義肢
本日2回目の更新です。
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──義肢
現代においてパラアスリートたちは通常のスポーツ選手よりもダイナミックな技を披露する。というのも、人工筋肉技術とナノテクノロジーの発達によって、ほぼかつての自分の四肢と変わらず、それでいてかつての四肢よりさらにパワフルな義肢が手に入るようになったからである。
パラアスリートたちは今では健常者のアスリートの何倍もの収入を得て、義肢メーカーの宣伝にもなっていた。カナダの世界規模の医療会社であるメティス・メディカルはいくつもの優秀な義肢とそれを制御するナノマシンを生み出し、莫大な利益を上げた。
日本も富士先端技術研究所が世界的な人工筋肉技術を得て、メティスに対抗しようといくつもの義肢を生み出し、軍民双方に提供している。今のご時世、軍学複合体と言われるほどであり、軍事に結び付く研究には軍が膨大な資金を提供する。
軍は退役軍人のことを考えていたかどうかは分からないが、少なくとも人工筋肉に関する技術に投資することには前々から前向きだった。日本国防四軍が装備する強化外骨格やアーマードスーツは人工筋肉で駆動するのだから。
そんな軍の投資もあって富士先端技術研究所は日本有数の義肢メーカーとなった。もちろん彼らは義肢だけを扱っているわけではない。制御用のオペレーティングシステムとなるナノマシンも自分たちで開発しているし、核廃棄物を分解するバクテリア、ミサイル防衛のためのレーダーなども開発している。
そのような複合的研究機関が開発したパラアスリート用の義肢を、久隆は海軍から医療費の支援をしてもらいつけていた。海軍は基本的に傷病除隊者に優しく、彼らが祖国のために戦ったことを評価し、報いてくれている。
その義肢の様子がおかしいと久隆は思っていた。
「義肢のメンテナンスは最後にいつやった?」
「つけたばかりだぞ? 5か月前に軍病院で退院したときにつけてもらったままだ」
「ふうむ。初期不良か? 民生用の人工筋肉はまだまだだからな。テストできる機械があるからそれで調べてみよう。というのも、俺はお前が傷病除隊して医者が必要だと聞いて、義肢の問題だとばかり思っていたんだ」
「まあ、半分は当たったな」
「だな。しかし、レベルアップとは。俺も子供時代はゲームで遊んだものだが」
「そう思うが魔法とダンジョンだぞ? 既にゲームだ。俺たちがイカレてるのか、あの空間がイカレているのか」
「理由としてはレベルアップとかいうものより気分的なものじゃないのか? これまでフルにパラアスリート用の義肢を使ったことはないんだろう? 最近のパラアスリート用の義肢の性能は凄いぞ」
「軍病院にいるときにリハビリでフルに使った。バスケットボールとテニスをやった。だが、明確にあのときよりも出力が上がっているように思える」
「6か月前の記憶とは隔たりがあるものだぞ。俺たちはもう36歳だ」
「それもそうだが。とにかく調べてくれ。いきなり人工筋肉が断裂しても困る」
「分かった。まずは右手からだ。この機械に腕をおいて、力を込めてくれ」
「軍病院でも使ったことはあるから分かる。これでいいんだろう」
ふたつのクッションを合わせたような機械で、空気によって血圧計のように締め上げるものが人工筋肉の標準出力を調べる機械だった。人工筋肉の最大出力値は標準出力値から求められる。
「……おい。装着したのは本当にパラアスリート用の義肢か?」
機械の数値を見つめていた朱門が尋ねる。
「そうだが」
「これはメティス・メディカルが開発して、アメリカ軍が採用している最新鋭の軍用義肢の2倍の出力があるぞ。これだけの出力があれば、強化外骨格を装備した兵士と格闘戦を行ってもお前が勝つだろうな」
「冗談だろう?」
「冗談を言っている顔に見えるか?」
朱門は信じられないものを見たという顔をしていた。
「待てよ。最新鋭の軍用義肢といってもパラアスリート用の義肢より少しばかり耐久性が高い程度じゃないのか? そもそも軍は義肢をつけるような状況になったら傷病除隊を促すものなんだろう?」
「それは海軍と空軍だけだ。陸軍でも情報軍でも義肢を装備した兵士がいる。陸軍も情報軍も専門家である兵士は貴重だから最後まで使い潰すんだ。情報軍なんて四肢を全部義肢にするだけに飽き足らず、脊椎と骨盤まで強化しているぞ。そして、お前はそういう連中が装備している義肢より出力が出ている」
「しかし、これはパラアスリート用の義肢だ。間違いない。製造番号とメーカーが刻印されているだろう?」
「ああ。間違いなくこいつは元は富士先端技術研究所のパラアスリート用の義肢だった。だが、今は違う。俺に診せて正解だったな。普通の医者に診せていたら、義肢の不正改造で懲役刑ものだぞ」
朱門がそう告げると久隆は頭を抱えた。
「耐久性はどうなっている? やはり劣化しているか?」
「画像を見る限り、劣化は見られない。筋線維にも循環しているナノマシンにも異常はない。しかし、どうやってこんな改造をしたんだ? 人工筋肉を入れ替えて、脳のナノマシンのプログラムも書き換えないとこんなことは不可能だぞ」
「そんな技術が一介の海軍少佐に過ぎなかった俺にあるわけないだろ。俺は海軍でも人工筋肉を使ったのは強化外骨格を扱った時だけだ。その時だって専門のエンジニアはほとんどの準備を済ませてしまっていた」
強化外骨格も人工筋肉で駆動するが、人工筋肉そのものは軍用であり、手荒い扱いに耐えられるようになっているものの、メンテナンスなどは専門家が行う。生物工学の専門家──最近の軍はこの手の業務を民間企業に外注している──が人工筋肉と生体電気センサーをメンテナンスし、ようやく強化外骨格は使い物になる。
ある意味では戦闘機と同じだ。それを使うパイロットにはメンテナンスできないが、機体に搭乗しない専門家にはそれができる。
「となると、やはりレベルアップとやらか?」
「それ以外に考えられることはないだろうな」
ふたりしてため息を吐く。
「現実を見るしかない。お前は人工筋肉のエンジニアでもないし、ナノマシンの専門家でもない。なのに、パラアスリート用の義肢で間違いないはずの義肢が軍用義肢の2倍の出力を出している。これを実行するには少なくとも1ダースの専門家が必要だし、莫大な金がかかる。お前がこれをどうこうすることはできない」
「となると、本当にレベルアップとやらをしているのか」
「レベルアップというのは何かしらの超常現象なのかもしれない。人類は宇宙の隅々まで理解したわけじゃない。まして、魔法なんてものはフィクションの中だけだった。世界が変わったなら、その世界に合わせるしかないだろう」
「確かに俺たちは宇宙の全ては知らない。生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答えを知っていても、な。物理学にも謎が秘められているし、人間は自分自身の体についても知り尽くしたわけじゃない。何が起きても不思議ではないということか」
「そういうことだ。久隆、お前は魔法は使えないのか?」
「使えるわけないだろ」
「使えたら面白そうなんだがな」
朱門がそう告げて小さく笑う。
「だが、実際に使えるとしたらどうなると思う?」
久隆は彼がずっと懸念していたことを友人に尋ねた。
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