一先ずの休息
本日1回目の更新です。
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──一先ずの休息
「申し出は考えておく。明日、実際にダンジョンに入ってみて、本当にダンジョンで戦えるか、戦う価値はあるのかを確かめてくれ。俺たちは暫く仮眠を取る。ダンジョン内は時間も狂っていてな。1日潜ったつもりが2日潜ったことになっていたりする。今日も夕方に出るはずだったのに朝──もう昼か、に出て、ちょっとした時差ぼけだ」
「まあ、じゃあ、夕食は食べられたんですか?」
「いいや。ダンジョン内でも使える災害非常食はほとんどダンジョン内の連中に渡してしまったからな。それに疲れた。件のモンスターハウスを撃破してきたところでな。戦闘に次ぐ戦闘だった」
「軽くお腹に入れてから休まれた方がいいと思いますが」
「それもそうだな。かゆでも腹に入れておくか」
「私が準備しますから、久隆さんは休んでいてください」
「すまん。助かる」
久隆はレトルトがゆの場所をサクラに伝えるとサクラはテキパキと粥の準備を済ませてしまった。軍人というのは効率を重んじる。どんなことにおいてもより短い時間で多くのことをこなしてしまう。そうしないと軍隊において自由な時間などないのだ。
その点はサクラも効率がよかった。
「どうぞ、久隆さん。あの子たちも呼びましょうか?」
「俺が呼んでくる」
久隆はレヴィアたちを呼びに行った。
「お前たち、軽く飯を食ってから仮眠だ。かゆができてるから食べておけ」
「レヴィアは焼肉が食べたいの」
「疲れているときにそんなもの食ったら、胃腸に悪いぞ」
レヴィアの好きなものはカレーライス、ラーメン、焼肉となってしまった。
「久隆様、久隆様。あの女性はなんなんですか?」
「海軍時代の部下だ。頼りになる奴だし、俺と同じ悩みを抱えている。暫くはこの家にいることになる。仲良くしてやってくれ」
「まあ、久隆様がそう仰るなら……」
マルコシアは渋々という様子で頷いた。
「他のみんなも仲良くしてくれ。もしかすると彼女も捜索班に加わるかもしれない」
「仲間が増えるのね! 大歓迎なの!」
レヴィアは歓声を上げたが、マルコシアは不満そうだし、フルフルはびくびくしているし、そのふたりに影響されてフォルネウスも戸惑っている。
「なあ、頼む。彼女がいれば俺に何かがあった時に助けになる。まだ俺は彼女を加えるか迷っているが、もし彼女が加わったら、捜索班の戦闘力は向上することは間違いない」
「ですが……」
「頼む。捜索班が連携して活動するには信頼が必要だ」
久隆としてはどうしてもマルコシアたちの了解が得られないようならば、サクラを捜索班に加えることは諦めるつもりだった。仲間同士にいざこざがある中では、作戦は失敗に終わる可能性が高い。まして、マルコシアたちは戦闘中にそのようないさかいを無視できる兵士かどうかが謎なのだから。
「久隆様がどうしてもとおっしゃるならば、認めます……」
「わ、私はどちらでも構いませんよ?」
マルコシアの不満の原因は嫉妬。フルフルの不安な要素は親友であるマルコシアの不満と見知らぬ人物の登場といったところだ。
「じゃあ、昼飯を食って、仮眠だ。今日は何か作るから、このままのんびりしていてくれ。ただし、その様子を年寄りたちに見られないようにな?」
「了解なの」
チームの体力管理も指揮官の仕事だ。
特にレヴィアたちは訓練を受けた兵士というわけではない。フォルネウスは軍人として訓練を受けているかもしれないが、レヴィアたちはそうではない。行軍と戦闘で体力をかなり消耗したものと思われる。久隆には分からない魔力についても。
戦闘はその場から動かない遠距離狙撃であっても体力を消耗する。体力というより気力と言うべきか。戦闘状態の只中にあって、リラックスできる人間などいないし、魔族もそうだろう。レヴィアたちもそれなり以上の精神的負荷を受けているはずだ。
それを考えるならば、この時間は休養に当てるべきだ。
フォルネウスも訓練されているとしても、あの連戦で疲労しているはずだ。消化のいいものを食べ、仮眠を取って時差ぼけを正す。そして、夕食にはスタミナのつくものを食べて、明日に備える。
明日はもしかするとバイコーンとの戦いになるかもしれない。バイコーンという魔物に対して現状、有力な戦術はない。マンティコアのように罠で嵌めるにはフロアが広すぎる。これは明らかにバイコーンの突進による攻撃のために作られたものだ。
フロアの地図はアガレスから渡されているから分かるが、バイコーンの動きを拘束できるタイミングはフロアからフロアに移る瞬間の狭い入り口を抜けるときだけだ。
これをどうするのかが久隆の悩みであった。
「しかし」
久隆は食卓に着く。
「この食卓も随分と賑やかになったな」
久隆、レヴィア、フルフル、マルコシア、フォルネウス、そしてサクラ。
もともと祖父母と両親だけが暮らしていて、たまに近所の集まりをするからと大きめのダイニングテーブルが置かれていたのだが、今では満員だ。久隆がひとりでこの広いダイニングテーブルでテレビを見ながら虚しく食事をしていた時とは大きく異なる。
「久隆さん、皆さん。ダンジョンについて教えてくれますか?」
「ん? 教えてあげるの。ダンジョンはこわーい魔物が住んでいる場所だけれど、その怖い魔物を倒すと金銀財宝が手に入るの。だから、戦略資源の策源地として重要な場所になるの。もっとも今の状況ではその役割を果たせていないのだけれど……」
「ダ、ダンジョンにはダンジョンコアというものがあって、魔族や人間の欲望を糧に成長します。ダンジョンコアはどのような場合もダンジョンの最下層に固定されており、深度によって生み出す富や魔物の脅威が変わります。はい、それぐらいです……」
レヴィアとフルフルがサクラにそう説明する。
「あなたたちがこっちの世界に来てしまった理由は分かっているのかしら?」
「まだ不明なの。だけど、恐らくはダンジョンコアの暴走によるものなの。過去にもそういうことがあったと文献で読んだことがあるの。レヴィアは魔王だから物知りなのね」
「勉強しているのね。では、ダンジョンコアの暴走をどうにかすれば元の世界に戻れるということでいいのかしら?」
「分からないの……。そもそもダンジョンコアの暴走を止めたというのは稀にしかないことなの。レヴィアたちでは無理なの。だけれど、べリアならできるはずなの! なんとしてもべリアを救助しなければならないの」
「私もできることを手伝いますよ」
「久隆の仲間だったならきっと強いに決まっているの!」
レヴィアは無邪気に喜んでいたが、マルコシアは猜疑の視線を向けていた。まるで以前の久隆に対するフルフルのようだ。
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