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ダンジョンの特質

本日1回目の更新です。

……………………


 ──ダンジョンの特質



「ダンジョンに知性があるか、ですか?」


 フルフルが首を傾げてそう尋ねる。


「ああ。本能的なものにしてはやや込み入っている。野生動物程度の知性ならありそうじゃないか? 10階層を移動するのにモンスターハウスとエリアボスを設置。エリアボスはともかくモンスターハウスは戦力の集中の原則だ。エリアボスについても他の魔物と競合しないように配置されているのかもしれない」


 マンティコアが1体だけ配置されているのにも、バイコーンが1体だけ配置されているのにも、他の魔物が障害にならないようにしてあるかのごとく思えた。


 モンスターハウスで戦力を集中させて敵を削り、エリアボスでトドメを刺す。縦深防御のドクトリンを取り入れていると言えなくもない。


 ダンジョンに知性はあるのか?


「ダンジョンコアは本能的にダンジョンを形成しているだけですよ。知性なんて。ダンジョンが知性を持っていたら、そもそもダンジョンコアに達さないように階段を崩落させるなりなんなりするんじゃないですか?」


「い、いえ。でも、可能性はありますよ。研究中の課題ですが、ダンジョンコアは時として戦略的なダンジョンを構成します。確かに階段を崩落させるとか封鎖してしまうとかいうことはしません。なぜなら、そうしてしまうとダンジョンコアへの栄養の供給が絶たれると考えられているからです」


 マルコシアが笑って流そうとするのに、フルフルが首を振って否定した。


「ダンジョンコアの栄養とは?」


「魔族や人間の欲望です。ダンジョンが金貨や宝石を何故生成すると思いますか? それは魔族や人間の欲望を引き出すためです。より多くの富を、と求め続ける欲望はダンジョンコアの糧となります。そうすることでダンジョンコアはさらに大きく成長するのです」


「欲望を食う、か。となると、この状況を引き起こしたのはますますダンジョンコアのように思えてくるな」


 フルフルが説明すると久隆がそう告げた。


「どうしてです? この状況とダンジョンコアの栄養に何の関係が?」


「ここにきてもっとも強い欲望が生まれた。『生き残りたい』という欲望だ。ダンジョンコアの暴走によってダンジョンの内部にバラバラに取り残され、異世界に転移しているお前たちの仲間は何を思う? そう、『生き残りたい』だ。これは金銭への欲望よりもずっと強い欲望だ」


 マルコシアが疑問を持つのに対して、久隆はそう解説した。


 生命が生き残ろうとする欲望は強いものだ。自分自身の生存、自分の子孫の生存と繁栄。それはDNAの二重螺旋に刻み込まれた原初の欲求であり、人間を突き動かし続ける欲望であることに間違いはない。


 久隆たちも戦場で大事にするのは任務の達成もそうだが、全員が生きて帰ることがもっとも崇高な任務だと思っていた。英雄的に任務を果たし、死んでしまうのでは意味がない。任務を成し遂げ、そして生き残る。それが重要だった。


「それにですね。ダンジョンコアに知性がないとして、誰がこのような戦術的、戦略的なダンジョンの構造を考えたのでしょうか?」


「それは……。でも、鳥だって教えられなくても巣作りするよね? それと同じなんじゃないかな? こう、本能的なもの」


「その本能がどこで発生したかです。鳥は脈々とした進化の系譜の中でそれを獲得しました。最適な巣作りについて彼らには先祖の経験があるのです。それに対して、ダンジョンコアには過去の祖先などいません」


「……確かに。ダンジョンコアはどこからか“発生”する。誰かが産み落としたり、分裂するわけじゃない」


 ダンジョンコアはどうやら『生みの親』を持たないようである。かつて人々が微生物やウジなどが生まれるメカニズムとして信じていたかのように、自然発生するものであった。つまり、遺伝的に本能が養われるわけではない。


「けどね、けどね。ダンジョンコアに知性があるとしても誰かが教育してあげないとこういうのは作れないはずなの。レヴィアもアガレスやべリアに教育されたから魔法が使えるようになったの。その点はどうするの?」


「確かにそうなのですよね……。遺伝的な本能でなければ知性による後天的獲得となりますが、その後天的獲得のためには教育者が必要……。何の教育も受けていなければ、ダンジョンコアに知性があったとしても、原始的なもののはずです……」


 レヴィアの指摘にフルフルが唸る。


「聞きたいんだがダンジョンコアの暴走はよくあることなのか? だとすれば、どうしてそんな危険な場所にレヴィアたちがいたんだ?」


「ダンジョンコアの暴走なんて5000万回に1回あるかないかって程度なの。それに自分たちがまずダンジョンの領有権を主張しておかないと、人間たちに荒らされるの。ダンジョンは貴重な資源の源であるから確保しておかないといけないの」


「自国領で発生したダンジョンなんだろう?」


「人間たちはヴェンディダードを国家として認めていないの。魔族の権利も認めていないし、それが国家を形成していることも否定する。だから、国境線は曖昧なの。明確に手出しすれば反撃を受ける地域と、両者が主張し合っている領域があって、このダンジョンは曖昧な位置に発生したの」


「なるほど。領土問題が絡んでいたのか」


 レヴィアたちの世界の問題も地球における国家間の問題とさして変わりない。


 相手の国家の存在を認めないが、実効支配している部分に侵攻して戦争を起こすほどではない。だが、境界の曖昧な地域には侵攻し、実効支配を企て局地的な戦争になる。


 その点、日本国は領土問題は存在しないというスタンスを取っている。自分たちの主張する地域は自分たちの領土と領海であり、他国と話し合って解決するようなものではない。我々は自分たちの土地を不法に乗っ取られているだけである。


 とは言えど、実際問題として領土は問題になっていた。アジアの戦争が勃発したときに日本海軍特別陸戦隊も不法に占領された自国の領土の奪還を行ったし、未だに領有権を巡って争っている地域もある。


 日本の場合、その領有権を巡って争っているのは島であり、そこにある漁業権を巡る争いとなる。島ひとつで領海は大きく変わるのだ。


 まして、ダンジョンは文字通り金銀財宝を生む貴重な鉱山だ。そんなものが境界線の曖昧な地域で生まれれば、それこそ戦争の火種になる。


 だから、レヴィアたちは先に領有権を宣言しようとしていたのだ。これは自分たちのものだと、魔王──これまでの魔族たちの反応から見て国家元首──が直々に宣言することで領有権を確立しようとしていた。


 そして、事故が起きた。


「これは戻ってからも問題が起きそうだな」


「間違いなく平和には解決しないと思うの。人間たちが超深度ダンジョンを発見したら、先に魔族が占領していようともお構いなしで踏み込むはずなの。ダンジョンの中で、ダンジョンの外で戦いが繰り広げられるの。本当はこういうのは嫌なのだけれど……」


「そうだな。戦争ってのはな」


 戦争は忌むべきものだ。戦争など起きない方がいいに決まっている。それが常識だ。戦争を望むのは戦争を知らないものたちだけだという。


 だが、久隆は戦争の善悪はともかく戦場に戻りたかった。あそこには自分の居場所があった。そして、今も東南アジアでは軍事作戦が繰り広げられている。


……………………

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