焼肉パーティー
本日2回目の更新です。
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──焼肉パーティー
「さて、今日の夕食は焼肉だ」
「ええー……。焼肉なの……?」
「反応が地球の人間と全然違うな」
普通、焼肉に行くと言ったらもっとテンションが上がるものである。
だが、レヴィアたちにとって焼肉とはそのままの意味のものなのである。つまりは焼いた肉。贅沢病を防ぐために塩だけで味付けられた焼いた肉。焼肉と聞いてもレヴィアたちはどうしてもそちらの方を思い浮かべてしまうのである。
「美味い店にいくから張りきっておけ。ここらにある中じゃ一番いい店だ。肉を食ってスタミナをつけて、11階層から15階層の再掃討と、15階層以降の戦いに挑むぞ」
「けど、焼肉なの。それならカレーがいいの」
「カレーは今度作ってやるから。こっちの世界の焼肉は美味いぞ。期待しておけ」
「むー……」
確かに焼肉もただの焼いた肉かもしれないが、いろいろと異なる。
「そう膨れるな。きっと焼肉に対する認識が変わるぞ?」
「本当なの?」
「本当だ。期待しておいていいぞ」
いい肉は塩をして焼いただけでも美味いものだ。
確かに毎日それというのは胃に来るだろうが、ここ最近はレヴィアは焼肉を食べていない。ここはレヴィアたちの焼肉の認識が変わるような美味い肉を食わせてやり、スタミナをつけさせてやろうと久隆は思った。
「予約はしたから、時間になったらでかけるぞ」
「はーいなの」
レヴィアはポチポチとゲーム機で遊び始めた。
その間、久隆は明日の弁当の支度を済ませ、箱で買ってきた麦茶のペットボトルを冷蔵庫に入れる。こういう家事は独り暮らしを始めてから覚えた。海軍では食事は自分で作らなくても出てきたし、大抵の艦艇にはドリンクサーバーがあったものだが、もはや久隆は海軍の軍人ではないのだ。
「さて、時間だ。出発するぞ」
「おー!」
久隆たちは自動車に乗り込む。初自動車のフォルネウスはマルコシアからシートベルトの締め方や、この車が浮いて移動すると言ったでたらめを吹き込まれている。
焼肉屋は都市部にある。都市部と言っても熊本の中心地──過疎化と高齢化は都市部にも及んでおり、物寂しい場所だ──ではなく、その郊外にある場所だ。久隆たちが買い物をするショッピングモールなどがある場所である。
意外なことだが、都市部からやや離れたこの郊外にも美味い飯屋はあるのだ。久隆も引っ越してきてから食レポアプリで知った店で、それなりの値段ながら、美味い肉と美味い飯を食わせてくれる。
「ここだ」
「焼肉なの……」
「美味いから期待しておけって」
まだレヴィアは焼肉が不味いという気持ちを捨てきれずにいるようだ。
「予約していた球磨だ。5名」
「承っております。お席にご案内します」
この店は和食と焼肉の組み合わせで、和食の一品料理やコースも味わえる。熊本らしく馬刺しを使った料理もメニューにある。
久隆たちは案内された席に座り、メニューを広げるのだが。
「マ、マルコシア? あなたがこっちに座りませんか……?」
「遠慮しないでいいよ、フルフル」
久隆の両隣りにレヴィアとマルコシア、その向かいにフルフルとフォルネウスという組み合わせになっていた。人見知りの気があるフルフルとしてはあまりしらないフォルネウスの隣は居づらい。だからと言って、久隆の隣は隣でちょっと嫌なのだが。
理想としてはマルコシアとフォルネウスが席を交換してくれるのが嬉しいのだが、マルコシアはしっかりと久隆の隣をキープしている。
「さて、メニューは……。ああ、翻訳魔法がないと読めないんだよな?」
「翻訳魔法使えますよ。ほいっと」
マルコシアがメニューに何かしらの詠唱をして翻訳魔法をかけた。
「じゃあ、好きなものを選んでくれ。飲み物も好きなものを」
「わっ! 焼肉なのに焼肉以外のものがいろいろあるの!」
「サラダは食っておけよ。肉だけ食うと体に悪いからな」
