銃と戦争
本日2回目の更新です。
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──銃と戦争
災害非常食と水の残りを15階層に輸送することとなり、その間に久隆はネットでいくつかの物品を注文した。
災害非常食のさらなる注文と水の注文。それから防弾チョッキの注文。
ゴブリン弓兵の脅威が高まるにつれて、この手の装備は必要だと思われていた。久隆はNIJ規格IIIの防弾チョッキを自分、レヴィア、フルフル、そして朱門のために注文し、クレジットカードで決済を済ませた。
朱門は軍医としてダンジョンに潜ってもらわなければならなくなった場合に備えてだ。今はその予定はないが、25階層より下に進むとなると、医療拠点もダンジョン内に移した方が都合がいいように思われた。
「いくぞ、レヴィア、フルフル」
いつもように弁当と水筒を災害非常食などの上に置き、久隆が告げる。
「よ。いつでも行けるぞ」
「朱門。お前は患者を診ていろ」
朱門もちゃっかりと裏口に回っていた。
「まあ、入り口だけでも拝ませてくれよ。まだダンジョンと言われても実感が湧かないんだ。患者は安定しているし、少しぐらいいいだろう」
「はあ。分かった。入り口までな」
久隆は渋々と朱門をダンジョンの入り口まで案内する。
「ここだ。防空壕みたいだろう」
「確かに。中は崩落の危険とかはないのか?」
「存外、しっかりした作りをしている。崩れる心配はなさそうだ」
「ふうむ。以前は本当に全くこういうものはなかったんだな?」
「あればもっと早くに騒ぎになっている」
朱門はしげしげとダンジョンの入り口を観察する。
「気味が悪いな。ここには魔物がいて、魔物は金貨や宝石を落とす。まるで食虫植物だ。油断して進みすぎれば、ダンジョンに食われる。当然、ダンジョン内で食料調達ができるなんてことはないんだろう?」
「自活している連中がいるが、かなり苦しい。だから、これを届けるんだ」
ずっしりとした軍用バックパックを久隆が示す。海軍時代に使っていたものを使い勝手がよかったので除隊してから通販で購入したものだ。最大で50リットルの荷物を収容でき、さらにオプションを付け足すことで20リットル最大容量を増やせる。
今はフルの状態で久隆は70キロの荷物を背負っていた。
「しかし、武器は斧か?」
「ああ。これでもどうにかなる相手だ。今のところは」
「相手も似たような武器、ってわけか? それなら銃を持ち込めば楽だろうに」
「猟銃には追跡IDが付いている。不用意に発砲すれば警察が事情を聞きに来る」
久隆はそう告げて首を横に振った。
「追跡IDがついてない銃を使えばいいだろう?」
「言っておくが俺はマフィアの世話にはならんぞ。武器を調達するなら一応当てはある。マフィアより信頼できる筋だ。それにそいつには恩を売ってある。本当に銃が必要なら、そこから調達する」
「ふうむ。意外と顔が広いんだな」
「東南アジアでいろいろあってな」
久隆はそう述べるにとどめた。
「じゅうってなんなの?」
「武器だ。小さな鉛の塊を相手に飛ばす武器だ」
「それも電気で動くの?」
「いや。それは火薬だ。爆発する薬。爆発の勢いを使って弾丸という鉛を飛ばす」
やはりレヴィアの世界に銃はないのかと久隆は思った。
そんな気はしていた。久隆が斧でダンジョンに入っても何も言われなかったのだから。
「コイルガンっていう電気で弾丸を飛ばす武器もあるぞー」
「ややこしくなるからやめろ。それにコイルガンはまだ実用化されていない」
「富士先端技術研究所が試作品を陸軍に納品しているぞ」
「本当か? まあ、末端の兵士に行き渡るのはまだ先だろうけどな」
ケースレス弾とそれを使用する銃の開発においてコイルガンは長年研究されてきた。海軍は主砲にレールガンを装備する駆逐艦などを有しているが、陸軍には未だにそのような電磁加速兵器は運用していない。だが、状況は変わりそうだ。
「ふうむ。久隆たちの世界もそういう武器が必要になるほど戦争が起きているの?」
レヴィアがそう尋ね、久隆と朱門が顔を見合わせた。
「ああ。そうだ。俺たちの歴史は戦争の歴史だ。これはどの世界でも同じだとは思うが、大勢の人間がいて多くの意見があれば対立する。その結果として戦争が起きる。俺も朱門も軍人で、ともに地獄を見てきた。世界は今も戦争の中にある」
「そうなの……。これだけ文明が発達してるから戦争は少なくなると思っていたの。だって、誰もがこんな暮らしをできるなら殺し合う必要なんてないの」
「そうだな。だが、誰もがこういう暮らしをできるわけじゃないし、中には自分の気に入らない人間が平和な生活をしているのが憎くて戦争を起こす人間もいる。そっちは魔族と人間で争っているのかもしれないが、こっちは人間同士で殺し合いだ」
「戦争というものはどうしようもないのね」
「ああ。どうしようもない」
戦争は忌まわしいが、戦争からは逃げられない。昔のように自分たちだけ平和であればいいという考えは、グローバル化によって打ち砕かれ、地政学的に否定され、結局どの国も戦争に巻き込まれている。
人間が自分こそが正義であると思い続ける限り、戦争は起きるだろう。
「この国の軍隊は今は強力だ。武力的にも、権力的にも。連中のエゴでさらに戦争が起きなきゃいいんだがな。まあ、除隊した身としては関係ないが」
「冷たい奴だな、お前は。軍隊に残っている戦友はいるだろう?」
「もうとっくに疎遠だ」
あの地獄を生き延びて平和な日本に帰ってきた戦友たちは狂ったように自殺していっている。政府も軍も発表を差し控えさせているが、葬儀は行われるので分かる。
今の彼らに会うと自分まで狂ってしまうのではないかという不安があった。
「じゃあ、気をつけてな。俺は患者を診ておく。怪我もそうだが体力的に疲弊しているようだし、暫くは安静だからな」
「頼んだ。後、ダンジョン内は時間の流れが狂うらしいから、いつ戻ってくるか断言はできん。家にあるものは好きに使っていいし、買い出しはスーパーでしてくれ」
「了解」
朱門はそう告げると久隆の家に戻っていった。
「では、行くぞ。15階層まで一気にだ」
「おーなの!」
久隆たちはダンジョンに潜る。
まだ6、7日は過ぎていないのでダンジョン内は無人で、魔物の倒れた位置に金貨と宝石が転がっている。久隆たちは真っすぐ、真っすぐ、わき目もふらずに15階層を目指す。
流石に鍛えている久隆でも70キロの重荷を背負って階段を下ったりするのはきつい。パラアスリート用の義肢の出力は軍用義肢の2倍になっているかもしれないが、荷物というのは全身で負担しながら持つものなのだ。
だが、これを運び終えれば、15階層の拠点も安定化する。
次は20階層。
20階層のエリアボスを倒して、そこに拠点を作るのだ。
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