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18階層掃討

……………………


 ──18階層掃討



 ピリピリとした殺気と緊張感が満ち、場の空気が金属の衝突する音と魔物の雄叫びで震える。18階層の激戦は続いていた。


「フォルネウス! 下がれ!」


 久隆は混乱から立ち直った重装オーガを一時的に斧を投げて向こうに追いやると、マルコシアが魔法を叩き込み、吹き飛ばされた重装オーガにトドメを刺した瞬間のフォルネウスに向けて叫ぶ。


 久隆は冷静に状況を見ていた。


 後方の魔法の発動レート。フォルネウスの攻撃レート。目の前の重装オーガの動き。全体としての重装オーガの動き。


 指揮官とは、前線指揮官とは銃火の中にあって部下たちを生存させ、そして任務を果たさなければならない。銃火に晒されようと、砲火に晒されようと、敵に包囲されていようと、負傷者を抱えていようと、どんな状況であろうとも冷静でなくてはならない。


 久隆は実戦経験が豊富で、あらゆる困難な状況に接して対処してきた。それは机上の軍事学だけではなく、実際の戦場で生じる人間同士の複雑な取引を経験してきたことを意味する。何が言いたいのかと言えば、彼はこのクソッタレにやばい状態でも、焦りもせず、周囲を俯瞰し、友軍を導けるということだ。


「レヴィア! 叩き込め!」


「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」


 再び、レヴィアが氷の嵐で重装オーガたちを攻撃する。


 重装オーガたちは再び混乱に陥り、視覚を失ったものがでたらめに斧を振り回して友軍を傷つける。最初のときと違って、重装オーガたちは久隆たちと交戦中だった。それがより大きな混乱を招いた。重装オーガたちは友軍識別が困難な状況でも攻撃を強行し、結果として友軍誤射(ブルー・オン・ブルー)を引き起こしたのだ。


「マルコシアが叩き込んだら突撃だ。フォルネウス、まだまだばててないだろう?」


「はい! やれます!」


「よろしい!」


 久隆たちは嵐が収まると同時に攻撃を再開した。


「『爆散せよ、炎の花!』」


 重装オーガの頭が弾き飛ばされ、混乱に拍車がかかる。


 敵の部隊を無力化するのは何も相手を皆殺しにすることしか選択肢がないわけではない。相手が士気を喪失して降伏する。相手が撤退する。相手が混乱状態に陥り、戦闘継続が不可能になる。様々な選択肢がある。


 その点でいえば重装オーガたちはまだ数を残していたが、戦闘力を喪失しつつあった。拡大した混乱が友軍誤射(ブルー・オン・ブルー)を多発させ、重装オーガ同士で殺し合っている。撤退して立て直すという選択肢は彼らにはなく、ただただ前のものを攻撃するか、前に向けて前進するのみ。


 重装オーガが重装オーガの頭を斧で叩き割り、首を刎ね、その重装オーガが後方からの攻撃で倒れる。重装オーガの戦列はもはや崩壊しかかっている。


 久隆たちの攻撃はそれにトドメを刺す形になった。


 レヴィアの氷の嵐は効果抜群だった。敵は視力を一時的にでも喪失し、混乱している。マルコシアの魔法攻撃がそれに拍車をかけ、そして久隆たちが畳みかける。


 斧で頭を叩き割り、魔法剣で頭部を燃やし、斧で首を刎ね、魔法剣で首を貫く。


「片付いたな」


 重装オーガは壊滅した。


「や、やりましたね!」


「まだだ。大御所がやってくるぞ。重役出勤だ」


 久隆がそう告げると鎧ジャイアントオーガが姿を見せた。


 武器はまたダンジョンでは使いにくい巨大なハルバード。


「ここからはボーナスタイムだ。鎧ジャイアントオーガの弱点は伝わっているな? フォルネウス、どれだけやれるかやってみろ。レヴィアとマルコシアは支援だ」


「了解!」


 久隆が片付けてもいいが、それでは後進が育たない。久隆はいざというときまでフォルネウスに任せてみることにした。彼が鎧ジャイアントオーガを倒せれば、それが大きな自信と経験になり、今後の彼の活躍を支えることになる。


