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新しい感触

本日1回目の更新です。

……………………


 ──新しい感触



「薄切りタンお持ちしましたー」


「おお。来たぞ。焼いた肉ばっかり食ってるそうだが、肉ってのは高級品なんだぞ? 牛を育てる穀物を食用に使えばもっと大勢の飢えている人間を救えるっていうベジタリアンもいるぐらいだしな。まあ、俺はそんなことは知ったことじゃないが」


 今は食料生産も工場で行われる。


 地球温暖化による異常気象は自然に任せた農法を壊滅的な状況に追いやった。


 そこでメティス・バイオテクノロジー──ナノマシンの開発で聞いた名前であるメティス・メディカルは系列企業──を始めとする先進国の巨大企業は食料の工場生産を始めた。遺伝子操作された品種に、栄養素が人工的に付加された人工的な栽培環境、完全に屋内でLEDライトとAI管理された状況での栽培。


 この手の食料は世界を救った。


 世界的な食糧危機が叫ばれていた中、メキシコの工場で大量生産される食物は家畜の餌にもなったし、先進国に暮らす人々の食事にもなったし、食糧危機の影響が特に深刻だった第三世界に世界食糧計画(WFP)が支援を行うのを助けた。


 そのことによって膨大な利益を上げたメティス・バイオテクノロジーの例に倣い、日本でもいくつもの食料工場が建設され、やはり遺伝子操作された食料が、人工的な環境で生産された。このことで起きた悲劇は従来の農法は、一部の金持ちが『ナチュラルフード』として楽しむぐらいしか役に立たなくなったことだ。


 今、ここで提供されている山菜とサクラエビの天ぷらも、山菜はどこかの工場で作られたものだろう。ジャガイモからトマトまであらゆるものを工場は生産し続けている。


 そのせいで季節感はなくなった。久隆が微かに季節感を感じるのは気温の変化と年寄りたちが趣味にしている家庭菜園で採れた品を差し入れてくれるときぐらいだ。


「さっ。焼けたぞ。その透明なタレで食ってみろ」


「うー。焼いた肉は焼いた肉なの……」


 久隆にとっては香ばしい香りもレヴィアたちにはうんざりするほど嗅いだ臭いらしい。だが、久隆が程よく焼けた薄切りタンを小皿に取ってやり、レヴィアがレモンと秘蔵のタレにつけて、口に運ぶと目の色が変わった。


「美味しいの!」


「だろ? 熊本は阿蘇の赤牛だ。知名度もそこそこの高級肉だぞ。どんどん焼いていくから、注文は好きなものを頼んでくれ。メニューは読めるだろう?」


「カルビが食べてみたいのね!」


「よし。カルビだな」


 アミ交換は無料なので好き勝手に焼いていっていい。


「美味いの!」


「……これ、焼いた肉ですよね……? タレ、のせいでしょうか……」


 レヴィアがパクパクと肉を食べていくのに、フルフルが首を傾げる。


「サラダ、取り分けておきますね、久隆様」


「おう。全員、野菜も食えよ」


 マルコシアがサラダを取り分けて全員に配っていく。


「うむ。美味いですね、久隆様! 我が国にはない味です。いや、我々が知らないだけなのかもしれないです。贅沢病を恐れるのは贅沢に暮らせるものたちに限られていると思われていますからね。一度遠征で向かった村のシチューも美味しかった……」


「肉もらいなの!」


「ああっ!」


 フォルネウスが焼いていた肉をレヴィアが横からかっさらった。


「行儀の悪いことをするな。いくらでも頼んでいいからな」


「久隆はいい人間なのね。大好きなの!」


「食い物に簡単に釣られる奴だな、お前は」


 それからは次々に肉を注文しては焼き続け、食べ続けた。


 流石は10代から20代のよく動くものたちばかりなので、肉はどんどん消費されて行く。フォルネウスは馬刺しに挑戦したり、フルフルがテールスープを味わったり、マルコシアが久隆と一緒に肉を焼く係になったりしながら、捜索班新入り歓迎焼肉パーティーはなごやかな雰囲気の中で進んだ。


