温かく、やわらかい寝床で
本日2回目の更新です。
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──温かく、やわらかい寝床で
「久隆、久隆」
「どうした、レヴィア?」
久隆がリビングでビジネスニュースを見ているとレヴィアがやってきた。
「あのね、あのね。やっぱりお友達同士が仲良くしているのを邪魔しちゃダメなの?」
「フルフルとマルコシアのことか? 何かあったのか?」
「ふたりとも仲良くしているからレヴィアが仲間に入れないの。お風呂もレヴィアひとりだけだったし……。お話しててもふたりで仲良くしてるし……。レヴィアは今日はひとりで寝た方がいいの? いや、これからはひとりで寝た方がいいの?」
「ふうむ。でも、ふたりともお前のことを慕っているだろう? 3人で仲良くなれるんじゃないか? それにあの部屋でも3つ布団は敷けるぞ」
「でも、フルフル、とっても嬉しそうだし……」
参ったな、俺はスクールカウンセラーじゃないぞと久隆は思う。
こういうことは軍隊では問題にはならない。軍隊は小学校や中学校じゃない。誰と誰が仲良しで誰が仲良くないなんてのは指揮官は把握こそすれど、作戦中にそれが問題になることはほぼない。そんなことを気にしている余裕は戦場にはないのだ。
もちろん、軍隊だって人間関係のトラブルが皆無なわけじゃない。海軍の艦艇内では互いがそれぞれを信頼し合っていないと、狭く、閉鎖的な空間で何日間も作戦行動を取るわけなので、人間関係は上官が取り持つのが仕事だ。
だが、これはそれとは違う。子供が、仲良しグループに入れなくて困っているだけだ。軍隊のような問題じゃない。
「試しては見たのか? 会話に加わろうとしようと」
「まだなの。邪魔したら悪いかなと思って……」
「変なところで遠慮するな」
いつもは自分のペースのレヴィアもこの時ばかりは戸惑っているようだった。
よほど、フルフルとマルコシアの仲がいいのだろう。フルフルはマルコシアを見かけてからというもの、テンションがおかしかったし、あの内気なフルフルの数少ない友人なのだ。レヴィアが躊躇うのも無理もないように思われる。
「分かった。じゃあ、俺も混じるから4人で話そう」
「フルフルとマルコシアのこと、邪魔しちゃわないの?」
「これから時間はいっぱいある。明日は買い物だし、ダンジョン内でも時間はある。何も今しか時間がないわけじゃない」
「そうなのね! ちょっとだけお邪魔するの」
久隆はそう告げると人数分のグラスに麦茶を注いで、お盆に乗せてレヴィアとともにフルフルとレヴィアの寝室になっている部屋に向かった。
「よう。フルフル、マルコシア。昔話で盛り上がっているのか?」
「ああ。久隆様。フルフルがどうやってダンジョンを15階層も駆け上ったか聞いてたんです。しかも、マンティコアまで倒したなんて!」
マルコシアがそう告げるとフルフルが赤面して俯いた。
「あの時はレヴィアも頑張ってくれたからな。フルフルが敵の足を止め、レヴィアが尻尾に魔法を打ち込み、そうやって戦った」
「話には聞いていましたけれど、レヴィア陛下も本当に戦われているのですね……」
「もちろんだ。レヴィアの魔法は凄い威力だ。助けられている。フルフルの付呪も欠かせない。フルフルは自信が無いようだが、フルフルの付呪がなければ戦えない。いい友達だな、マルコシア」
「ええ! 自慢の友達なんです!」
やはりフルフルはマルコシアにとって特別な友達であるようだ。
「レヴィアの魔法は氷だが、マルコシアも氷の魔法を操るのか?」
「あたしのは炎です。氷は習得が難しいんですよ。それを実用可能にしているとは流石はレヴィア陛下ですね。尊敬します」
話の向きがレヴィアに向いてきた。
「レ、レヴィア陛下はべリア様が教育されていましたから……。べリア様も氷の系統魔法が使えますし、それに炎と土についても。本当に凄い人なのですよ。それでもレヴィア陛下はもっとも難しい氷の系統魔法について学ばれました。凄いことです」
「そうそう。レヴィア陛下はべリア様から一番難しいところを学び取りましたね」
レヴィアに話題は向いているのだが、レヴィアは少し不満そうだ。
「それよりもフルフルとマルコシアの話が聞きたいの。魔法学園はどんなところだったの? レヴィアは学校に通ったことがないから気になるの。いろいろなことをしているってべリアからは聞いたの。楽しかった?」
「魔法学園ですか? ええ。楽しい思い出がいろいろありますよ。テストとかは大変だったですけれど、文化祭とかクラス対抗競技とかあって盛り上がりましたよ! フルフルはそういうのは苦手そうだったけれど、それでも活躍してましたし」
「わ、わ、私はそういうのはあまり……。け、けど、クラスのみんなが頑張ってるのに私だけさぼっているわけには行きませんし……」
「フルフルは責任感があるんだよね」
「あ、あんまりないですよ……」
フルフルがたじたじしながら応じる。
「もっとふたりのことを聞かせてほしいの。レヴィアのことは国民のほとんどが知っているけど、レヴィアは国民のことをあまり知らないの。それではダメなの。お互いをよく知ってこそ、友達になれる。そうなの!」
ああ、そういうことなのかと久隆は思う。
レヴィアはふたりのことを知りたかったのか。ふたりがどのような人物か知らないから友達になれないと思っていたのか。久隆は納得した。確かに見ず知らずの相手と仲良くなるのは相手にとっても難しい。
「魔法学園の文化祭では何をしたの?」
「あたしたちは演劇をやりました。『プルソンと魔法の猫』です。知ってますか?」
「もちろん知ってるの! あの話はレヴィアも好きなの。フルフルとマルコシアは何の役をしたの? レヴィアがやるなら魔女の役がやりたいの」
「私は猫の一匹の役をやりましたよ。フルフルも一緒です。楽しかったですね」
「楽しそうなの。フルフルとはいつ仲良くなったの?」
「1年生のときの2学期の期末テスト前に図書館で勉強を見てもらって。フルフルは凄いんですよ。どれだけ難しい問題もすらすらと解いてしまって! 学園を首席で卒業したのも納得です」
マルコシアがそう告げるとやはりフルフルは真っ赤になって俯いていた。
「流石はフルフルなの! べリアが引退したら、フルフルが宮廷魔術師長なのね」
「そ、そ、そんなことは……。付呪師の宮廷魔術師長なんて例がないですし、私のようなへっぽこがそんな立場についたら不満が噴き出しますよ……」
「フルフルは自信なさすぎなのね。誰もフルフルが宮廷魔術師長になっても文句は言わないの。レヴィアもフルフルがいいの!」
ようやく3人揃って仲良くなれたようだと久隆は空になったグラスをお盆に乗せて、そのまま部屋から出ていく。ここまでくれば自分は必要ないと判断したようだ。
「久隆、久隆」
「ん。どうした? もう仲良しだろ?」
「ありがとうなの。これで寂しくないのね!」
「よかったな」
久隆はそう告げると台所に向かった。
彼女たちは今日はやわらかく、温かい布団で眠った。3人一緒に。
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本日の更新はこれで終了です。
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