久隆は運転代行に任せてここではいい酒も出すので、今日ばかりは酒を飲もうかと思ったが、酔っていて正常な判断ができなくなると、この異世界人4名を連れている状態では致命的だと考えて止めた。
「山菜とサクラエビの天ぷらって頼めます?」
「それだな。で、まずはタン塩だ。焼肉はこれからだ」
「たんしお?」
「牛の舌だ。レモンで食べる」
「舌を食べるの!? そ、そんなにこの国は食べるものに困っているの……?」
「純粋に美味いんだよ」
それから久隆が頼んだサラダやマルコシアの頼んだ山菜とサクラエビの天ぷらなどが届き、それぞれの飲み物が行き渡る。ここでは全員ウーロン茶という選択になった。
「それでは遅くなったがマルコシアとフォルネウスの加入を祝して、乾杯」
「乾杯!」
かちゃんとグラスを鳴らす。
「マルコシアとフォルネウスは学園で面識あったようだが、フルフルとはなかったのか? 何か微妙に距離があるように思えるんだが」
「はっ! マルコシアとは学園で炎系統の魔法が得意だということでいろいろと教わりまして。フルフルさんとはその時点では面識はなく。あのダンジョンで初めて出会った次第です。しかし、宮廷魔術師長の側近であるフルフルさんは流石ですね」
フォルネウスはそう告げるが、フルフルはウーロン茶をちびちびやって誤魔化している。話に加わりたくないらしい。
「久隆様は海軍に在籍されていたそうですが、海戦には何度も参加されたのですか?」
「あるにはある。俺の部隊は特殊でな。陸軍の歩兵と同じように地上で行動する。この世界では陸海空情報の4つの分野が連携して戦うことで勝利が得られるというのが常識になっている。統合作戦と言ってな。俺たちは海軍と陸軍、空軍との連携を行うための部隊だった。海軍が陸軍部隊を支援するための任務もあったし、空軍に的確な攻撃を行わせるための部隊でもあった。そういう部隊だ」
久隆は一息置く。
「もちろん、海戦にも参加した。人質が取られた商船を奪還するのに商船に密かに乗り込んで敵を殲滅したこともある。俺の経験した海戦というのはこの手の物が多い。そっちの海戦はどういうものなんだ?」
「軍艦同士が突撃し合い、勇猛な海兵隊が相手の船に向けて魔法を放ち、乗り込んで攻撃を加えるというものです。自分も海軍のことは本でしか知りませんので何とも言えませんが。それでも海兵隊たちは近衛騎士より勇敢だという話は聞いています」
「なるほど。俺たちは船に乗り込むこともある。臨検と言って、非合法な品を運んでいないかどうかを調べるんだ。俺が海軍にいたときには複数の国家に大規模な経済制裁が行われたから、その制裁を履行するためにも俺たちの部隊は動いていた」
非合法な品──経済制裁の対象となっている石油などの資源、電子機器、そして兵器。そういうものが敵国の手に渡ることを防ぐのも久隆たちの仕事だった。
だが、敵も臨検が行われることは分かっている節がある。封鎖線を突破するために武装した船員を内部に抱えている商船も少なくなく、久隆たちは度々戦闘に巻き込まれた。
「ダンジョンに適応できたのはその経験からだろうな」
船内での戦闘はダンジョンでの戦闘に似ていると久隆は語る。
基本、閉所での戦闘。それでいて非合法な品を輸送しているか確かめるため──というよりも、うっかり核燃料が入ったケースなどを傷つけないように──手榴弾などは使えず、作戦時刻は夜であることが多い。
ダンジョンの狭さも、薄暗さも、使用するべき武装の制限もよく似ていた。
だが、海軍時代にはサブコンパクトモデルの自動小銃が使えたし、スタングレネードも使用できた。その利点がなくなったのがダンジョン攻略を難しくしている。
だが、臨検や海賊対策における閉所での戦闘の経験は、確実にダンジョン攻略に活きていると久隆は語る。
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本日の更新はこれで終了です。
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