7階層を抜けて
本日1回目の更新です。
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──7階層を抜けて
7階層の戦闘はモンスターハウスの苦い経験から身構えたが、レヴィアが言ったように魔物はモンスターハウス状態にならず、鎧オーガが5体と鎧オークが7体、ゴブリンが9体。もう既に各魔物の出る範囲は分かっているので、まずは乱入されると面倒なゴブリンを瞬く間に仕留め、それから鎧オーガと鎧オークを相手にする。
「フルフル、付呪を頼む! マルコシアは後方警戒! オークが近づいてきている!」
「分かりました! 『我が敵の守りを蝕み、錆びつかせよ!』」
モンスターハウスではなかったものの、ダンジョンの面積が狭いことに変わりはない。一群の魔物と交戦中に別の魔物が乱入してくる可能性はかなり高い。久隆にとっては決断力が問われるところである。
久隆はまずは全力で鎧オーガを叩き潰しに向かった。
フルフルの付呪で弱り、レヴィアの魔法で傷つけられた鎧オーガたちに久隆が斧を振るう。まずは首を刎ねて1体を仕留め、次に流れるように2体目の頭を潰す。頭から斧を引き抜く時に生じる僅かな時間に軍用ナイフを3体目に投擲して頭を貫き、4体目の腎臓を鎧ごと叩き潰す。5体目は首を刎ね飛ばして始末した。
「クソ。ゴブリンが来ている。レヴィア! 魔法を頼む!」
「任せるの!」
この階層のゴブリンはまだゴブリン弓兵ではないとみて間違いない。乱入されたくない魔物としてはそれなりの位置取りだ。マルコシアがオーク7体全部を阻止できるか怪しい以上、久隆がゴブリンを叩いて、すぐさまマルコシアの方に援護に向かわなければ。
「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
レヴィアの魔法が炸裂し、曲がり角を曲がってすぐに姿を見せたゴブリンが氷の嵐に巻き込まれる。彼らは手投げ槍を投げようとするが暴風のせいで上手くいかない。
そこに久隆が斬り込んだ。
ゴブリンを潰すのはオーガやジャイアントオーガを相手にするより遥かに楽だ。彼らの体は簡単な打撃を通すほどに貧弱だし、ジャイアントオーガと比べれば弱点はあまりにも多い。倒すのは楽な相手だ。
ゴブリンはほんの20秒足らずで全滅した。
「フルフル、マルコシア! 後方はどうなっている!?」
「交戦中です!」
久隆が返す刀で後方に向かうのにマルコシアは炎を使ってオークの進軍を阻止しようとしているところだった。炎が渦巻き、激しい熱気が伝わってくる。オークのうち何体かは既に死亡していたが、まだまだ生き残りがいる。
「残りは任せろ。魔力は温存しておけ。まだ2階層残っている」
「了解」
久隆は炎で燃えるオークたちを踏み越えて、生き残っている無傷なオークと交戦した。相手は鎧を纏っていて、そしてフルフルの付呪はないために狙うのは頭部と首だ。
久隆は1体目のオークの首を右から薙ぎ払った斧で刎ね飛ばし、そのまま勢いを維持し、2体目のオークの首も刎ね飛ばす。3体目のオークは頭を叩き潰し、4体目のオークは襲い掛かってきたところを軽く受け流し、斧を頸椎に叩き込んだ。
「他に近づいてくる敵はいないようだ。狭いから捜索も楽だろう」
久隆は敵集団殲滅後にすぐさま索敵を行い、この騒ぎの中でも動く魔物がいないことを確認した。7階層は狭い。そうであるが故に捜索はある意味では楽だった。
「全員、まだいけるか? 無理はするな。今から引き返してもいい」
「行けるの!」
レヴィアたちはまだまだやる気満点だった。
「よし。じゃあ、潜るぞ」
7階層から8階層への階段を下っていく。
久隆は到着すると同時に索敵を実行した。
