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海軍の男女関係

本日2回目の更新です。

……………………


 ──海軍の男女関係



「マルコシア。気になることでもあるのか?」


「久隆様は本当にあの女性と上官と部下の関係だったのですか?」


「ああ。そうだ。少なくとも海軍時代はそうだった。彼女は優秀な准士官で、軍隊のことを、戦争のことを戦術的に知り尽くしていた。俺は何度も彼女の助力を求めたことがある。彼女も同じくらい俺のことを当てにしてくれていた、と思いたいな」


 部下の疑念は解消しておくべきだ。マルコシアは一応は久隆の捜索班に貸し出されており、今は久隆の部下と言って間違いない。その彼女が同じように久隆の部下になるかもしれないし、ならないかもしれないサクラを疑問に感じているならば、それを解決しておくことは必要だろう。


「男女の関係などは?」


「少なくとも海軍時代には軍規がそれを許さなかった。軍隊内の恋愛はトラブルに発展する可能性がある。だから、軍規は男女としての軍人同士の付き合いを禁じた」


 上官と部下の関係で恋仲にでもなったら、指揮の時の影響がでないとも限らない。指揮官がそういう関係を部下と持っていることを知ったら、他の兵士の心理状態に影響を与えかねない。


 それから情報保全の観点からも禁止されていた。軍の情報へのアクセスは階級によって、ポストによって、作戦によって異なる。だが、男女の関係にあると、その情報管理が徹底されない恐れがあった。


 日本の秘密警察(シュタージ)とも言われる日本情報軍情報保安部はその点について非常に厳しく、非公式協力者(密告者)をあちこちに作り監視しているという話だった。だから、昇進したいならば軍隊内での恋愛は諦めるしかない。


 久隆は昇進するつもりだった。いずれは日本国防四軍で司令官のポストを回している特殊作戦軍の司令官になりたいと思っていた。そのためには海軍艦艇の艦長も経験しないといけないが、それも乗り越えるつもりだった。


 だが、ドカン、だ。


 久隆の四肢は吹き飛び、海軍そのものから蹴り出された。


「そちらの軍規も似たようなものなのではないか?」


「あたしたちは宮廷魔術師であって軍人ではないですから分かりません。どうなの、フォルネウス。近衛騎士団では恋愛禁止ってことになってる?」


 マルコシアがフォルネウスに話を振った。


「ええ。禁止ですよ。まあ、そもそも近衛騎士団にいる女性というのが少ないので、あまり意味のある軍規とは思えないのですが。それでも軍規にはしっかりと定められています。騎士団の風紀を乱す行いをしてはならないと。前にひとりの騎士を巡って、決闘が相次いだことが原因だそうです」


「軍隊は人間関係の悪化にも気を配らないとな。軍隊は組織だ。人間──そして、魔族の作る集団だ。軍隊のような集団には秩序が必要だ。誰もかれもが好き勝手に行動しては、それはなりたたない。恋愛についても同じこと。軍隊にいるならそういう感情は殺せ。ただし、戦友のことは信じ、親しみを持ち、ともに戦えるようにせよ」


 久隆が海軍で汎用駆逐艦勤務時代に聞いた艦長の言葉を披露する。


 海軍の艦艇に女性軍人(WAVES)が乗り込むのは2040年代では当たり前のことだった。トイレもシャワーもひとつしかない潜水艦にすら女性軍人(WAVES)は乗り込んでいたのだ。もっと広く、風呂もトイレも別々にできる汎用駆逐艦に人手不足の海軍が女性軍人(WAVES)を乗せない理由はなかった。


 だが、男女関係のトラブルは海軍もごめんだった。既にアメリカ海軍等はテイルフック事件などで痛い思いをしている。日本でも同じようなトラブルが起きるのは避けなければならなかった。それがいくら報道されないにせよ。


 だから、各艦艇の艦長や各部署の指揮官は部下の動向には気を配っていた。女性の方が嫌がっているのに男性が手を出していないか。男女の関係そのものが発生していないか。していたらとしたら、直ちに厳重注意。悪質ならば記録に残る懲戒処分であった。


 海軍としては女性軍人(WAVES)にもっと活躍してほしかった。少子高齢化の時代に深刻な人手不足を迎えた海軍によって軍人は、優秀な軍人は、男女にかかわらず欲しかった。よって、そのために女性も働ける環境を整備するのは当然の義務だった。


「じゃあ、海軍を辞めた今はどうなんですか?」


 そこでマルコシアが核心を突く質問をした。


 そう、海軍時代は軍規が男女の関係を規制した。では、今は?


 どうして元部下が久隆の家にいるのか?


 その理由を久隆は説明していない。


「プロポーズを受けた」


「え……」


 久隆は正直にぶちまけた。


「だが、俺としては軍人としてのサクラしか知らない。だから、まずはお互いを知るために暫く一緒に過ごそうということになった。サクラが捜索班に加わるかもしれないという話はその過程で出た話だ」


「う、受けちゃうんですか、プロポーズ!?」


「だから、まずはお互いを知ろうと……」


 久隆が宥めるようにそう告げる。


「お、お互いを知ったら付き合うんですか……?」


「分からん。俺とサクラはともに軍人としての姿しか知らなかった。そして、軍人として優れている人間が人間として優れているか、よき伴侶になれるかは別の話だ。確かに海軍時代に俺はサクラに相当世話になった。だからと言って付き合うかどうかはこれから次第だ。馬が合えば、可能性としては否定できない」


 後になってその気はなかったんだが、と言い訳するのも見苦しかったので、久隆は最初からサクラと付き合う可能性について示唆しておいた。


 可能性としては皆無ではない。サクラと相性が良ければ、朱門の言う第二の人生に踏み切ってもいいかもしれない。台湾の会社の仕事を受けるかどうかはともかく、人生をただここでひとりで腐っていくだけにしないという可能性はあるのだ。


「その前にまずあたしとの相性を確かめましょう!」


「どうしてそうなる」


 久隆にとってレヴィアたちは一時的な難民だ。久隆はそれを一時的に受け入れているが、永住するというつもりはないだろうと思っていた。というよりも、永住されては困る。この世界で暮らしていけるような存在ではないのだ、レヴィアたちは。


「まあ、そういうことだから、サクラのことを受け入れてやってくれ。それができないなら捜索班の再編成も考えなければならない」


「うー……。分かりました」


 マルコシアは渋々というように頷いた。


「フォルネウスもそれで頼む」


「了解です」


 フォルネウスはそう告げて頷いた。


「じゃあ、時差ボケを治すためにちょっと仮眠だ。本格的に寝るなよ。1、2時間で起こすからな。今晩眠れないなんてことがないようにな」


 久隆はそう告げてそれぞれの食器を下げると、サクラと一緒にそれを洗った。


 マルコシアとフルフルはその様子を陰からじーっと見つめていたのであった。


……………………

本日の更新はこれで終了です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 魔族の焼きもち(笑) えー50越えて恥ずかしながら嫉妬の読み方初めて知りました(笑) 幾つになっても人生日々勉強ですね
[一言] 楽しませていただいております! 戦地帰りPTSD(というには深い心の変質という印象ですが)を抱えた主人公の描写が秀逸で、このみ。 “人でなし”になってしまいながら、それでも人よりも人としての…
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