弁当とガーデニングコーナー
本日1回目の更新です。
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──弁当とガーデニングコーナー
久隆たちはラーメン屋での食事を終えると今晩の弁当を買いに向かった。
このショッピングモールは久隆が気に入っている惣菜売り場があり、そこの弁当は美味くて、栄養バランスが整っていた。見栄えのためだけに野菜をちょっと添えるのではなく、ふんだんに野菜を使い、それなりの品質の肉や魚を使っている。米も美味い。
なので、そこで弁当を買うことにした。
「好きな弁当を選んでくれ。負傷している3人のは俺が選んでおく」
久隆はなるべく揚げ物など以外の消化によさそうな弁当を選んだ。自分の分も肉じゃが弁当をセレクト。ゴロゴロのニンジンとジャガイモ、いい感じの玉ねぎ、そして程よく肉が入っている。文句なしだ。
「レヴィアはこれにするの」
「唐揚げ弁当か。野菜も残さず食えよ?」
最近の料理技術は向上しており、弁当として販売してから後で温めなおしても、サクサクの唐揚げが味わえるようになっている。昔のしんなりとした衣の唐揚げではないのだ。ナノテクで調理中、調理後の油の構造が解析され、最適な状態を維持する調味料が開発されたのである。
2045年でも空飛ぶ車は存在しないが、それなりに科学力は進歩している。
「魚がいいのですが……。このあじふらいというのは魚なのですか? こっちのさばのみそにこみの方も魚っぽくはあるのですが……」
「どっちも魚だ。しかし、フルフルは魚が好きなのか?」
「ど、どちらかと言えば……。故郷は海の傍の街だったので……。昔は魚ばかり食べていたのですが、王都に移ってからはなかなか新鮮な魚に巡り合えず……」
「そいつはいい。ここは魚料理はいろいろとある国だ。刺身にも挑戦してみるか?」
「さしみ、ですか? 興味深いですね……」
フルフルはサバの煮込み弁当を選んだ。
「マルコシアは決まったか?」
「あたしはこの生姜焼き弁当にします。なんとスタミナ満点だそうですので。ところで、スタミナって持久力のことでいいんですよね?」
「なんとなく力が付くとでも思っておけばいい」
単語の意味が分かっても使われ方が分からないものはあるものだ。
久隆は負傷者たちには消化のいい煮込みものの弁当を買い、今後のためにレトルトがゆを買い足しておき、無人レジで会計を終えて、車に戻った。
「弁当を冷蔵庫にしまったら、ホームセンターな」
「どんな植物があるんだろうね、フルフル?」
マルコシアは見るからにうきうきし、フルフルも笑顔だ。
久隆たちは家に帰りつき、弁当を冷蔵庫に仕舞い、それからまた車でホームセンターに向かった。本当は歩いたり、サイクリングをした方が健康にいいのだが、それはそこまでそれぞれの店舗が離れていない場合だ。田舎で車がないのは地獄だ。
「ここがホームセンターだ。ガーデニングコーナーに向かおう」
田舎のホームセンターは何でも屋でもあるので大きい。そして、本当の田舎ですることと言えば、庭いじりぐらいしかない。久隆の実家も庭があり、家族が暮らしていたときにはいろいろな植物が植えられていた。だが、久隆は庭いじりに興味はなかった。
「ここだな。肥料から苗、鉢、スコップからなにまで全部揃っている」
久隆自身は庭いじりに興味はなかったが、両親は自分たちの趣味について久隆の理解を得ようといろいろと教えてくれていた。
久隆が興味を示したのはサボテンだけだったが。
「いろいろな花がありますね……。フルフル、どういうのがいいと思う?」
「向こうでポーション作りに使う植物と似たようなものがいいですね。葉が大きくて魔力を吸い込みやすいものか、根が太くて魔力を吸い上げやすいものか」
「それならこれなんてよさそうじゃない?」
「ええ。なんとなくですが、我々の世界の植物に似ていますね」
