マルコシアとの会話
本日1回目の更新です。
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──マルコシアとの会話
「マルコシアは贅沢病とか気にしないのか?」
「ああ。あれは爵位が高かったりする人たちの病気ですから。私のような平凡な出自の人間には関係ないかなって。それにあれって迷信だと思ってたんですよね。代々、ヴェンディダードの魔王や貴族の中で美食家だけが患う病。けど、他にファクターがあるはずだって思ったんですよ」
「ほう。何だと思ったんだ?」
「ずばり、食べ過ぎです。歴代の魔王や貴族たちでも美食家は肥満でしたから。痩せている王妃なんかは同じ食事を食べていても贅沢病になったりしない。まあ、しかし、ヴェンディダードの王宮はこれでもかってぐらいに迷信深いですから、そう簡単にあたしの意見が認められるとは思いませんが」
「ふうむ。迷信深いというと儀式やらがあるのか?」
「ええ。レヴィア陛下は若くして魔王になられましたが、王宮の行事を休まずこなしていらっしゃいますよ。五穀豊穣祈願祭や聖竜誕生祭、海神祭などなど。魔法的な効果はないと否定されているものでもレヴィア陛下は国民との結びつきのために、そして伝統的な王室のために努力なさっておられます」
「あいつも大変だったんだな……」
特別な地位に生まれついたから魔王なのではなく、国民のために尽くしてきたからこそ魔王。きっと向こうの世界では精神的な主柱だったに違いない。
今はお役目から解放されて緩んでいるのだろう。だが、久隆はそれを否定すまいと思った。どんな人間にだって、息抜きは必要だ。それにお役目から解放されていても、レヴィアは自分の国民たちを救い出そうと必死になっているではないか。
「レヴィア陛下。とっても人気があるんですよ。ヴェンディダードの誇りです」
「ああ。そういう人間がいるのはいいことだ」
久隆はマルコシアの言葉に頷いて返した。
「しかし、贅沢病を気にしないとなると美味い料理を食ってきたのか?」
「平凡な料理ですよ。特にバリエーションのない料理ばかりです。ヴェンディダードの食文化はあまり発達していませんから。平民は平民の知恵で少ない料理を可能な限り美味しくいただく。王侯貴族はたくさんの料理を美味しくなくいただく」
「それは食文化の発達は難しそうだな」
「だからですよ。あたしは久隆様についていって、地球の美味しい料理をヴェンディダードに持ち帰ろうと思っているのです。食べ物を運ぶわけじゃないですよ? 調理方法とかそういうことを学んでいきたいなって」
「俺は大したもんは作れんぞ」
「レヴィア陛下は絶賛していましたよ?」
「カレー程度で喜ばれてもな」
久隆は渋い顔をしながら、スーパーの駐車場に車を入れた。
「買うものは決まっているが、気になるものがあったら尋ねてくれ。地球の料理技術を持ち帰るなら、必要なものもあるだろう」
「久隆様はやっぱり滅茶苦茶優しい方ですね!」
「お互いのためだ」
久隆としては魔族の好みというのを把握しておきたかった。
なるべくならば好みの料理を出してやりたいところだ。日本食は久隆にはなじみ深いものだが、レヴィアたちにとってはそうではないだろうからにして。
「うわあ。品揃え、凄いですね」
「これでも乏しい方だぞ。ほしいと思うものは売ってなかったりする」
「いやいや。これは立派な品揃えですよ」
スーパーのラジオがポイントがお得という宣伝を流している中、久隆たちは買い物かごをカートに載せて目的の売り場に向かう。
「あ。桃だ」
「食べるか?」
「いいんですか?」
「ああ。お菓子を食べるより、果物を食べた方がいい」
恐らくは遺伝子組み換えものだ。栄養素が合成されているだろう。
このスーパーで遺伝子組み換えでない作物を探す方が難しいというぐらい遺伝子組み換え品種は受け入れられた。当初は発がん性などが疑われたが、そういう心配はないということははっきりと証明されている。
ただ、遺伝子組み換え品種と天然の品種が混じることを防止するために、工場の隔離されたエリア以外での遺伝子組み換え品種の栽培は法律で禁止されている。
「こっちには……パスタ?」
「パスタは食べないのか?」
「あたしたちは食べないですね。ほとんどパンです。南方では米が、西方ではパスタが食べられるみたいですけど。そうだ。フォルネウスが西方の出身だから、彼はパスタを食べると思いますよ」
「なら、今度はパスタにでもしてみるか」
出身地ごとに主食が違うとはヴェンディダードはかなり広大な国家らしい。
「さて、鮮魚コーナーだ。塩鮭を買っていくが、何か食べたいものはあるか?」
「……これってひょっとして生の魚を食べるんです?」
「そこは刺身コーナーだから、そうだな。生の魚を食ったことは?」
「あたしはないです。あたし、内陸部の生まれなんで。けど、フルフルは故郷が海沿いの街で、新鮮な魚をたくさん食べて育ったって聞いてますよ。ひょっとすると生の魚も食べたことがあるかもしれませんね」
「なら、フルフルのためにひとつ買っていくか」
久隆は刺身の盛り合わせをひとつ購入した。ここも内陸部だが、現代の流通網は内陸部にも新鮮な魚を届けてくれる。
「なあ、マルコシア。フルフルは俺のことをどう思っていると思う?」
「フルフルが久隆様を、ですか? どうしてそんなことを?」
「いや。確かに会ったのは数日程度前ってところだが、なかなか打ち解けられなくてな。レヴィアやフォルネウスとはすぐに打ち解けられたんだが、フルフルとはどうにもな」
「仕方ないですよ。彼女は家族を人間に皆殺しにされて、自分も命の危機に遭ったんですから。トラウマができているんです」
「そうか。だが、俺は向こうの世界の連中とは違うと示したつもりなんだが」
「ええ、ええ。久隆様は向こうの人間たちとは大違いですよ。それはすぐに分かりました。ダンジョン内で遭難していたあたしたちを助けてくれて、仲間に加わってくれた。それも何の対価も求めずに! 凄いことですよ。窮地にある魔族をあたしたちの世界の人間が見たら虐殺してくるに決まってますから」
マルコシアはそう告げてキラキラした瞳で久隆を見つめた。
「自分の家の裏山にあんなものがあってはな。だから、早く元の世界に戻れるようにしてやらなきゃと思ったからだ。俺は聖人じゃない。自分の損得勘定で動いている。そして、俺は軍人だった。軍人はこういう時に役に立たないと平時は役立たずだ」
「そういう謙虚なところ、大好きですよ!」
「そうかい」
久隆は鮮魚コーナーで塩鮭と刺身をカートのかごに入れ、それからほうれん草や豆腐、油揚げ、そしてダンジョン内で疲労回復のために食するチョコレートなどを求め歩くと、無人レジで会計を済ませた。
「他に必要なものはないか?」
「今のところは。久隆様にお任せです!」
マルコシアはそう告げて買い物袋をひとつ抱えた。
「それじゃあ、家に帰るか」
「夕食、お手伝いしますよ」
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