戦えるのか?
本日1回目の更新です。
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──戦えるのか?
新米少尉を受け入れるべきか否か。
人手は足りていない。戦力は不足している。戦力が増えるのはありがたい。
だが、新米少尉が戦力となるのか、それともお荷物になるのかは分からない。
「実際に会ってみたいんだが」
「もちろんだ。今、呼ぼう」
アガレスがダンジョンのフロアの向こうに向けて名前を呼ぶ。
「アガレス閣下。フォルネウス、参りました!」
「よろしい。久隆殿がお前に会ってみたいと言っておられる。話は彼から聞くように。近衛騎士として恥をさらさぬようにな」
「はっ!」
ヴェンディダード式の敬礼なのかアガレスの言葉にフォルネウスと名乗った青年の魔族が胸に握った拳を当てて返す。
久隆はフォルネウスという魔族を見る。
年齢は新社会人──20歳前半ごろ。西洋中世式の兜を被っているので髪型は分からないが、どうやら伸ばしているようであり、背中に三つ編みしたアッシュブロンドの髪が流れている。顔は中性的で女だか男だか分からないようなものである。兜からはやはり魔族の象徴なのか、角が飛び出しているのがうかがえる。角は一角獣のそれを短くしたように真っすぐ額から正面に伸びている。
全身鎧を纏っているために体格についての判断が難しいが、久隆が見る限りそれなりに鍛えられているように思われた。武器は腰に下げた短剣で、刃渡り30センチほど。閉所であるダンジョンで振り回すには問題ない長さだ。
久隆はしげしげとフォルネウスを観察すると立ち上がった。
「フォルネウス。実戦経験は?」
「今回が初めてであります! ジャイアントオーガ1体と鎧を纏ったオーガ3体を撃破しました! 単独で、であります!」
「そうか」
単独であれだけの化け物が仕留められるならば全くの無能というわけではなさそうだ。だが、気になる点はいくつかある。
「それは自分の判断で倒したものか? それとも誰かの指示を受けたものか?」
「指示を受けたものであります! アガレス閣下の指揮の下、戦いました!」
「なるほど」
指揮さえちゃんとしてやれば大物相手でも戦える。
これは案外使える人材かもしれないと久隆は思い始めた。
「魔物を殺すときに戸惑ったことは? 正直に答えてくれ」
「……最初は戸惑いました。ですが、今は戸惑わないであります!」
「そうか」
殺しの洗礼は受け入れたか。
「俺の指揮下で戦うのに不安は? 正直に答えてくれていい」
これが重要だった。
指揮官が部下から疑問や猜疑の念を向けられるのは好ましくない。軍隊とは、ひとつの部隊とは生物であり、頭脳の判断に手足が従わなければ、生き残れない。
上官からの命令は絶対。命令に逆らうことはどこの軍隊でも重い罰となる。そうやって命令を強制させてでも、軍隊は頭脳の判断に手足が従うようにしているのだ。
だが、ここには抗命罪を定めた軍法も、それを裁く軍法会議も存在しない。仮にフォルネウスが久隆に命令に逆らったり、従わなかったりしても、それを罪として裁くことはできない。故に久隆は不安なのだ。
果たして、フォルネウスは命令に従ってくれるだろうか、と。
「不安はありません! 久隆様は我々に助けの手を差し伸べられ、水や食料を提供してくださいました。その上、負傷兵の治療も行ってくださった。そして、何より我々が守れなかったレヴィア陛下を守ってくださった」
フォルネウスは迷いなくそう答えた。
「それに久隆様はジャイアントオーガですら容易に倒す剛の者と聞いております。ともに戦えるのが楽しみでなりません。どうか、自分を久隆様の捜索班に加えてくださいますようお願い申し上げます!」
フォルネウスはそう告げて頭を下げた。
「命令に従ってくれるなら文句はない。一緒に戦えるのを楽しみにしている」
「ありがとうございます!」
フォルネウスが満面の笑みを浮かべる。
