13階層以降
本日1回目の更新です。
……………………
──13階層以降
迫りくるジャイアントオーガ。その数2体。
「レヴィア。叩き込め。目を狙うんだぞ」
「任せろなの」
レヴィアは物陰から飛び出すと、久隆も同時に飛び出す。
「『斬り裂け、氷の刃!』」
レヴィアの攻撃は正確にジャイアントオーガの目に命中した。
しかし、狭い廊下で1体のジャイアントオーガが射線を塞いでしまっているため、攻撃は1体目に集中した。だが、効果は抜群だった。ジャイアントオーガは顔面を引き裂かれ、苦痛に悶え、狭い廊下の中で立ち止まってしまった。
そこにすかさず久隆が突入する。
ジャイアントオーガの弱点は頭部と首のみ。胴体はどう考えても斧で裂ける肉の量を超えている。久隆は1体目の顔面を切り裂かれたジャイアントオーガの首を裂いた。首の太さがちょっとした大木ほどはあるので斧で首を刎ね飛ばすことはできない。だが、致命傷を負わせるには十分だ。
1体目のジャイアントオーガが久隆の斬撃の衝撃を受けて後ろに向けて倒れる。その死体が後ろから進んできたもう1体のジャイアントオーガにのしかかり、もう1体が攻撃不能になる。手を上げようとするが死体が邪魔で動けない。
その間に久隆が2体目を仕留めにかかった。
短剣を構える暇もなく、盾を構える暇もなく、ジャイアントオーガの頭に斧が叩き込まれる。ジャイアントオーガは悲鳴すら上げられず、痙攣すると地面に崩れ落ち、金貨と宝石を大量に残して消滅した。
「他に動いている奴はいない。クリアだ」
ジャイアントオーガを片づけてから即座に久隆が索敵を行う。
「やったの! 大勝利なの!」
「あ、あのジャイアントオーガがこんなにもあっさりと……」
これでなんとかジャイアントオーガで行き詰まることはなさそうだと久隆は一安心した。だが、これが大量に出てきたり、ゴブリン弓兵と組んでいた場合には面倒だなと思う。それからジャイアントオーガの弓兵はかなりやばい。
だが、幸いダンジョンで身長が高いことはそこまでのメリットではない。開けたフロアで戦うのならともかく、狭い廊下で戦う分にはほぼ一対一だ。1体ずつ片付けて行けるならば、そこまで苦戦する相手ではない。
これから鎧を纏ったジャイアントオーガが出現してもどうせ胴体は最初から攻撃目標に選んでいないのだから何の問題もない。
頭と首。人体の急所を確実に潰せば、やれる。
「この階層の地図を作成し終えたら13階層だ。15階層までもう少しだぞ」
「ついになの。みんな助けを待っているの」
レヴィアが気合を入れる。
「よ、ようやく伝令としての義務が果たせます……。ダンジョンの出口が異世界に繋がっていることは予想外でしたが、レヴィア陛下の安全を確認できただけでもアガレス閣下たちの士気は大きく上がりますよ」
フルフルも安堵の息を吐いている。
「油断はするな。15階層までは近いようで遠い。ジャイアントオーガなんてデカブツも出てきた。油断せず、連携し、確実にダンジョンを潜っていこう。そして、レヴィアたちの仲間を救出しよう」
「おー!」
久隆たちは13階層に降りる階段を下っていく。
13階層に降りると同時に索敵。
「ジャイアントオーガ2体。オーガ6体。オーク7体。ゴブリン6体」
「楽勝なのね」
「だから油断はするな。ここでうっかりやられたら今までの努力が無に帰すんだ」
ダンジョンと魔法にモンスター。
まるでゲームのようだが、これは現実だ。
リトライはなし。死ねば終わり。うっかりのミスでも死に繋がる。
用心には用心を重ねる。久隆は自分自身死ぬつもりはなかったし、レヴィアやフルフルを死なせる気もなかった。生き残って、レヴィアを仲間たちの下に帰し、彼らを元の世界に送り返す。ダンジョンも引き取ってもらう。
それが今の久隆の義務。久隆の任務。
海軍を除隊してから得た、最初の義務。
13階層で厄介だったのはまとまっていないゴブリン弓兵だった。
全てがバラバラの位置にいて、鎧オークや鎧オーガと行動を共にしており、久隆たちは上手く彼らの連携を断って、各個撃破しなければならなかった。
そして、ゴブリンたちが泣き叫ぶのに、ジャイアントオーガや他の敵がやってきて、乱戦寸前の状況になりかかるのも厄介だった。久隆たちは迅速に敵を始末することを求められ、レヴィアと久隆は攻撃を叩き込み、フルフルはふたりを援護した。
ジャイアントオーガとの戦いにもかなり慣れてきた。
一撃が死に繋がることが恐ろしいが、それはオーガも同じだ。オーガと違って弱点は少なく、強固な重戦車のようだが、重戦車とは鈍重なものだ。久隆は鈍重な重戦車の弱点を突く、軽快な対戦車兵だった。対戦車地雷や、集束手榴弾、対戦車ロケットの代わりに斧を鈍重なジャイアントオーガの頭部に叩き込む。
13階層は瞬く間に魔物が全滅し、クリアになった。
地図の作成も完了。
「よし13階層攻略」
時刻はまだ16時だ。予定よりずっと早い。
「久隆、久隆。動きがさらに俊敏になっているの。レベル、上がってないの?」
「分からん。人工筋肉の出力が勝手に上がるとも思えんのだが。ただ、確かに体が軽い。以前よりずっと体が軽い。このダンジョンに入ってからだな。こういうことが起きたのは。少しばかり異常かもしれん」
「レベル、測ってみるの」
レヴィアが親指と人差し指で丸を作る。
「レベル4になってるの! それもステータスが凄いの! こんなの見たことないの! けど、やっぱり魔力はゼロなのね」
「そうそう魔法が使えるようになるものか」
自分が魔法が使えるようになったら、やはり研究所に閉じ込められるのか。アメリカに亡命して、タネなし手品を操るマジシャンとして活躍できるのか。いずれにせよ、久隆の求めているような人生じゃない。
「それよりお前たちはレベル、上がってないのか? なんというか、敵を倒せばレベルが上がるんじゃないのか?」
「具体的には経験を積むことでレベルが上がるの。敵を倒してレベルアップだったら、敵が倒せないフルフルはレベルアップできないの。実戦の環境に身を置いて、魔法を使い、敵と戦い、味方を援護し、そうやって経験を積むことでレベルアップするの」
「なるほどな。しかし、訓練ではレベル4が限界なんだろう?」
「実戦と訓練では状況が異なるのね。実戦は緊張感があって本物の血が流れ、魔物も本気で殺しに来る厳しい環境だけど、訓練はまず死ぬ心配がないから、本気を出しているつもりでも出し惜しんでいることがあるの。魔法なんかは特にそうなの」
「ふむ……。実戦に即した訓練と言っても訓練は訓練だからな」
久隆たちの時代にもなるとフルダイブ型VR環境での訓練も行った。実戦に限りなく近い環境で、痛みも感じる。だが、VRはVRだ。リアルじゃない。痛みはリミッターがかけられているし、死の恐怖も感じない。
野外演習でも同じこと。レーザーを使った命中判定で戦闘不能か否かが決まるような環境が与えるものはVR環境と同じもの。こちらは痛みすらない。ただ、この演習の意味は実戦に近い環境に身を置き、実戦となった時に引き金が引けるようにしておくためだ。
訓練と実戦は違う。
……………………




