魔力回復ポーションの作成
本日1回目の更新です。
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──魔力回復ポーションの作成
収穫されるレモングラス。
「それをどうするんだ?」
「15階層に共同で使っている錬金術の道具があるのでそこで加工します。今から15階層まで潜ってもいいですか?」
「構わないが……。魔物が再構成されている可能性もあるぞ」
「その時はやめときましょう」
マルコシアはどんどん仕切っていくタイプだ。久隆の指揮下で行動しながら、自主的な判断が求められる場面ではその能力を発揮してくれるだろう。
「そ、そうですね。どうせ、また15階層まで掃討戦をやるわけですから。無駄なことは避けましょう。そうしましょう」
フルフルには捜索班の支援を行う要員としてそれこそ自主的に行動してほしいのだが、彼女は自己主張が乏しい。マルコシアに流されているのが現状だ。彼女にこそ久隆は下士官としての役割を担ってもらいたいのだが。
まあ、この人数なら久隆がなんとか仕切れる。
しかし、戦闘中となると目の前の戦闘に集中しすぎる上に、死の危険に晒されることから原始的な思考を脳が始める。知能指数は低下し、行動は反射的なものになる。久隆はまだ行動不能になるほどの知能指数の低下は起こしていないが、これから先、戦闘がさらに厳しくなればどうなるか分からない。
確かにひとつの体にふたつの頭脳があるのはいいことではない。船頭多くして船山に上るというように指揮権が複数の人間によって把握されていることは混乱を招く。軍隊において指揮系統は常にシンプルな一直線だ。
だが、指揮官の決断に助言をする人間はいる。それが参謀だ。
参謀に指揮権はないが、指揮官に対して様々な助言を行い、その指揮統率を支援する。もっとも、参謀がつくような部隊になると大規模であることが多い。分隊や小隊に正式な参謀はいない。ただ、古参兵の助言はある。新米士官を助けるための。
それから指揮官の下に就く下位の指揮官の存在も忘れてはならない。久隆が海軍特別陸戦隊に所属していたときには、彼が大尉の際は彼の12名の1チームを2チームに分けるときに、下位の指揮官を使った。その時、指揮を任されたのは下士官から叩き上げの准尉で軍隊を知り尽くしている頼れる人間だった。
2チームに分かれても頼りになったし、1チームに纏めたときにもその人物の軍人としての才覚には助けられた。『部下を使うのも指揮官としての仕事』とは久隆はその時にしっかり教わったつもりだ。
久隆の今の捜索班はその点でバランスが悪い。
久隆はベテランの指揮官だ。ある程度の範囲はカバーできる。だが、万能ではない。
レヴィアは地位はどうあれ、この捜索班では兵卒だ。指揮をする立場にない。
フルフルは前述の通り、自主性がなく、兵卒の地位に留まっている。
マルコシアは自主性があり、臨機応変だ。ある程度の指揮は任せられるが、久隆の代わりは務まらないだろう。
フォルネウスは文字通りの新米少尉だ。期待するものではない。
このような人員のため、この捜索班は頭脳である久隆が何かしらの形で行動不能になった場合、機能を喪失する恐れがあった。久隆ひとりの喪失で、捜索班残り4名が行動不能になるのはあまりにも望ましくない。
しかしながら、アガレスは渡せる人材がいないことを既に告げている。この問題は経験を積むことによって解決するしかない。実戦に勝る経験はなし。もっとも、訓練や教育を行える機会があるならば可能な限りそうするべきだが。
「まだ魔物は再生成されていないようだ」
「それなら15階層にいくの。レヴィアもフルフルたちが作ってくれる魔力回復ポーションがあったらもっと戦えるの!」
「そうだな。俺としても助かる」
レヴィアとマルコシアの直接攻撃も、フルフルの支援もどちらも頼りになる。
それにフォルネウスにも万全の状態で戦ってもらうには魔力回復ポーションが必要だろう。彼は魔法と剣技を合わせた攻撃を繰り出すのだ。
久隆たちは10階層から1階層ずつ、慎重に15階層に向けて降りていった。
結局のところ、15階層までの魔物はまだ再生成されていなかった。
「帰りが怖いところだが」
「きっと大丈夫なの」
「そう願いたいな」
フルフルとマルコシアは収穫したレモングラスを抱えて運んでいき、パイモン砦にある錬金術の設備に向かった。設備は化学薬品を合成するものに似ており、ビーカーのようなものやフラスコのようなものが金具で固定され、どういう原理か炎が延々と燃焼し続けている装置もあった。
それからは久隆が見ていても分からない作業だった。
ただ、ハーブティーを作るのとはわけが違うということだけだ。
切ったり、粉末にしたり、沸騰させたり、蒸留したりとフルフルたちは手慣れた様子で錬金術の設備を使いこなしていた。
「で、できましたー!」
「完成だー!」
フルフルとマルコシアが歓声を上げる。
「できたのか?」
「え、ええ。ま、まずは私が試してみますので魔力を消費させてください。その、付呪をかけてもいいですか……?」
「いいぞ」
久隆はフルフルの前に立つ。
「『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を』」
フルフルがいつも通りの付呪を行う。
「これで魔力を消耗しました。り、理論が正しければこの魔力回復ポーションで失った魔力を回復できるようになるはず……!」
フルフルがぐいっと魔力回復ポーションを飲み下す。
「ああ、ああ。回復しました! しましたよ! 成功です!」
「やったね、フルフル! これで戦力倍増!」
フルフルとマルコシアがハイタッチを交わす。
「量産はできそうなのか?」
「は、はい。私たち以外にも錬金術に通じた魔法使いはいますから……。うう、これでようやく遠慮なく魔法が使える……」
「よかったな。これからも頼りにしているぞ」
「に、人間に頼りにされても……。こ、これはあくまで自分たちのためですから……」
フルフルは俯いてそう告げた。
「ばりばり頼りにしてくださいね! 張り切りますから!」
「おう。期待しているぞ、マルコシア」
マルコシアの方は任せてくれと言わんばかりの反応だった。
「マ、マルコシア……。これは人間なのですよ……。そのような反応を好まない魔族もいます……。用心してください」
「フルフルは久隆様のこと、嫌いなの?」
「嫌いとか好きとかそういう問題ではなく……」
マルコシアの返答にフルフルがあわあわする。
「嫌いじゃないならいいじゃん! 他人がどう思おうと気にしない、気にしない!」
「い、いや、それは、その……」
マルコシアとは仲がいいのだろうが、こういう場面ではコミュニケーションが一方的である。フルフルは何を言いたいのか分からない。
「それじゃあ、これをガンガン栽培して、ガンガン魔力回復ポーションを作って、ガンガンダンジョンを攻略していこう!」
「え、ええ。我々が元の世界に帰還するためにも」
「そうだね。元の世界に帰らないとだね」
そのためには宮廷魔術師長べリアを見つける必要があると久隆は内心で思った。
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