16階層の戦い
本日1回目の更新です。
……………………
──16階層の戦い
ジャイアントオーガが迫る。
その巨体はダンジョンの廊下には巨大すぎ、振り回す長剣も長すぎる。
あたかも随伴歩兵のいない孤立した戦車が市街地に迷い込んできたようなものだ。動きは制限され、いくらセンサー類が充実していたとしても隙を突かれる。
建物の屋上から上部装甲への対戦車ロケット弾による攻撃。建物の中からの対戦車ミサイルによる攻撃。路肩に設置された榴弾砲の砲弾を束ねたような即席爆発装置による攻撃。あらゆる攻撃に晒される。
それから鈍重な重戦車の片付け方にはもうひとつ方法がある。
近接攻撃だ。
対戦車地雷や対戦車手榴弾による近接攻撃。動きの鈍い重戦車にはよく効く。
久隆はいわばそのような攻撃を仕掛ける対戦車兵だった。
対戦車地雷の代わりに斧を、敵のキャタピラの代わりにその頭部を。
久隆は地面を蹴って跳躍し、ジャイアントオーガの首を狙って斧を振るった。ジャイアントオーガは長剣で応戦しようとするが壁に引っかかって持ち上げられない。そして、その鈍重な体では身を翻して攻撃を回避することもできない。
首が刎ね飛ばされる。
久隆は首を失ったジャイアントオーガの死体を蹴って、次のジャイアントオーガに飛びかかる。狙いはやはり頭部。ジャイアントオーガは防御しようと片腕を上げたが、久隆は降ろし蹴りでそれを叩き落とし、そのままジャイアントオーガの頭部を叩き割った。
最後の1体は長剣を辛うじて自分の頭を守れる位置に掲げていたが、久隆はまずその武器を掲げる手を引き裂いて武器を取り落とさせ、壁を蹴ってジャイアントオーガの首をまたしても刎ね飛ばした。
「フォルネウス! そっちは退けたか!」
「もうすぐです!」
フォルネウスはフルフルとマルコシアの支援を受けて戦っていた。
敵は鎧オーガ。鎧は既にフルフルの手によって弱体化されている。マルコシアがそこに爆発の呪文を叩き込み、鎧オーガたちの鎧を破壊した。
フォルネウスはその鎧が半壊した状態の鎧オーガたちと戦っている。
「はあああっ!」
フォルネウスは声を上げて相手に切りかかる。
鎧オーガが袈裟懸けに切り裂かれ、後ろに倒れる。次の鎧オーガはダンジョン内では取り回しづらい長剣でフォルネウスに襲い掛かってくる。フォルネウスはその一撃一撃を受け止めながら、相手の隙を見て反撃を加えた。
久隆の戦いと比べると地味ではあるが、フォルネウスの戦いは堅実だ。
短剣を突き出し、鎧オーガの急所である心臓を射抜く。
短剣で首を裂き、鎧オーガの頸動脈を断つ。
短剣に炎を纏わせ、鎧オーガの腹部を突き、敵を内蔵から燃え上がらせる。
「か、勝った……!」
「よくやった」
いつのまにかフォルネウスの隣には久隆が立っていた。久隆はフォルネウスが不利な状態に陥るならば手助けしようとしていたのだ。
「頑張ったね、フォルネウス!」
「よくやったの、フォルネウス」
マルコシアとレヴィアがそう告げ、フルフルは後ろで頷いている。
「……情けないです。自分も久隆様同様にフルフルさんの付呪をかけてもらっていたのに、久隆様がオーク3体とジャイアントオーガ3体を倒すまでオーガ3体に苦戦していただなんて。本当にお強いんですね、久隆様は。それとも自分が弱すぎるのか……」
「鎧オーガ相手に苦戦してもしょうがない。連中は魔物でも厄介な部類に入る。それにお前はちゃんと任務を果たした。こうしてフルフルとマルコシアは無事だ。ちゃんと彼女たちを守り抜いた」
新兵に自信を持たせすぎてはいけない。新兵はとにかくこき使い、軍隊の何たるかを、階級の何たるかを教えてやらないといけない。新米少尉の面倒を見るのは曹長だが、その上にいる上官は新米少尉をこき使い、軍隊の過酷さについて教える。曹長は時として新米少尉を手助けし、時に軍隊の何たるかの理解を助ける。
新兵にストレスをかけるのは何も教育に当たる古参兵の嫌がらせではない。その手のパワハラは軍隊から一掃された。新兵に合理的なストレスをかけるのは、新兵が戦場でより大きなストレスに直面したときでも生き残れるようにするためだ。
確かに現代の先進国には戦場適応化ナノマシンが投与され、戦場でのストレスをほとんど感じることなく戦うことができる。だが、ナノマシンが人が設計し、人が作ったものである以上、それが壊れるという可能性は必ずあるのだ。
そうなれば兵士は己の勇気と殺意で敵と戦わなければならない。これは先進国に限ったことではなく、ナノマシンを導入する余裕のない中小国の軍隊もそうだ。彼らはナノマシンなしで戦わなければならない。そして、敵は軍隊の教官以上に過酷なストレスを兵士たちに対して強いてくる。
その時に生じるストレスに耐えられるように上官は兵士たちをこき使う。パワハラギリギリのラインでストレスをかけ、どんな状態だろうとストレスに耐えられるようにする。ストレスに耐えられなかった兵士はそれまでだ。
ちなみに、パワハラギリギリというのは訓練の項目を倍にしたり、演習で不条理な状態に置くことを指す。久隆も海軍時代はそれでしごかれた。それでも昔のように古参兵がわが物顔で闊歩し、殴る蹴るの暴行を加えないだけマシな話だ。人手不足の海軍はその手の体罰を厳しく処罰し、合理的な新兵教育に切り替えた。
体罰をしても教育にはならない。教育したいなら訓練を課すことだ。とにかく、とにかく、何が何でも徹底的に訓練を重ねさせるべきだ。
そういう意味ではフォルネウスを久隆が励ましたのはいいことではない。フォルネウスは新米少尉であり、これからしごかれる立場だ。まだ軍隊という名の家の玄関に立ち、戦争という悪夢を少し覗いたぐらいの新米を甘やかすべきではない。
そう、久隆も余裕があれば甘やかしたりしなかっただろう。
だが、新米少尉を戦地で使い物にするには実戦をとにかく経験させて、戦争の何たるかを叩き込むしかない。そして、ナノマシンの代わりにストレスを取り去ってやるしかないのである。ここは安全が保障された演習場ではない。戦地だ。兵士に過度のストレスを与えて、その精神が壊れてしまうことは防がねば。
それに久隆からしてもフォルネウスの立ち回りは堅実なものに見えた。
発展の余地はある。これから先、生き残り、経験を積めばいい兵士になる。
久隆はフォルネウスをそう評価していた。
「自分も久隆様のように戦えるでしょうか?」
「不可能ではない。そして、お前に与えられた任務はより多くの敵を倒すことではない。部隊の後方を守り抜くことだ。そして、お前はそれをちゃんとやれている」
「……精進します」
「努力は必ず報われる。実戦経験を積めば分かることもあるだろう」
久隆はそう告げて、16階層の地図の作成を始めた。
アガレスから渡された地図の穴が埋められていく。
……………………




