ファミレスにて
本日2回目の更新です。
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──ファミレスにて
「いらっしゃいませ! 何名様でしょうか?」
「4人だ」
「お席にご案内します」
やはり正常性バイアスが働いているのか。それとも客がどんな人間であれ接客マニュアルは変わらないのか。ファミレスの店員は普通に久隆たちを席に案内した。
「ここは大衆食堂のようなものなの?」
「そんなものだ。ほら、メニュー」
「ふむふむ。写真が付いていて、便利なのね」
ファミレスでは昔ながらの紙のメニュー表は今は使われていない。外国人のために分かりやすく写真をつけた映像が表示されるタブレット端末が使用される。この手のタブレット端末は大量生産のおかげで価格は大きく低下しているので代替できた。
「どれにする?」
「レヴィアはこのチーズハンバーグが食べたいの」
「よし。決まりだな」
ファミレスのハンバーグも最近ではかなり美味い。
「フルフル。マルコシア。決まったか?」
「そ、そうですね。私はこの若鳥のグリルを……」
フルフルは若鳥のグリルを選んだ。
「あたしはオムライスってのにしてみよう。美味しそうに見える!」
「ええ。きっと美味しいですよ」
「けど、こんなに美味しいもの食べてると贅沢病にならないかな?」
「栄養バランスを保てば大丈夫ですよ」
ファミレスの食事でも栄養バランスを考えて、付け合わせの野菜などがついてくる。セットにすればサラダもついてくる。
もちろん、食事は一食で全てを満たそうとするのではなく、三食バランスよく食べて満たされるものである。久隆はその点をしっかりしている。任せようと思えば体内循環型ナノマシンに栄養素の不足を補わせることもできる。だが、そうはしない。昔ながらのちゃんとした食事によって賄っている。
彼の作る朝食も、お昼の弁当も、しっかりと栄養バランスが考えてある。
ファミレスの食事も極度の健康志向にある現代人の需要を反映している。
「お待たせしました。おろしヒレカツ、チーズハンバーグ、若鳥のグリル、オムライスとなります。ドリンクは自由となっておりますので、ドリンクバーでどうぞ」
「わあい!」
店員は何ら気にすることなく、食事をテーブルに並べていった。
本当に何も気にならないらしい。人間とはこういうものなのかという思いを久隆は改めて感心すると同時に呆れ果てた。このファミレスは銃を持った強盗が入ってきても、普通に接客をしていそうである。
「ん! 美味しい!」
「レヴィアのハンバーグも美味しいの!」
オムライスを食べたマルコシアが満面の笑みを浮かべ、張り合うようにレヴィアがそう告げる。オムライスはとろりとした卵でチキンライスが包まれたものであり、チーズハンバーグは中にとろとろのチーズが入っているものだ。
「若鳥のグリルも美味しいですよ。一口食べて見ますか、マルコシア?」
「いいね、いいね!」
ふたりは友人らしく食事を交換し合っている。
「飲み物を取ってくるが、何がいい?」
「水で」
「……いや、水以外にもいろいろあるぞ」
マルコシアが即答するのに久隆は彼女のダンジョンでの暮らしを思いやった。
「どんなのがあるの?」
「ジュースとか、コーヒーとか、紅茶とか、いろいろだ。一緒に来るか?」
「行くの!」
レヴィアは久隆と一緒にドリンクバーに向かった。
「……? 飲み物はどこにあるの?」
「ドリンクサーバーの中だ。こうやって中に注ぐ」
ドリンクサーバーは開発されたときからあまり変わっていない。コップを押し入れれば、中に飲み物が注がれるような仕組みだ。完成された作りなので、わざわざ変えようとする人間もいなかった。
「それはなんなの?」
「オレンジジュースだ。そっちにもオレンジジュースぐらいあるだろう?」
「ああ。オレンジジュースなのね。異世界だから変わった飲み物かと思ったの」
「変わったものがいいならメロンソーダなんてどうだ?」
「メロンソーダ?」
「ものは試しだ。入れてみろ」
久隆がそう告げるのにレヴィアがメロンソーダのドリンクサーバーで飲み物を注いだ。しゅわしゅわした炭酸飲料がグラスに注がれる。
「おおー。エールみたいなの?」
「アルコールは入ってない。一口飲んでみたらどうだ」
「うん」
レヴィアはメロンソーダを口に運ぶ。
「むう? 美味しいけどなんか変な風味なの。果実ジュース、ではないの?」
「それは果実の味は人工甘味料でつけてある。果実じゃない。やめとくか?」
「ううん。これでいいの。これはこれで美味しいの!」
「それじゃフルフルとマルコシアの分だな」
久隆は向こうの世界にもあるだろうグレープジュースとオレンジジュースをチョイスした。口に合わないことはないだろう。果汁100%ではないが、少し甘みが強いだけだ。
「飲み物、持って来たぞ」
「あ。すみません。ありがとうございます」
久隆はマルコシアとフルフルの前に飲み物を置く。
「それにしてもフルフルが言うように久隆様っていい人だね」
「ん? そんな話をしてたのか?」
久隆はてっきり今もフルフルには苦手がられていると思っていた。
「べ、べ、べ、別にいい人だとは言っていませんよ……。た、ただ、人間ではあるけれど、そこそこの信頼がおける人物であるという話をしていただけで……。わ、私は今もあなたが裏切るかもしれないと疑っていますからね……!」
フルフルは目に見えて挙動不審になりながらそう告げる。
「あはは。さっきはいろいろと面倒を見てもらって──」
「しーっ! しーっです、マルコシア! あ、相手を優位に立たせてはなりません! に、人間が相手なのですからね!」
マルコシアが喋ろうとするのをあわあわとして止めるフルフル。
「まあ、少しでも信頼してくれるなら何よりだ。ダンジョンの中では背中を任せることになるからな。マルコシア、お前も俺を信頼してくれ。俺もお前を信頼する。チームプレーができなければ、あのダンジョンには勝利できない」
「了解。フルフルのことと背中は任せてください」
マルコシアはそう告げてオムライスを口に運ぶ。
「ああ。任せる。今はしっかりと英気を養ってくれ。レヴィアも、フルフルもしっかり休めよ。装備が届いたらまた1階層から9階層までの掃討戦だ」
「おー!」
レヴィアは拳を振り上げたのち、ハンバーグをパクパクと食べつくした。
ファミレスでの食事は終わり、誰も、何も疑問に思わないまま久隆たちはファミレスを出た。ここまで無反応だと逆に不安になるものだが、と久隆は思う。
だが、日本人は外国の有名人が来ていても、気づかず無関心であることがある。基本的に他人に干渉したがる人種ではないのだ。特に今の時代の日本人は傾向的に人見知りというか、内向きな性格の人間が多い。戦争とテロの影響だろう。
このままならば問題になりそうなことは起きないなと久隆は少しばかり安堵した。
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本日の更新はこれで終了です。
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