「オーガ4体、オーク4体、ゴブリン10体。ゴブリンの数は多い。要注意だ。この階層はゴブリンはゴブリン弓兵になる」
「ゴブリン弓兵は面倒ですね……」
ゴブリン弓兵が10体となると厄介さはかなり高い。
「先にゴブリン弓兵を片づける。ゴブリンとオークの位置が近いので相手に攻撃する機会を与えず、確実に仕留めていくぞ。防弾チョッキは着ているが油断はするな。頭部は無防備だし、足にも動脈は通っている。ここから朱門のところに運ぶとなると、かなり急がなければならなくなる」
久隆は応急処置キットを持ってきているので応急処置で止血はできるだろうが、太ももの大腿動脈をやられたら大量に出血する。
そうなると死の危険がある。
民間で販売されている防弾チョッキは太ももまではカバーしていない。
レヴィアたちは防弾チョッキを纏っているが、守れるのは心臓、肺、肝臓などの体の中枢部だけだ。そしてヘルメットもしていないので頭部も危ない。
こうなったら防弾チョッキは魔除けのおまじないだ。敵の攻撃を防ぐには、こちらから積極的に攻撃を仕掛けて、敵の攻撃の機会を打ち消すしかない。
戦争に勝利したければ主導権を握れ。主導権を握るには攻撃せよ、だ。
「レヴィア、頼む。この先だ。俺が出たと同時にやってくれ」
「任せてなの」
久隆は手鏡で廊下の先を確認しながらそう告げる。
「行くぞ。3、2、1、だ」
久隆が斧を握りしめる。
「3──2──1──今だ!」
「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
ゴブリン弓兵10体全員が氷の嵐に巻き込まれた。レヴィアの魔法は明らかに威力が上がっており、氷によって引き裂かれたゴブリンたちは慌てふためくばかりだった。こちらに攻撃をしようとする様子はない。
ならば、今のうちに終わらせる。
久隆が突撃する。
氷の嵐が止んだと同時に猛獣が突入してきた。
ゴブリンたちにとっては最悪の時間だった。自分たちは既に氷の嵐で傷を負っているところに1秒以内に1体のゴブリンを確実に仕留める猛獣が突入してきたのだ。猛獣は斧で自分たちの頭を潰し、首を刎ね、腎臓や肝臓を潰し、瞬く間に仲間が壊滅していく。
結局のところ、ゴブリンは1発の矢も放てぬままに果てた。
「お次はオークとオーガだ。オーガは俺が受け持つ。マルコシアはオークに警戒を」
「了解!」
騒ぎを聞きつけたオーガとオークが久隆たちのところに迫るのに久隆たちは迎撃の準備を整えた。フルフルの付呪で久隆の身体能力はブーストされているし、レヴィアとマルコシアはいつでも魔法を放てる。
オーガもオークも間違いなく鎧付き。フルフルには厄介なオーガの方に付呪をかけてもらうが、久隆はすぐにオーガを片付けてオークの方に向かうつもりだった。
マルコシアを信頼していないわけではない。ただ、彼女はアガレスから預かっている兵士だ。レヴィアやフルフル同様に死なせるわけにはいかない。
「──来た」
先に姿を見せたのは鎧オーガだった。
「『我が敵の守りを蝕み、錆びつかせよ!』」
「『降り注げ、氷の槍!』」
鎧オーガに向けてフルフルとレヴィアが同時に詠唱する。
鎧オーガの脆くなった鎧を貫いて氷の槍が突き刺さる。
そして、久隆が突撃する。
久隆は戦闘中無言だ。それは海軍時代からそうであり、指示を出すとき以外は喋らない。隠密作戦であるならば指示もハンドサインか生体インカムを通じて無言で行う。
それは敵を唐突に日常から非日常に叩き込むためであり、自分たちの存在を悟られないためであり、呼吸を乱さないためでもあった。ナノマシンで恐怖を殺し、人工的な殺意で活動する彼らに鬨の声は必要ないのだ。
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