ガーデニングコーナーの草花を見ながら、フルフルとマルコシアが会話を交わす。
「おや。球磨さん?」
久隆がレヴィアとそれをぼんやりと眺めていると、声がかけられた。
「ああ。北原さん。お久しぶりです」
「球磨さんも園芸を始めるのかい? そういえば診療所に親戚の子を連れてきたとか」
話しかけてきたのは年配の男性だった。多くの田舎がそうであるように田舎に残ったのは年寄りばかりである。そして、田舎の年寄りというのは話題に飢えている。久隆の話も半ば集会場になっている診療所で聞いたのだろう。
「ええ。親戚の子がちょっとですね」
「そこの子かい?」
老人はレヴィアの方に視線を向ける。
「これはコスプレなの」
「はあ。最近の子は本当にアニメが好きだねえ」
しげしげとレヴィアを眺めて老人が告げる。
「ああ。そうそう、後で届けようと思ったんだけど、今年はナスがよく取れたからお裾分け。球磨さんはナス、好きだったかね?」
「好きですよ。ありがとうございます」
何かと年寄りはこういう贈り物をしたがる。こちらとしてももらってばかりというのは気まずいので力仕事を手伝うことになる。田舎よりも都会の方が人付き合いは少なかったかもしれないと久隆は思った。
「しかし、親戚のお子さん、外国の人かい?」
「まあ。ハーフですよ」
「はあ。海軍さんは国際的だねえ」
国際的と言うというか多次元的というべきか。
「まあ、球磨さんもゆっくりして。戦場で酷い怪我をしたんだろう? お国のために戦ったんだから偉いよ、球磨さんは。今日日の若者でお国のために戦おうだなんて子は滅多にいないだろうに」
「そうですね。国防意識の欠如は見られますね」
久隆には僅かな愛国心があっただけだ。確かに戦争に行って、人を殺し、殺されかけるなんてことは覚悟していたものの。それでも、ただ、軍人という肩書に憧れたのだ。その肩書と任務が自分によって重要なものになるような気がして。
だが、今は本当に戦場が恋しい。
「それじゃあ、球磨さん。また今度。ナス、揚げびたしにしても美味しいよ」
「ありがとうございます」
やれやれ、やっと行ってくれたかと久隆は安堵した。
田舎の年寄りは人と喋る以外に楽しみがないのか長話になりがちだ。それでもさっきの老人は短い方である。これがもっと暇を持て余した年寄りで、座る場所があると、何時間も延々と話を聞かされることになる。
全く、田舎はと久隆は思った。
いつかこのナスのお礼もしなければならないなと久隆は考える。
「選べたか?」
「それらしいものは。しかし、実際に効果が上がるのかは謎ですが……」
フルフルたちはそう告げて草花を見渡していた。
「しかし、ダンジョン内には太陽光は届かないだろう。植物は育たないんじゃないか? そっちの植物がどうかは分からないが……」
「え、ええっ!? 太陽光がないと植物が育たないのですか!?」
「光合成で栄養を作るからな」
「ヴェンディダードとは大きく異なりますね……」
逆にヴェンディダードの植物は太陽光なしで育つのかとやや驚いた久隆だった。
「それじゃあ、ダンジョン内で栽培できないね……」
「仕方ない。LEDライトと発電機を買おう。発電機はやや高い買い物になるが仕方ない。どうしても魔力回復ポーションが必要なんだろう?」
「いいんですか?」
「ああ。戦力を増やすためだと思えば安いものだ」
魔法は銃のない現状、ダンジョン内で貴重な遠距離火力だ。そして、フルフルの付呪もかなり有効だ。フルフルの付呪のあるなしでは戦闘に大きな差が出るだろう。
確かに発電機は安いものではない。昔ながらの非常発電用のものは燃料として昔ながらのガスを使うし、10万はする。だが、それで生き残れるのであれば御の字ではないかと久隆は思ったのだった。
魔法は重要だ。久隆の斧だけでダンジョンをどうこうするのは無理である。
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