「焼いた肉がこんなに美味しいとは思わなかったの。新しい発明と言っていいの」


「な、言った通りだろう? こっちで焼肉をするって言ったらみんなが喜ぶんだ」


「それは納得なの」


 レヴィアたちは最後のデザートにアイスクリームを食べて、パーティーは終わった。


 久隆が会計を済ませ、レヴィアたちは車に乗り込む。


「今日は風呂入ったら、さっさと寝ろよ。寝るのは消化にいいんだ」


「そうするの。ふわあ……」


 言われるまでもなく、レヴィアは眠たそうだった。


 また自動車で時間をかけて村に帰る。村は郊外にすら入れない。もはや人の住む土地ではないと思われているかのようである。


 しかし、ホームセンターとスーパーがあるだけマシだと久隆は思う。


 そして、自宅に帰宅すると朱門が玄関先でするめを片手にビールをちびちびとやっていた。久隆は眉を歪めて周囲を見渡し、この闇医者が村で噂になっているのではないかと思った。噂にされるとあまりよくない。


「よう、久隆。現金が入用なら言えよ。報酬を差っ引いた額を渡すぜ」


「ありがとよ。だがな、玄関でビールを飲むな、玄関で」


「暑い中で飲むのがいいんじゃないか。まあ、温くなっちまったけど」


「馬鹿か、お前は」


 久隆は心底呆れた。これで難関の国防医大を出て、佐官まで昇進しているのだから恐れ入る。彼自身にはそのようなつもりは全くないのだろうが。


 久隆と同様に、その日、その日を生きてきて、壊れた。


「その臭い。焼肉か? 俺も誘えよ」


「お前はいなかっただろう。どこ行ってたんだ?」


「熊本の中心街まで。あれだな。熊本も城があるくらいで他の地方都市と変わらんな」


「俺の生まれ故郷だ。文句を言うな」


「悪い、悪い。東京に慣れているとどうにもな」


「東京と比べられてはな」


 東京一極集中が続いてどれほどの年月が経っただろうか。


 今は熊本にいてもインターネットで東京の仕事ができるが、やはり大企業は拠点を東京に置きたがる。東京は何かと便利で、儲かる機会があるからだ。人口減少と高齢化の時代を迎えても、東京の人口だけは増え続けていた。


 今は地方もいろいろと支援策を打ち出し、企業誘致や移住に熱心だ。だが、地方都市は地方都市。その発展は壊れた時計の針のように止まっている。


 例外は福岡や大阪などの大都市で、子育て支援に大々的に政府と地方自治体が力入れた結果、子供がペット気分で産める時代となり、人口は増加傾向にある。


 やはり人間は便利な都市がいいのだろう。


民間軍事企業(PMC)に入ることは考えなかったのか?」


「考えなかった。向こうも雇わんだろう」


「まさか。義肢だとしても指揮参謀課程を通過している佐官なら連中は大歓迎さ。何も民間軍事企業(PMC)がどいつもこいつも前線でドンパチしているわけじゃない。中には国防計画の策定や、人材育成に携わっている連中もいる」


「それでも考えなかっただろう。俺は税金で養ってもらった。その技術を易々と外国のために使いたくはない」


「他所の世界の連中のために使うのはいいのか」


「痛いところを衝くな。だが、まあ、あれは事故みたいなものだからな。こっちが世話してやらないと、連中の未来が脅かされる」


「お前を雇ったかもしれない民間軍事企業(PMC)もその国の未来に関わっていたかもしれないぞ? 民間軍事企業(PMC)は儲かる。久隆、軍人としてもお前の技術と知識は連中が求めるものだ。これが終わったら考えろ。一生、この田舎で人生を終えるのか。それとも再び外に出るか」


「そうだな」


 だが、久隆はどうにも民間軍事企業(PMC)で働く気にはなれなかった。


……………………

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王様がどんどん愉快なマスコットになって…(・∀・;)
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