「では、まずは何ができるか聞いていいか? それによって部隊におけるポジションが決まる。剣技が得意だとか、魔法が使えるとか。そういうのだ。何なら弓矢に精通しているでもいいんだが」
「自分は魔法剣の扱いを得意としております!」
「ふむ。俺は魔法についてはさっぱり分からん。説明してもらっていいか?」
魔法ならレヴィアたちのを見たが、魔法剣となると分からない。
「文字通り、魔法を込めた剣であります。自分のものは炎を宿した剣です。相手を切り裂くと同時に炎を叩きつけ、敵を屠ります! 魔法同様に使用者の魔力を消費しますが、魔力に関しても鍛えておりますのでご安心を」
「それは頼りになりそうだ。お前には後衛を任せたい。今の我々は魔法使いに比重が寄っていて、物理攻撃で敵を屠り、敵の攻撃から魔法使いを守る人間が欠けている。これはあまり好ましくない。俺はダンジョン内で進行方向の守りを固めるので、お前には後方の守りを固めてもらいたい。できるか?」
「やり遂げる次第です!」
「よし。では、うちの捜索班と合流しよう」
久隆はフォルネウスを使えると判断した。
確かに久隆には選ぶ自由はなかったし、新米少尉にあまり大きな期待をするものではないことは分かっている。だが、それでも貴重な戦力だ。これから敵が強化されるのならば、戦闘時間は長くなる。それに伴い他の敵に乱入される可能性も上がる。
前後から敵に挟まれる可能性はあるのだ。既にそういう事態を何度も迎えているのだから。だから、フォルネウスは必要だ。
幸いにして素直そうな若者だったし、やる気もある。士気は高い。そうであるならば、それ以上要求をつけるのはできないだろう。ただでさえ他所の軍の兵士を、軍人ですらない自分の指揮下に入ってくれと言っているのだ。それがどれほど無茶苦茶なことなのかは久隆自身がよく理解している。
アガレスは最善を選び、フォルネウスは最善を尽くし、久隆はそれを受け入れる。
「よう。戻ったぞ、レヴィア」
「仲間は見つかったの?」
「ひとり新しく加わる。フォルネウスだ」
久隆はそう告げてフォルネウスを紹介する。
「レヴィア陛下! 陛下の捜索隊に加われて光栄であります!」
「近衛騎士なのね! 戦力倍増なの!」
「は、はっ! 至らぬ点はあるかと思いますが最善を尽くします!」
レヴィアの期待を前にフォルネウスが戸惑っている。
「あれ? フォルネウス?」
「マルコシア? 君もレヴィア陛下の捜索班に?」
マルコシアがフルフルとやってきて驚いた表情を浮かべる。
「そうだよ。あたしは数日前から。フルフルはもっと長い。フルフル、覚えてる? 魔法学園に魔法剣の取得のために3か月ぐらいいたフォルネウス。将来の近衛騎士が学園に来たって話題になったよね!」
「そ、そうでしたね……。凄い騒ぎだったと記憶しています……。彼が帰ってくれてほっとしました……。あ、いや、その、あなたのことが嫌いだったわけではなく、ちょっと学園が騒々しくなったので神経質になっていたというか……」
フルフルが顔を赤くしながらそう告げる。
「君たちがいるなら自分はいらないくらいだな」
「久隆様が人員はもっとほしいって言っていたんだよ。それから朗報。もしかすると、魔力回復ポーションが作れるようになるかもしれない」
「本当か!?」
「んー。あんまり期待されすぎても困るけど、10階層でテスト中」
「10階層か。エリアボスは?」
「マンティコアだったって。久隆様がやっつけたんだよ! そうですよね?」
マルコシアが久隆に話題を振る。
「レヴィアとフルフルの協力があってのことだ。俺ひとりでは無理だった」
「自分の偉業をひけらかさない。まさに騎士道だよねー!」
マルコシアはそう告げて満面の笑みを浮かべた。
「マンティコアまで討伐されているとは……! これは自分も久隆様からいろいろと教わらなければなりませんね!」
「まあ、取り入れられる点は取り入れてくれ」
しかしながら、知り合いが多いな。世界は狭いと久隆は思った。
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