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20階層について

本日1回目の更新です。

……………………


 ──20階層について



「おお。レヴィア陛下、久隆殿、フルフル」


 15階層では依然としてパイモン砦にアガレスたちが陣取っていた。


 心なしか疲労の色が消えている。久しぶりのまともな食事が功をなしたらしい。


「補給だ。水と食料」


「ありがたい。この食べ物と水のおかげで我々は救われた」


 アガレスはありがたく久隆から食事を受け取った。


「皆! 食料の補給が来たぞ!」


「おおっ! ありがたいです、久隆殿!」


 魔族たちが久隆に頭を下げる。


「それより残していった負傷者3名は助かったのか?」


「無事に。もうじき戦線復帰できる」


「ふむ。またパトロールを出してるのか? この階層は殲滅したばかりだからまだ魔物が出没するとは思えないんだが」


「いや、パトロールではない。下層に斥候として送り込んだ。20階層の調査だ」


「そういえば25階層まではあることを確認しているんだったな」


 久隆が顎を摩る。


「よければ拠点を魔物が出没する15階層からエリアボスを倒した後の20階層に移そうと考えているのだが、20階層のエリアボスはどんな奴なんだ?」


「20階層のエリアボスはバイコーンだ」


「バイコーン?」


「知らないのか?」


「ああ。知らない」


 知らないことは恥じゃない。知らないことを知っている振りをするのが恥だ。


「二角獣とも言うの。ユニコーンが処女のような清純な存在を好むのに対して、バイコーンはその逆なの。そうでなくとも獰猛な魔物なの。突進による攻撃はジャイアントオーガですら薙ぎ倒すと言われているのよ」


「そいつは……。だが、ダンジョンなら馬のような生き物は行動しにくいだろう?」


 流石の久隆もユニコーンは知っている。久隆はバイコーンをユニコーンに角をふたつつけた姿で想像した。そして、この閉所であるダンジョンにおいて、馬のような魔物が活躍できる場所はないだろうと考えた。


「それが20階層は開けた部屋が4つある空間だという報告が来ている。このパイモン砦のあるフロアの3倍のフロアが4つだ。それならばバイコーンは十二分な脅威となる。今、詳細を調べているが……」


「そいつは面倒だな」


 ダンジョンは閉所ばかりかと思ったが、開けた階層もあるらしい。


 魔物に合わせているのだろうか?


 それはダンジョンコアに知性があることを意味するが……。


「ああ。モンスターハウスは何階層だ?」


「18階層。かなりの魔物がひしめいている。隠密行動を得意とする騎士でなければ突破できなかっただろう。あのモンスターハウスを制圧するのが困難なことが我々が20階層に進軍できないことの理由のひとつにもなっている」


 アガレスはそう告げて深々とため息をついた。


「騎士や魔法使いたちの練度は高くないのか?」


「もちろん、優秀な戦士たちだ。疲弊さえしていなければ戦える。だが、ジャイアントオーガを一瞬で屠るそなたと比べるとやや練度が低いと感じるかもしれないが」


「流石に俺たちもジャイアントオーガのモンスターハウスは厳しい。何名か人を借りたい。魔法使いと騎士がひとりずついればいい。背後を守るのにもう一組ほしいところなんだ。理想的なのは魔法使い2名と騎士1名か、魔法使い1名と騎士2名なんだが」


「分かった人材を見繕っておこう。出発はいつ?」


「2日後に装備が届く。それが届いてから作戦開始だ」


 捜索班が6名ならば捜索班を最小戦術単位である2名で分けることができるし、部隊の規模としても把握しやすい。


 魔法使い2名と騎士1名ならば前衛を久隆とレヴィア、フルフルの護衛に魔法使いを1名、後衛に騎士1名と魔法使い1名という編成ができる。魔法使い1名と騎士2名ならばやはり前衛を久隆とレヴィア、フルフルの護衛に騎士1名、後衛にやはり騎士1名と魔法使い1名という編成が可能だ。


 魔法使いは優秀な遠距離火力担当だ。彼らの魔法は魔物の射程外から相手を攻撃できる。銃がない現状、頼りになる兵科だ。積極的に活用していきたい。既にレヴィアやフルフルには彼女たちなしではダンジョンを攻略できないほどに助けられている。


 6名以上となると指揮を補佐する下士官が必要になる。それもある程度戦闘経験があり、戦場においてパニックを起こさず、冷静な判断を久隆の思い描く戦闘プラン通りに下せる下士官が必要だ。


 今は近衛騎士がどの程度の練度なのかを確かめたい。


 正直、自分たちに有利な狭い廊下ではなく、相手に有利な広いフロアで戦っていたことがあって、戦術的教育を受けているのだろうかと疑問に感じる。あれは何か止むに止まれぬ事情があったのか、それとも単なるミスなのか。


「騎士の中で指揮官としての教育を受けてるものはどれほどいる?」


「ここでは2名だな。通常、1名の近衛少尉が指揮官として1個小隊40名の騎士を指揮する。その近衛少尉がここには2名。いかんせんながら恥ずかしいことにこんなことになるとは思わなかったので騎士団は2個小隊しか連れてきていない」


「つまり80名の生存者は最低でもいるということか?」


「いいや。この転移の際の混乱で60名近くの近衛騎士たちが犠牲になったと報告されている。残余戦力は宮廷魔術師団を含めて40名足らずだろう。宮廷魔術師団もそこまでの人数を連れてきていたわけではないし、彼らも犠牲を出していることを考えると生存者はさらに少なく……」


「そうか」


 ここに15名近くの人数が結集できたのは奇跡だったのだなと久隆は思った。


「下士官はいないのか? 熟練の下士官だ。軍を支える背骨だろう?」


 正直なところ、少尉というのは軍隊においてさほど信頼のおける階級ではないことを久隆は知っている。彼らは国防大学校と士官候補生学校を出て、部隊を指揮するが、軍隊の入り口しか、そして戦争の端っこしかしらない。


 少尉でも信頼できるのは下士官からの叩き上げだ。彼らは軍隊のことも、戦争のこともより広く知っている。無論、下士官から見た軍隊と戦争を知っているに留まるが。


 日本海軍特別陸戦隊の狙撃手にはまず敵の下士官を狙えと教えられることを久隆は知っている。ひよっこ少尉と命令がなければ動けない兵卒を繋ぐパイプである下士官を倒せば、敵部隊の戦闘力は激減するからだ。


 久隆も士官候補生学校を出たばかりのひよっこ少尉時代にはベテランの下士官に助けられた。指揮系統上は久隆の方が上位の立場にあっても久隆は軍の小規模な戦術単位においては下士官こそが要であると思っていた。


 それから昇進しても下士官の軍での知恵には唸らされた。彼らは巧みに物資を調達し、どんな状況でも動じない。久隆も戦争を知り、昇進したときには彼らに頼るだけでなく、彼らを活用する方法を考えたものだ。


「ベテランの騎士はいるが特に階級は与えられていない。ここには3名ほどそういう騎士がいるが、彼らが必要なのか?」


「まさに」


 久隆はそう告げた。


……………………

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