人手不足
本日2回目の更新です。
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──人手不足
久隆たちはまだ魔物の再生成が行われていない11階層から15階層を下り、アガレスの拠点であるパイモン砦までやってきた。
「おお。久隆殿! また会えて嬉しい」
レヴィアたちはマルコシアと一緒に他の兵士たちを慰問することになっており、彼女たちは災害非常食を配って回っているところだった。
アガレスは拠点で地図を前に久隆を出迎えた。
「15階層以降の具体的な情報は入手できたか?」
「ううむ。出没する魔物や階層の地図については少しばかり。我々も本格的なダンジョン攻略を考えて捜索班を編成しているところだ。久隆殿たちが拠点とする地上までのルートを定期的に掃討する捜索班と、久隆殿たちと同じように深層を目指す捜索班」
「それはありがたい。撤退する時に後方連絡線が維持されているのは望ましい」
「これ以上、久隆殿たちの世話になりっぱなしではな。負傷者も治療してもらったし、食料や水、医療品も提供してくれた。我々は今ならば戦える!」
戦力倍増だなと思う反面、これから彼らが積極的に行動することになると物資の補給が急務になり、朱門の世話になることも増えそうだとデメリットも久隆は計算した。
「では、20階層までのことで分かっていることを教えてはくれないか?」
「うむ。鎧付きジャイアントオーガが17階層から出没するようになる。それから重装オーガが出没する。敵の守りは上がるばかりだ。これまでのような戦いとはいかないだろう。だが、数については減少傾向にあることが分かっている。18階層のモンスターハウスを除いて、だが」
「重装オーガや鎧付きジャイアントオーガは兜は被っているのか?」
「被っている場合もあるし、そうでない場合もある。何故それを?」
「弱点が限られてくるから、だ」
少なくとも久隆が見かけた兜付きのオーガやオークはローマ時代の歩兵の兜に似ており頭部を守ることだけに限定していた。兜を被っているならば頭部への打撃は難しくなるかもしれない。だが、首への攻撃は有効だ。また斧を使っていける。
首まで守られたらフルフルの付呪が頼りだが、重装と付くにはそれなりの強度なのだろう。やはり首を狙うしかない。
マルコシアには敵を鎧ごと蒸し焼きにするという手段もあるし、レヴィアの氷の槍や刃も威力が上がっている。彼女たちの支援も重要だ。
しかし、斧が通じなくなったらどうするか? ということを久隆は考えていた。
今のところ、斧は不気味なほど頑丈だ。刃こぼれひとつしない。フルフルの付呪がかかっているとは言えど、鎧を叩き切ったら刃こぼれのひとつふたつはしてもおかしくないはずなのだが。これもダンジョンの影響か? と久隆は思う。
そういえば、負傷兵はいても、武器が欠損した兵士は見かけなかった。鍛冶職人を連れてきているとは思えないし、ダンジョン内では武器は壊れないのだろうか。
後でレヴィアに聞いておこうと記憶の隅に留めた。
「では、情報を交換しよう。こちらはこの15階層から地上までの地図と魔物の種類について提供できる。そちらは15階層から分かっている範囲のことを」
「もちろんだ。こちらに記してある」
そこでおっとというようにアガレスが手を叩き、誰かを呼んだ。
「お呼びでしょうか、アガレス閣下」
「翻訳魔法をこの資料にかけてくれ」
「畏まりました」
ああ。そうか。俺たちは言語が異なるんだったと久隆は思い出した。レヴィアたちがあまりにも流暢に日本語を喋るために忘れていたが、本来は久隆たちは異なる言語の世界の住民同士なのだ。
魔法使いが何事かを詠唱し、改めてアガレスと久隆が資料を交換する。
「ふむ。これはとても具体的な情報だ。ありがたい。こちらの情報はやや断片的で申し訳ないが……」
「構わない。全く情報がないよりも遥かにマシだ」
16階層は15階層までと同じ魔物。17階層から鎧ジャイアントオーガと重装オーガが出没する。バリエーションが増えているように見えるが、実際はジャイアントオーガ、オーガ、オーク、ゴブリンの4種から大して増えていない。人間型の魔物の弱点が人間と同じなのは既に把握されている。
まだ久隆が想像するような明らかな異形──エリアボスのマンティコアやバイコーンのようなもの──は一般の敵としては出て来ない。
だが、それらが出てきた場合は?
斧による攻撃はいつまで通じる? 敵の急所は突けるのか?
これもレヴィアに確認しておかなければなと久隆は思った。ダンジョンに出没する非人間型魔物についての情報が必要だ。情報とは戦争の勝敗を左右するものである。情報を軽視したものは戦争に負ける。ダンジョンでの敗北は、ほぼ味方と自分の死を意味していると言っていいだろう。
「情報に感謝する。ところで、頼んでおいた人材についてだが」
「誠に申し訳ない、久隆殿。ひとりしか選べなかった」
「事情を聞いても?」
久隆はどういうことだろうかと尋ねる。
「そなたが有能な兵士であり、魔族に手を差し伸べてくれたものなのは分かっている。少なくとも私はそうだ。魔族は恩知らずではない。だが、理解してほしい。人間と魔族の間には深い、深い対立の歴史があったことを」
「ふむ。つまり、人間の指揮下では戦えないと拒否されたわけだな?」
「そういうことだ。熟練の騎士や魔法使いほど人間がやってきたことを知っている。彼らは人間と戦ってきた。同族を守るために。その過程で戦友が死んだこともあれば、守り切れなかったものもある」
「そうだな。そういう経緯があれば、いくら説得しても人間の指揮下に入るのは無理だろう。少なくともそういう経緯がある兵士を預けられても、こちらとしては完全に信頼していいか迷ってしまう」
「うむ。そういうわけなのだ。お互いに信頼ができなければ、このダンジョンで戦っていくことは難しい。だが、若い兵士はそういうものが少ない。前にも話していた近衛少尉はそなたの指揮下で戦うことに同意した」
「それがひとりか」
「そうだ」
アガレスが頷く。
久隆としてはどう反応すべきか迷っていた。
こちらとしても人手は足りない。仲間はひとりでも多い方がいい。
だが、ほしいのは戦える仲間だ。
その点、マルコシアは合格だった。彼女は実戦にある程度慣れていた。流石は実戦経験があるというだけはあり、時折油断することを除けば頼れる仲間だった。
だが、新米少尉はどうだ?
久隆自身が新米少尉だった時代を経験しているので、彼は新米少尉というのがいかに頼りない戦力なのかを知っている。軍隊という家の玄関を開けたばかり。まだ戦争の何たるかをまるで理解していない。
久隆にそう言うことはなかったが、戦闘中にパニックを起こす可能性もある。久隆とともに戦った東南アジアの軍隊でも新米士官は敵の攻撃を前にパニックに陥り、自分自身も戦えず、指揮もできなくなったことがある。
果たしてこの新米少尉を受け入れるべきか。
久隆は迷っていた。
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