食卓を囲んで
本日2回目の更新です。
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──食卓を囲んで
家に帰るとフォルネウスが出迎えた。
「異常なしであります!」
「そりゃ、そうそう異常があっては困る」
というよりも、この状態そのものが異常なんだがと久隆は思う。
久隆は世界で初めて──少なくとも公式になっているものに関しては──人類ではない知的生命体と出会い、彼らを家に泊め、食事を与えているのである。これが異常でなくして何が異常なんだという状況である。
それでも久隆はできることはやっておきたいと思っている。ここで自分が動かなかったら後で後悔するようなことになるかもしれないと思って。
朱門のように享楽的に生きてはいられない。久隆はずっと軍人であろうとした。名前も、顔も知らない日本国民のために戦おうと決意して軍に入った。
そんな彼だからこそ、義務感を感じているのだろう。この遭難者たちを助けなければならないという義務感に。それは軍人に必ず生じるものではないが、祖国のために命をかけて戦い、戦友と助け合って生きてきた軍人には生じやすい義務感だった。
軍人になるということは、この日本において異端の選択だ。かつての平和な時代ならば任務は災害派遣ぐらいであり、命の危険に晒される恐れもなく過ごすことができた。だが、2020年代から戦争が始まり、日本もそれに巻き込まれている中で軍人になるという選択肢を選ぶのは正直に言ってあまり賢明な選択だとは思えない。
それでも軍人を目指す人間はいる。
そんな軍人たちはそれなりの愛国心と献身性を持ち合わせている。久隆が軍に入ったのはアジアの戦争の真っ最中だったが、その時も軍人になろうという人間は久隆だけではなかった。国のために戦いたいという人間は日本にもいたのだ。
その国が四肢を欠損した久隆を見放したとき、久隆は目的を失った。
だから、その穴を埋めるために久隆はレヴィアたちを助けようとしているのかもしれない。少なくとも生きるために生きている人生ではなくなったのだ。
「じゃあ、晩飯の準備を始めるか」
「あ、あの、お手伝いしますよ……?」
「そうか。助かるフルフル。じゃあ、まずは──」
久隆がフルフルに指示を出す。
「はいはい! あたしは何をしたらいいですか?」
「マルコシアはこれを──」
久隆は台所でも指揮官だった。
広い台所で久隆たちは料理をテキパキと仕上げていく。久隆はひとり暮らしでどういう段取りならば洗い物が少なくなり、手間がかからないかを学習した。そして、今はフルフルたちの手伝いもある。5人分の料理でも問題なく調理された。
「できたぞー。熱いうちに食おう」
「了解なの!」
レヴィアがゲーム機を置いて真っ先に椅子に座る。それから久隆が座り、フルフルたちが座る。どうやら彼らは序列というものを考えているようである。
「焼いた魚なの……」
「この大根おろしにポン酢をかけて一緒に食ってみろ。美味いぞ」
「そうなの? 試してみるの」
レヴィアはいつも食べている焼いた魚が出てきたことにがっくりしていたが、久隆にそう勧められて大根おろしを添えて食べる。
「うん! これはさっぱりとしていいの! 焼いた魚でも美味しいのね!」
「焼いた魚は美味いものだぞ」
魚は焼いただけでも美味しいものである。ただ、毎日焼いただけの魚というのはいただけないかもしれないが。
「これは生魚……?」
「マルコシアがフルフルの故郷ならば食べていたかもしれないって聞いたんでな。どうする? 食べるか?」
「え、ええ。いただきます。きっと故郷の味ですから」
フルフルがきょろきょろと食卓を見渡す。
「あの、塩とオリーブオイルは……?」
「ん? フルフルのところではそうやって刺身を食うのか? 今、持ってくる」
久隆は台所に向かうとオリーブオイルと塩を持ってきた。
「これです、これです。故郷の味です……。はあ、懐かしい……。故郷ではいつも捕れたての魚を食べていたものです……。宮廷魔術師になってからは、たまに帰省するときしか食べられませんでしたけど、やはり魚は故郷を思い出させます」
「フルフルはシーフードは抵抗ないタイプか。今度寿司にでも行ってみるか」
「魚ならなんでも歓迎しますよ」
フルフルは美味しそうに刺身を食べていく。
「ヴェンディダード風の食べ方もいいが、日本風の食べ方も試してみないか?」
「日本風というと?」
「醤油とわさびだ。これもなかなかおつなものだぞ」
「しょ、醤油とわさびですか……。未知の味ですが、そこまでいうなら……」
フルフルは醤油とわさびを皿に取ると、刺身を慎重に付けてから食べた。
「ううっ! ツーンってきました! し、しかし、これは確かに美味しい……」
「だろ。まあ、刺身もいろいろ食べ方があるからな」
「そうですね……。しかし、ここは実は海に近いのですか?」
「いいや。内陸部だ。ロジスティクスが整っているから内陸部でも生魚が食える」
「それは……羨ましいです……」
はあとフルフルがため息をつく。
ヴェンディダードのロジスティクスはまだまだ発展途上だ。新鮮な魚を内陸部で食べられることはない。内陸部は肉、海に面した都市だけ魚と決まっているのである。
「フルフル。そのお魚は美味しいの?」
「はい、陛下。美味しいですよ。試されてみてはどうでしょうか?」
「いただくの」
レヴィアも醤油とわさびで刺身を食べる。
「ツーンってするの! でも、美味しいの!」
「ちゃんと野菜も食べろよ」
久隆はナスのお浸しを口に運ぶ。よく味が染みている。工場産ではないので、人工的な栄養素は加えられていないだろうが、それでもナスはナスだ。柔らかく、まろやかな味わいで、飽きさせない。
それから焼き鮭に移る。
久隆は昔、魚が嫌いだった。骨があって食べにくいのが嫌いだったのだ。だが、今では食べ方を理解しているので平気だ。パリパリに焼けた鮭の皮を味わいつつ、身をほぐして、白いご飯と一緒に食べる。鮭の丁度いい塩加減がご飯を進めさせる。
「明日は戦闘だ。腹いっぱい食べておけ。スタミナをつけておくことが重要だ。死なないためにもしっかりと食え。明日は腹が減っても飯が食えないかもしれない。食える時に食っておくのも兵隊の務めだ」
「はいっ!」
フォルネウスががつがつとご飯をかき込んでいく。
そうやって食事は進み、食事が終わると久隆とフルフル、マルコシアで食器を片付け、風呂に入り、早々に床に就いたのだった。
明日は11階層から15階層までの掃討と15階層以降への挑戦だ。
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本日の更新はこれで終了です。
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