ダンジョンの再構成
本日1回目の更新です。
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──ダンジョンの再構成
「レヴィア。聞いておきたいことがあるんだが」
「なんなの?」
「やっぱり礼儀作法に通じた士官がいる方がいいか?」
久隆はアガレスとの会談を終えて、ダンジョンに閉じ込められた兵士たちを励ましているレヴィアの方に向かった。そして、そこで彼女にそう尋ねた。
「レヴィアはどっちでもいいのね。けど、礼儀作法に煩い士官は嫌なの。レヴィアは魔王だからちゃんとしなきゃいけないって言われるのには辟易するの。レヴィアだってたまにはひとりの女の子になりたいの」
「アイドルみたいなこと言うな」
レヴィアが告げると久隆が苦笑いを浮かべた。
まあ、ある意味では魔王もアイドルなのかもしれない。国民に崇拝されるレヴィアはアイドルにも似ている。彼女が姿を見せるだけで、兵士たちの士気がグンと大きく撥ね上がるのが分かったぐらいだ。
「その点では久隆には感謝しているの。久隆はレヴィアのことをあれこれ言わないし、同等の仲間として扱ってくれているの。これが他の魔族だったらこうはいかなかったのね。きっとレヴィアが戦うこともなかったの」
「戦いたくはないだろう?」
「そんなことないの! みんなが苦労しているときにレヴィアだけ安全な場所でのうのうとしているのは嫌なの。レヴィアだって魔法が使えるんだし、戦いたいの。久隆はレヴィアをバリバリ使ってくれるから好きなのね!」
レヴィアはそう告げて満面の笑みを浮かべた。
「そうか。気にしていないならよかった」
「どうかしたの?」
「アガレスと話したんだが、礼儀作法に通じた士官がひとりは必要だろうという話になってな。他はそういうものより実戦経験に長けた下士官を寄越してくれるように頼んだところだ。これからはあれこれ言われるかもしれないぞ」
「うへえなのね。けど、それだけレヴィアのことをアガレスは考えてくれているのね」
レヴィアはそう告げて、ふと考えるように天井を向いた。
「そういえば、最上層からこの階層まで魔物を掃討したのはいつだったっけ?」
「1から4階層は5日前。あと2日で再構成だ」
「時間がないのね」
「まあ、今さら上層の魔物に後れは取らんだろう。しかし、モンスターハウスが面倒だな。あれをもう一度というのは大きな時間のロスになる」
「モンスターハウスは再構成されないの」
「そうなのか?」
「そうなの。モンスターハウスは一度殲滅したら、普通の階層になるの」
「それなら一安心だな」
1階層から10階層までの間に存在するモンスターハウスはジャイアントオーガなどがいなくても厄介な相手なので、それがなくなるのであれば歓迎したい。
「それじゃあ、今日はここまでだな。次にダンジョンに潜るときは、装備を整えて来よう。また1階層から15階層までの掃討戦で少しかかるが、また6、7日間の余裕が生まれる。何事も着実にだ。待てるよな?」
「待つの。けど、べリアが心配なの……」
べリアはこのダンジョンのどこにいるかも分からない。
最悪の場合、死んだ近衛騎士たちのようにダンジョンの中で死んでいるかもしれない。深層に潜れば潜るほどジャイアントオーガよりも狂暴な生命体が存在することは分かっているのだ。あれより獰猛で強大な魔物がいた場合、生存率はより低くなる。
「大丈夫だ、きっと大丈夫だ。生きていて、俺たちが到着するのを待っている」
「うん。そうなの! きっと大丈夫なの!」
レヴィアは元気いっぱいにそう告げた。
「ところで、フルフルは?」
「フルフルは友達の様子を見に行ったの。フルフルは人見知りで友達はあんまり多くはないけれど、宮廷魔術師団には何人か友達がいるって言っていたの。もちろん、レヴィアもフルフルの友達なのよ?」
「ああ。人見知りしそうな性格してるもんな」
あまり人懐っこい性格はしていないフルフルだ。友達がたくさんいると言われる方が不思議に思えるような性格だ。
「そろそろ帰るから迎えに行くか」
「物資はどれぐらい保つの?」
「今のところ5、6日分ってところだ。そのうち、地上にいる怪我人を治療し、ここにいる人間も動員して、物資の輸送リレーを行いたい。長丁場になるだろうからな。拠点は深部、深部に配置していき、ダンジョンコアを目指す」
エリアボスを倒して生じる隙間に拠点を設置し、その拠点から深層に潜り続ける。拠点から拠点に物資を運び続け、深層での活動を可能にする。
ダンジョンは既に25階層以上と分かっている。そして、深部に進むにつれて敵は凶悪なものになる。それならば日帰りダンジョンができるのは15階層ぐらいまでだろう。
それ以上は普通に進んでもダンジョン内で夜を明かすことになる。
「で、フルフルは、と」
「いたの!」
フルフルは床に腰かけて、同年代と思われるフルフルと同じくらいの身長をした女性と話していた。
女性は紫がかった黒髪で、髪を結っておさげにしている。やっぱり角があって、鬼のように額から2本の鋭い角。フルフルと同じように魔法使いのローブを纏い、その下はブラウスと短パンだった。それから膝にはプロテクターのような革製の防具。腰にはやはりフルフルと同じようにいくつもの色とりどりの液体が入った試験管を下げている。
「フルフルー。そろそろ戻るぞ」
「あ、は、はい。け、けど、もうちょっとダメですか?」
「少しぐらいなら構わないが」
「あ、ありがとうございます……」
フルフルは隣にいる女性の方を向く。
「マルコシア。地上はヴェンディダードではありませんが、魔力回復ポーションの材料になる素材はあるかもしれません。あるいはダンジョン内でそれに近い薬草を育成すれば、魔力を宿す可能性も……」
「うんうん。なんでも挑戦してみないとね! じゃあ、地上に戻ったらそういうの探してみて。私の方も何とかして魔法ゴケから魔力回復ポーションが作れないか頑張ってみるから。魔力がないとあたしたち宮廷魔術師団は足手まといだしねー……」
「そうですね……。辛いところです……」
どんよりとした空気に包まれるフルフルとマルコシアという女性。
「あ。そう言えば紹介がまだでした。こっちは魔法学園で同期だったマルコシアです。優秀な攻撃魔法の使い手です。べリア様にも認められていたほどなのですよ。彼女は凄い魔法使いなのです」
「初めまして、久隆様。食料と水を与えてくださってありがとうございます。それからここで一番優秀な魔法使いはフルフルですよ。彼女が主席で魔法学園を卒業して、一番成功するのが難しい付呪師になったんですから」
「そ、そ、そ、そんなことは……。た、確かに付呪師は難しい分野に入るかもしれませんけれど、独立して行動することのできる魔法使いではありませんし……。結局誰かに頼むしかないそういう寄生虫みたいなものなんです……」
「もー。フルフル。そういうのはダメだよ。自信過剰になれとは言わないけれど、卑屈すぎるのもどうかと思うな。実際にフルフルが一番の魔法使いだったから、地上を目指す任務をアガレス閣下から任されたわけだし」
「で、ですけど……」
「大切な私の友達。生きて帰って来てくれて、それも救援を呼んでくれてありがとう」
俯いているフルフルの肩を、マルコシアがポンポンと叩く。
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