微笑んだ。そして、今度は彼女の方から話題を持ちかける。

「ところで」

「な、何だ?」

「セトルって記憶戻ったの?」


         ☨ ☨ ☨


 ソテラの墓はシャルンの家の裏道を進んだ先にあった。立派、とは言えない粗末な墓標だったが、それがシャルンの手作り感を滲み出している。

 あれからしばらく経ったあと、夜闇の中アランはその墓の前に立っていた。

 仕方がないのでシャルンの家に泊めてもらうこととなったのだが、彼はこっそりと抜け出すようにこの場に来ている。

 墓には、セトルたちがその辺で摘んだのだろう小さな花が供えられている。自分は何も持って来てはいないが、別に構わないだろう。

 手を合して黙祷していた彼は、ゆっくりと目を開き、独り言を、いや、ソテラに語るように呟く。

「俺は正直迷っている。セトルには言うなと言われてるが、シャルンにも本当のことを伝えた方がいいと思うんだ。ハーフの存亡、いや、この世界の存亡か。どちらにせよ、俺たちが負けると、あいつも消えちまう。だったら、本当のことを言って力を貸してもらった方がいいんじゃないか? あんただったら、やっぱり動くだろ? あいつも同じだ。同族のために必死になる。そんなあいつを、俺は支えてやりたい……」

 そこで彼の呟きは終わった。と思えば、今度は自分の頭を激しく搔き回し始める。

「だー俺何言ってるんだ! あー、こんなの誰か(特にサニー)に聞かれたらめちゃくちゃ恥ずいじゃねえか! ああ、誰もいなくてよかった」

「ごめん、聞いちゃった♪」

「――ブッ!?」

 突然後ろからの声に振り向くと、そこには聞かれると後々めんどうなサニーの姿が。

「サニーさん、何でここに?」

「ま、迷ってきたんじゃないわよ!」

 流石にそれはありえないだろう、と思ったが、本当に迷ったんじゃないかと思う自分もいる。

「さっきここに来た時、髪留め落としちゃって。だから探しにきた」

 見ると、確かに彼女のポニーテールの青い球状の髪留めが片方足りない。

「ああ、これだろ。そこに落ちてたから拾っておいたぜ。だから今聞いたことは全部忘れてください」

 差し出された髪留めを受け取りながら、サニーは笑って首を振った。

「無理。もう聞いちゃったから♪」

「そこをなんとか」

「無理」

 そのまま彼女は踵を返して、家の方に戻っていく。アランは手をコネながら彼女の後に続く。

「今度何かおごりますんで」

「無理だって」

「サニー様、そこをなんとか」

「あーもう、うるさいうるさいうるさい! 無理なもんは無理。たぶん言わないから安心して」

「たぶんじゃだめだー!?」

 その後、しぐれに知られた。


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