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夕食の弁当

本日1回目の更新です。

……………………


 ──夕食の弁当



 夕食の時間となり、久隆は弁当を温めた。


「もうこれぐらい食わせても大丈夫か?」


「ああ。大丈夫だ。煮込み料理なら消化にもいいし、栄養も取れる。最近の弁当はよくできてるよな」


「コンビニ弁当は相変わらずだがな」


「あれは一種のジャンクフードだ」


 久隆が告げると朱門はそう告げて返した。


「スーパーにもこういう弁当は置いてるか?」


「味は落ちるが置いてある。俺がダンジョンに潜っている間は頼む」


「分かった。田舎は不便だな。宅配弁当のサービス圏外とは」


 今はファミレスでも、ラーメン屋でも、弁当屋でも、宅配サービスがある。だが、あいにく久隆が暮らしているような田舎は宅配圏外だ。この田舎では本当に車がなければ暮らしていけないのである。


「じゃあ、明日から俺が留守の時は頼む」


「ああ。負傷者も回復傾向が続いている。直に俺の診療も必要なくなる」


「だが、次の負傷者が来るかもしれないぞ?」


「まあ、追加料金をもらえば何人だろうと治療するぞ」


「あれでもまだ足りないか?」


「俺は強欲なんだよ」


 久隆はあれからバックパックに倒した魔物の金貨と宝石を詰め込んで朱門に届けていた。その合計金額がいくらになるかは分からないが、朱門はそれを頂戴し、自動車でどこかに運んでいた。マフィアと取引するのだろう。


「さて、と。俺は患者の組織について調べているからな。回復が早いのは組織に何かしらの特徴があるからだと思っている。だが、回復魔法とかある世界なんだよな?」


「俺は今にも死にかけてた連中が翌日にはほとんど回復しているのを見た」


「マジかよ。それが普及するのだけは阻止しないとな。医者が失業するとか笑えんぞ。今でも診断はAIが進出してきてるってのに」


「安心しろ。こっちの人間に魔法は使えない」


 昔は医者と弁護士、そして公務員は食いはぐれないと言われたものだが、少子高齢化が深刻に──そして、今は回復傾向にある──になったとき、この分野でも省人化、無人化が進んだ。お役所は窓口業務が無人化され、弁護士は多くのアシスタントを雇わなくても弁護が行えるようになり、医者も診断がAIの方が正確だったという事例が出始めた。


 2045年に技術的特異点(シンギュラリティ)は訪れなかった。だが、AIは確実に進歩を続けている。これからは人間とAIの勝負になる。それに魔法まで加わるのは医者である朱門にとってあまりにも望ましくないことだろう。


「まあ、回復担当の魔法使いは3人しかいなくて、その3人も度々魔力切れを起こしているみたいだから、まだまだ世話になるぞ」


「そいつはありがたいのか、困るのか。俺もダンジョンに潜る日が来るか?」


「今はまだ地上にいてくれ。俺の不在を誤魔化しているだろう」


「あの人形か。よくできてるよな。本物そのもので、会話までできる」


「まさに魔法だ」


 模造人形は久隆がダンジョンで夜を越した日から使われている。


 今のところ、不具合はない。朱門も確認しているが、模造人形は敷地内をうろうろし、住民のあいさつに応える。怪しまれているような様子はない。


「もしかして、負傷者の回復が早いのは回復魔法のせいか?」


「かもな。中程度の負傷者でも応急手当として回復魔法を使っているだろう」


「ふうむ。やはり、俺もダンジョンに潜ってみたいものだな」


「そのうちな」


 久隆は温めた弁当を朱門に渡し、朱門はそれを持って患者の下に向かった。


「レヴィア、フルフル、マルコシア。晩飯だぞ」


 久隆がそう呼びかけるとレヴィアが真っ先に飛んできて、それからフルフルとマルコシアがやってきた。久隆は温めた弁当をダイニングの机に並べ、そしてインスタントの味噌汁と麦茶を並べた。


「いただきますなの」


「い、いただきます」


 レヴィアたちが弁当の蓋を開ける。


 程よく温まった弁当から香ばしい香りが漂う。


「なあ、宮廷魔術師団にはどれだけの回復魔法の使い手がいたんだ?」


「な、7名です。うち1名は死亡が確認されています。残りについても現状……」


「そうか」


 回復魔法の使い手がいてくれれば衛生兵として安定した捜索班が作れると思ったが、今は拠点に置いておいて、軍医として働いてもらうしかなさそうだ。特別陸戦隊にいたので応急手当ぐらいならば、久隆にでもできる。


「明日から装備が届いて再び15階層まで潜る。そして、その日は戻り、次の日はそのまま15階層で過ごし、15階層より下を目指す。叶うならば20階層にいるバイコーンを討伐して、20階層を新しい拠点にしておきたい」


「バイコーンに挑むんですか!? それなら総動員ですね!」


「いや。俺たちだけで行う。ダンジョンの中は開けている場所もあるが基本的に狭い。大規模な戦力を下手に展開させると、犠牲者が増えたり、同士討ちが発生する。それに今の15階層の兵力は寄せ集めに見える。チームワークはあまり期待できない」


 15階層は4つの部屋に分かれているらしいが、その部屋と部屋を繋ぐ通路はそこまで広くはないだろう。大規模な戦力を下手に持っていくと、部隊がダンジョンの狭さに対応できず、久隆の懸念していたことが起きる。


「確かに寄せ集めですね……。近衛騎士団も宮廷魔術師団もこうなるとは思って見ませんでしたから。普通はダンジョンの探索は専門家がやるんです。あたしもそういう部隊にいました。そういう部隊を組んだ経験があるならチームワークも期待できるんですけど」


「ないものを求めてもしょうがない。あるものでどうにかする。6名ぐらいまでなら指揮できる。それ以上になると難しい。いや、本来なら4名編成が望ましいところだ。人間が戦闘中という過酷な状況下において配慮できる範囲は狭い」


 新米の少尉が1個小隊40名を任されても彼は戦闘中に40名全員を指揮するわけではない。3、4個の分隊を指揮する下士官たちに部下たちを把握させ、彼らの支援を受けて、40名という部隊を指揮するのである。


 下士官の下にはさらに小部隊を指揮するものがおり、単純な指揮能力を持たない兵士のみとなるのは4、5名となる。そこで初めて小隊という部隊が動くようになるのである。新米少尉でも指揮できるような小隊が動き始めるのだ。


 部隊は数が大きければ大きいほどいいというわけではない。その大部隊を指揮するシステムをきちんと構築しておかないと、戦力の無駄遣いになる。第一次世界大戦後、大規模な軍縮を強いられたドイツ軍が行ったのが軍の規模に合わない下士官と士官の育成だったことがそれを示している。指揮する人間がいれば、後は徴募兵でも投入して、大部隊を動かせるということをドイツ軍は考えていたのだ。


 その点において15階層にいるものは本当に寄せ集めだ。


 指揮の出来る人間は新米少尉が2名。ベテランの数は不明。一緒に合同訓練をやったかどうか怪しい近衛騎士団と宮廷魔術師団を掻き集めた状態。


 とてもではないが、15階層の全ての兵士をバイコーン討伐に投入しても犠牲者が増えるだけに終わると思われる。


 そういうわけなので大部隊は投入できないのだ。


……………………

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