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予想外の訪問者

本日2回目の更新です。

……………………


 ──予想外の訪問者



 18階層の掃討が終わった時には17時を過ぎていた。


 久隆たちは今回も日帰りダンジョンを予定していたので大急ぎで地上に戻る。


「地上だ」


「朝になっているのね」


「何日もは過ぎていないだろうな……」


 ダンジョンを抜けると朝日が空を照らしていた。


 久隆の腕時計は22時を指しているが、どうみてもそんな時間には見えない。


 ついにダンジョン内で時間の歪みが表に出たのだろう。


 1日潜って1週間などということになっていなければいいのだがと思いつつ、久隆はレヴィアたちを連れて、自宅に戻った。


「よう、久隆。今回は随分とかかったな」


「俺が潜ってから何日経った?」


 ダイニングで遅めの朝食であるカップ麺を啜っている朱門に久隆が尋ねた。


「2日。なんだ? 時間の感覚がなくなったか?」


「いや。ダンジョンでは時間の流れが狂うらしい。短くなったり、長くなったり」


「おいおい。勘弁してくれよ。お前が1日潜ってくると言って出てきたのが1年後だったりしたら俺はたまらんぞ。定期的に金を入れてもらわないと」


「分かってる。気を付けるつもりだ。とは言え、どうやって気を付ければいいのかは分からないが。こればかりはどうしようもない」


「ふうむ。まあ、お前が留守の間は俺が留守番しておいてやる。それから、その妙な人形とな。あれは本当に人形なのか?」


 朱門の視線が部屋の中を歩き回わる模造人形を示す。


「ああ。魔法だよ、魔法。もうそういうものだと割り切ってる」


「一度、解剖してみたいな」


「やめてくれ」


 冗談だったらしく朱門はクスクスと笑っている。


「それで、俺に何か仕事は?」


「頼むことになると思う。まずは俺の義肢を見てくれ。それからダンジョン内に連れていけるようになったら、ダンジョン内の連中に適切な応急手当てについて教えてやってくれ。よろしく頼むぞ」


「ああ。分かった。しかし、ダンジョンか。ロマンがあるな」


「ロマンなんてない。あるのは生存に向けた戦いだけだ」


 久隆はそう告げて冷蔵庫を覗き込んだ。


「朱門。酒を買ってくるのはいいが、あまり大量に買い込まないでくれ」


「悪い、悪い。街まで出かけないとまともな酒がなくてな」


「全く」


 久隆と朱門がそんな会話をしていたとき、チャイムが鳴った。


「……フルフル。模擬人形を消してくれ。それから部屋の中にレヴィアたちを連れて隠れておけ。通販の荷物が今日届く予定はない。年寄りが喋りに来たか、あるいは……」


 最悪を想定するならば、警察が通報を受けて裏山ダンジョンに気づいたことだ。


 事情を聞かれることになる。あいにく、警察に通用するようなカバーストーリーはない。だが、警察もちゃんと管理していると言えば、引き下がるしかないはずだ。あそこは久隆の私有地であり、警察にとやかく言われる場所ではない。


 せいぜい、子供が入り込まないように注意してくださいと言われる程度だ。夏休みも近く、田舎に帰ってくる子供たちも増える。


「はい」


 久隆はそう覚悟して、扉を開いた。


「お久しぶりです、少佐」


 玄関の外にいたのは警察でも田舎の年寄りでもなかった。


 いたのは濡れ羽色の黒髪をポニーテイルにして纏め、大きな荷物を背負った小柄な女性だった。年齢は20代後半ほどに見える。その瞳の色は生気に満ちた輝きをしており、目鼻立ちのしっかりした顔立ちをしている。


 服装は迷彩柄のカーゴパンツに、ノースリーブのタンクトップ。その上から女性ものの半袖のジャケットを羽織っている。スタイルは驚くほどいい。


 だが、久隆が気にしたのはそのような点ではない。


「……瀬戸准尉……?」


「はい。6か月ぶりですね」


 彼女は久隆の知り合いだった。


 知り合いどころではない。海軍時代には久隆の部下として活躍してくれた優秀で、ベテランの軍人だ。久隆が大尉時代の話としていた彼のチームの一翼を指揮する人間。それが目の前にいる女性だった。


 瀬戸サクラ日本海軍准尉。年齢は久隆より年上でアラフォーのはずだが、外見年齢が若く見えるのは海軍が新兵募集のために無料で施しているナノマシンによるアンチエイジングのためだろう。今は60歳の女性でも20代に見えることがある。ナノマシンは外見だけではなく、体内も若く保つ。久隆が年齢を感じさせないのも義肢だけのためではない。


「どうしてここに?」


「来たら不味かったですか?」


「いや。そういうことはないが、誰から住所を聞いた?」


「防衛省退役軍人庁のデーターベースで。私も除隊したんですよ、少佐」


「……何かあったのか?」


「少佐が傷病除隊してから3か月後に私も両腕と片目を吹き飛ばされて。パラアスリート用の義肢とiPS細胞で培養した眼球をつけてもらって蹴り出されました。今は恥ずかしながら無職です。少佐はどうでした?」


「俺も無職だ」


「そうでしたか。馴染めませんよね、この日本に。私たちの故郷なのに」


 そう告げてサクラは寂しそうに微笑んだ。


「そうだな……。未だに自分がいるべき場所はここではないと感じる。ここで立ち話も何だ。上がってくれ」


「すみません。急に押しかけてしまって」


「電話くらいしてくれれば迎えに行ったぞ」


「びっくりさせたくて」


「俺を奇襲してもしょうがないぞ、准尉」


 久隆は久しぶりに戦友に会った。


 最後に戦友と会ったのは3か月前だ。葬儀の場だった。自殺した戦友の葬儀に出席した。遺言にあったように葬儀は無宗教で行われ、淡々と葬儀は終わった。戦友たちとは軽く近況を話しただけで分かれていた。


 葬儀の場だ。盛り上がるわけにはいかない。暗い雰囲気の中、次に自殺するのは誰だろうかと思いながら、久隆は戦友たちと別れたことを思い出す。


 その時はまだサクラは日本海軍で現役だと思っていた。だが、彼女の話が確かなら彼女はその時には既に除隊していたことになる。


 彼女も傷病兵というわけかと久隆は思った。


「俺が脱けてからチームはどうだった?」


「そこそこ上手くやっていましたよ。私たちはきっと少佐は何かしらの役割を海軍から割り当てられると思っていました。だけれど、あのまま傷病除隊になるなんて。そうなった私もそうなんですけれど」


「海軍は温情深いんだか、冷たいんだか分からないな」


「海軍は海軍ですよ。日本の盾。愛国者を名乗る人間の集まった組織。打算で生きる人間の作った組織。それ以上でも、それ以下でも」


 軍隊はお役所と一緒だ。人間で構成され、人間によって運営され、人間によって意志決定が行われる。農水省と防衛省に違いなどないのだ。


「しかし、何故俺のところに?」


「少佐。私と結婚してください」


「は……?」


 久隆の表情が固まる。


 それはあまりにも予想外な申し出だった。


……………………

本日の更新はこれで終了です。


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― 新着の感想 ―
[一言] ほっほ~これはこれは・・・ほっほ~(ゲス顔)
[一言] 戦友、いい女、この人なら結婚してもやっていけそう、でかい荷物?まさか?やはりそうか! おめでとうございます、あ!修羅場?ハーレム?
[一言] 押しかけ嫁! ダンジョンにはすぐ馴染みそうだけど、 まさかの女性問題で大揉めしそう(ノ∀`)
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