 レヴィアたちがセオリー通りに魔法を叩き込み、フォルネウスが飛びかかる。


 勢いをつけて跳躍、鎧ジャイアントオーガの弱点である頭部に魔法剣を突き立て、炎上させる。鎧ジャイアントオーガはあらゆる顔面の穴から炎を吹き出し、後方に倒れる。


「そのままだ! 勢いを維持して戦え!」


 久隆はフォルネウスに続けて進む。


 フォルネウスは鎧ジャイアントオーガの倒れる体を蹴ってそのまま次の鎧ジャイアントオーガに挑む。鎧ジャイアントオーガは自分の頭上にいるフォルネウスを狙おうとするが、鈍重な動きでは相手にならない。


 再び魔法剣が鎧ジャイアントオーガの頭部を貫き、炎上させる。


 その調子で1体、1体と鎧ジャイアントオーガはなすすべなく倒れていく。


「これで……最後……!」


 フォルネウスはマルコシアが顔面を攻撃した鎧ジャイアントオーガに飛びかかり、その首を貫き、魔法剣を燃え上がらせた。


「よくやった、フォルネウス。12体の鎧ジャイアントオーガを倒したぞ。大したものだ。お前はできる奴だ。やってやったじゃないか」


「は、はい。まだ手が震えています……」


「勝利の興奮だ。しっかり味わえ。俺は残敵を確認してくる。レヴィアたちを頼む」


「了解」


 フォルネウスはこれで戦争の入り口から大きく中に入った。


 今の感覚を覚えておけば、他にも応用が利くだろう。勝利は確実なものになる。


「クリア。この階層にはもう魔物はいない」


「18階層攻略なの!」


 レヴィアがそう声を上げ、フルフルたちが安堵の息をつく。


「久隆様、ありがとうございました」


「何だ? 俺は見ていただけだぞ」


「いいえ。久隆様は自分に自信をつける機会を与えてくださいました」


 フォルネウスが告げる。


「正直、今までは自信がなかったんです。魔法剣というのは剣技を極めるには不純だし、魔法としては中途半端。そんなものを選んだ自分を少しばかり後悔し、本当にこれから戦えるのかと疑問に思っていたのです」


 そう告げてフォルネウスは後頭部を掻いた。


「けど、その迷いも今、消えました。この道に進んでいても戦える。自分も近衛騎士としての義務を全うできる。そう思えました。久隆様ならばあの程度の魔物など自分が出しゃばらなくともあっという間に片付けてしまえたでしょう。ですが、あなたはそれを自分に譲ってくださった。感謝しています」


「そうか」


 フォルネウスはもう新米少尉とは呼べないなと久隆は思った。


 自分の手の届くところを理解した。自分の可能性に気づいた。自分の戦力を客観的に分析できるようになった。そこまでくれば、後は他人の能力に気づくことだが、これもでき始めている。


 敵を知り、己を知れば、百戦危うからず、だ。指揮官として必要なのは自分たちの戦力の冷静な分析と敵の戦力の悲観的分析。部隊を指揮するのはそれからだ。自分のカードも分かっておらず、相手のカードも分かっていない状態でレイズもコールもできない。


 指揮官としての才能は久隆がゆっくりと育てていくしかない。フォルネウスに学ぶ気があるならば、既に彼は久隆から前線指揮官としての役割と指揮について学び取り始めているだろう。


 机上の学問を実践に移す。それは困難なことではあるが、不可能ではない。


 基礎的な戦術と戦略についてしっかりと学んでいれば、後はそこに入り込むヒューマンファクターについて経験則的に学び取っていくだけだ。


「お前は立派な近衛騎士だ。誇っていい」


 久隆はそう告げてフォルネウスの肩を叩いた。


……………………

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