隠し事というのはバレるというもの
本日2回目の更新です。
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──隠し事というのはバレるというもの
「ところで、久隆さん。この家にはおひとりで?」
「あ、ああ。今は友人が来ているが」
「なるほど。どうりで煙草の臭いがするなって思いました」
朱門は煙草をスパスパ吸うので臭いが残っている。
「それから女の子がいますね?」
「……ああ。親戚の子たちだ」
「久隆さんの親戚、ですか?」
「ああ。遠い親戚で海外から来ている」
「ふうむ。知らないことが多いですね。紹介していただいても?」
「いや。子供は騒がしい。やめておこう」
「久隆さん、何か隠してますね?」
サクラが鋭くそう告げた。
「何を隠すっていうんだ?」
「嘘の色が見えます。それから不安の色も。お互いを知ろうと言ったばかりではないですか。隠し事はなしにしましょう。私も久隆さんに何か聞かれたら正直に話しますし、久隆さんの秘密を他の人に漏らしたりはしません」
「……分かった。どのみち、ここで暫く生活する気できたんだろう? それなら遅かれ早かれ関わることだ。もう紹介してしまおう」
久隆はそう告げて立ち上がり、レヴィアたちの隠れている部屋の襖を開いた。
サクラがその中にいたレヴィアたちを見て目を丸くする。
レヴィアは堂々と、フルフルはマルコシアの陰に隠れ、マルコシアは不満そうな視線をサクラに向け、フォルネウスは直立不動の姿勢でレヴィアから一歩下がった位置にいる。その様子をサクラは目撃することになった。
「彼女たちは……コスプレイヤーですか?」
「違う。本物の角と尻尾だ。レヴィア、例の魔法を示してくれ」
久隆がそう告げるとサクラが目を丸くした。
「魔法……?」
「『舞い散れ、氷の花弁』」
室内の温度がぐっと下がり、部屋の中に氷の花びらが舞い始める。
「どういう状況なんですか、久隆さん?」
「サクラ。俺の気がおかしくなったとは思ってほしくない。その上で事実を告げる。俺の裏山が異世界のダンジョンに繋がった。彼女たちは異世界から来た魔族というものたちだ。彼らはある意味ではこの世界に漂着して助けを必要としている」
「それは……」
「明日、元軍医を連れてダンジョンに潜る。そこにあるものを見たら、絶対に信じられるようになるだろう。だが、他言はしないでほしい。俺は彼女たちを元の世界に戻したいのであって、日本のために使いたいわけじゃないんだ」
「了解しました」
「頼むぞ」
久隆にとってサクラは自分の命を預けたことすらある信頼できる部下だ。結婚と言われると困ってしまうが、その信頼度はマフィアの闇医者である朱門を超えている。命を預けても大丈夫なほどの部下が自分を裏切るはずはないと。
「ひとりずつ名前を教えてもらえますか?」
サクラは優し気な笑みを浮かべてレヴィたちに尋ねる。
「レヴィアはレヴィア・オブ・ヴェンディダードなの。お前の名前は?」
「瀬戸サクラ。元日本海軍准尉」
「よろしくなの、サクラ!」
「ええ。よろしく」
サクラとレヴィアが握手する。
「そちらの方は?」
「はっ! フォルネウスであります。近衛少尉。今は久隆様の下でダンジョンの攻略に携わっております」
「そうなの。よろしくね」
サクラの視線がマルコシアとフルフルに向けられる。
「あたしはマルコシア。この子はフルフル。あなたは久隆様とどういう関係?」
マルコシアは最初から喧嘩腰だった。
「元上官と元部下。今は軍を除隊してお互いを知り合おうと約束した関係。戦場では何度も命を預け合ったし、辛い経験を乗り越えてきた。そういう関係よ」
「ふうん。私も何度も久隆様と命を預け合っているのだけれど」
「そう? 敵に包囲されて、援軍は1時間以内には現れず、自分たちの30倍近い数の敵と戦ったことは? 敵地の只中で見つかれば警報が鳴り、自分たちの数倍の火力を持った敵に包囲される危険の中、敵の指導者を暗殺しに向かったことは? 自分たちを殺しに来るせいぜい12歳程度の子供に引き金を引かなければならなくなったことは?」
「え、えっと。今はないけどそのうちに経験します」
「あらあら。こんなのは経験しない方がいいんですよ」
年上の方が経験的には勝っている。マルコシアに勝ち目はない。
「それにしても久隆さんもこんな子たちと関わっていて、まさか一線を越えたりはしていませんよね?」
「越えたかもな。こいつらには何度も世話になった。俺は俺たちが忌み嫌った海賊や民兵と同じように子供を兵士として使っているんだ」
「そうですか……」
子供兵がどれだけ扱いにくい存在なのかはサクラもよく知っている。
彼らは教育の段階で洗脳に近いものを受ける。心を豊かにする文学や、自然を理解する科学などではなく、自分たちの政治思想と宗教観と自分たちの敵が自分たちにやってきたことについて教えられる。
その憎悪は遺伝子のように刻み込まれ、行動を決定し、遺伝子と同じように後に引き継がれる。戦場から憎悪が消える日は遠く、憎悪の遺伝子は健全な子供たちを汚染し続ける。まるで遺伝子組み換え作物が天然ものの作物に混ざり、天然の在来種を消し去ってしまったようにして。
それでも子供兵は殺さなければならない。子供兵を殺さなければ自分たちが死ぬことになる。自分たちの仲間が死ぬことになる。辛い決断だが、戦場において子供兵は殺さなければならないのである。
だから、久隆たちは子供兵を憎悪した。子供兵を使う人間を憎悪した。
「久隆さんは東南アジアの海賊や民兵とはきっと違いますよ」
「そうであることを祈りたい」
「無神論者でしたよね? 何に祈るんです?」
「空飛ぶスパゲティモンスターにでも」
久隆はそう告げて肩をすくめた。
「ところで、そのダンジョンというのにはモンスターが出たりするんですか?」
「出る。それが厄介な壁になっている。ダンジョンは今のところ25階層以上ということが判明していて、10階層ごとにエリアボスという強力な魔物。10階層内に1階層モンスターハウスという魔物の密集した場所がある。これを攻略していかないと、俺たちはレヴィアたちを元の世界に戻してやることはできない」
久隆は今現在、分かっていることをサクラに伝えた。
「それ、私にはお手伝いできませんか?」
「お前がか? それは確かに猫の手も借りたいところだが……」
久隆は少しばかり悩んだ。
サクラの申し出はありがたくはある。何故ならばサクラならば久隆に何かあったとしても指揮を引き継ぎ、戦い続けることが可能だからだ。久隆が海軍時代に自分の右腕としていた人物だ。頼りになることは間違いない。
だが、これ以上、ダンジョンに人を巻き込んでいいのかという疑問もあった。
朱門には金を払っている。それにまだダンジョン内に常駐してもらうわけではない。朱門とダンジョンの関わりは最小限かつ、理由あるものだ。
だが、サクラは?
彼女は久隆を理解するためにこの家に暫く泊まるだけだ。そんな彼女を命の危険があるダンジョンの最前線に連れて行っていいものだろうかと久隆は悩んだ。
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本日の更新はこれで終了です。
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