大きな収穫
本日1回目の更新です。
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──大きな収穫
マンティコアが足を引きずるような遅さで久隆に向かってくる。
「終わりだ、醜い獣」
久隆はそう宣言してマンティコアに突撃した。
マンティコアは身を低くすると、尻尾の毒針を久隆に叩き込まんと向けてくる。
だが、それは久隆に達さなかった。
久隆は身を翻して尻尾の攻撃を躱し、尻尾をがっしりと掴むと斧を叩きつけた。
これまでは何度もの攻撃に耐えてきたマンティコアの尻尾が切断され、マンティコアが再び悲鳴を上げて、燃え盛る体を悶えさせる。
これで脅威はなくなった。仕留めるだけだ。
久隆は切断された尻尾を投げ捨て、斧を両手でしっかりと握るとマンティコアの頭部に振り下ろした。マンティコアの頭蓋骨が音を立てて割れ、マンティコアはもはや悲鳴すら発さなくなった。
そして、そのまま2、3歩進むと地面に倒れた。
「仕留めた」
マンティコアの体が消えていく。
だが、久隆は油断しない。
他にマンティコアがいないか。先ほどの戦闘の音を聞きつけて近づいてきていないか。即座に索敵を始める。だが、周囲にそれらしい反応はない。
「レヴィア、フルフル。やったぞ」
久隆が額に滲んだ汗を拭って告げる。
流石の久隆もちょっとばかり恐怖を感じていた。だが、それを上回る闘争本能が炎となり、久隆を興奮させ、マンティコアという化け物と戦わせていた。
「おおー! 信じてたの、久隆!」
「す、凄い……。マンティコアを本当に仕留めるだなんて……」
レヴィアとフルフルが曲がり角から出てきて、それぞれの感想を述べる。
「これでこの階層にはもう魔物は出現しないんだな?」
「しないの! これでここはセーフエリアになったの!」
「よし、一歩前進だな。ここを足掛かりに15階層を目指そう」
「おー!」
「だが、一先ずは物資補給のための帰還だ。15人分の食事を運ぶぞ」
この魔物の死体が消えるダンジョンでは食料の採取も困難なはずだ。それを解決し、さらには医療品の提供も行うためには一度地上に帰って物資の補充を行わなければならない。運べるだけの物資を運び、希望者がいれば一度地上に連れていく。
「それにしても凄い数の報酬ですね……」
マンティコアが倒れた後には山ほど積まれた金貨と宝石があった。
「……一応回収していこう。場合によっては換金できるかもしれない」
「できるの?」
「医者がいるだろう。医者を雇うのに金が要る。そして、その医者はこの手の出自不明の金貨や宝石を換金する伝手がある」
「この世界の医者は両替商も商っているの?」
「違う。ただ、そういう非合法な金を扱い合法な金に換える組織と付き合いがある医者というだけだ。闇医者とも言う。付き合っている人間が付き合っている人間なだけあって、口は堅いし、高校の時からの知り合いだ」
「ふうむ」
レヴィアはなにやら考えたようだった。
「医者がいれば、助かる奴らも出てくるかもしれない。回復魔法ってのを使える人間が少なく、疲弊しているんだろう? 重傷者はいろいろと難しいかもしれないが、軽い傷の人間なんかは助かるかもしれない」
「そ、それは助かります! 本当に回復魔法の使い手が少なくて、それも魔力の回復が追いつかなくて、その間に軽傷者も重症化していって、手が付けられなくなって……」
「そうか。じゃあ、なんとしても引っ張ってこないとな」
久隆は知り合いの医者を呼ぶことを決めた。
「まあ、まずは離脱だ。マンティコアも倒したし、10階層までは時間の狂いもない。さっさと上に上がって、準備を整えて……」
今日中に15階層まで行けるか?
久隆が考える。
今の時刻は10階層の探索とマンティコアの討伐に3時間かかったので9時だ。
10階層から地上までは一直線で目指しても2時間はかかる。流石に今日中に15階層まで潜るのは難しそうだと久隆は結論した。今日は探索を切り上げて、地上で休憩し、例の医者に連絡を取り、明日再びダンジョンに挑もうと結論した。
レヴィアにしてもフルフルにしても、ダンジョンで夜を過ごすより、新鮮な食材で作った温かい食事を食べ、風呂に入り、柔らかいベッドで横になった方が回復するはずだ。それに10階層まで抜けたのだ。後は5階層。これまでのテンポならば、明日の夕方には15階層に到達するかもしれない。
それからどうするかだ。
物資は届ける。それによって助かる人間もいるだろう。医療品も役立つに違いない。消毒用アルコールもあるし、化膿止めもある。流石に抗生物質は医者ではないので手に入らないし、破傷風のワクチンもない。久隆は猟友会に所属し、山に入るので破傷風のワクチンは打っている。
やはり医者は必要だなと久隆は思う。久隆も特殊作戦部隊の隊員として、応急手当の訓練を受けているが、専門性はない。久隆たちがやるのは後方で治療を受けれるようにするための時間稼ぎでしかないのだ。
しかし、あの医者は日本のどこにいるのか分からない。それにこのグレーゾーンの金貨や宝石を報酬にすることに本当に納得するだろうかという疑問点もある。根はいい男なのだが、やっていることは犯罪という男なのだ。
犯罪者が医者をやっているのか? いや、医者が犯罪者をやっているのだ。
「何はともあれ、今日はちとばかり緊張した。毎度毎度エリアボスがこんな化け物じゃあ、寿命が縮むぞ」
「地下にいるエリアボスは恐らくもっと強力なの。マンティコアも強敵だったけれど、それ以上に強力な魔物がいるかもしれないの」
「だよな。地下に潜るにつれて魔物の強さが増すんだ。エリアボスだけ例外ってことはないだろうな。となると、10階層ごとに対策を考えなきゃならんわけだ」
一体このダンジョンは何階層で構築され、何体のエリアボスがいるのだろうか。地上から遠のくにつれて、補給は難しくなっていくというのに。
「今日は昼飯は何か食いに行こう。晩飯はすき焼きだ。ダンジョン10階層突破記念だな。ケーキも食べたかったら食べていいぞ。それだけの働きをしたんだからな」
「ケーキ! ヴェンディダードでは年に1回しか食べられなかったの! 楽しみなの!」
レヴィアは嬉しそうに飛び跳ねた。
「わ、わ、私もケーキを、その、食べてもいいですか……?」
「ああ。とはいっても都会みたいにいろいろあるわけじゃないぞ。イチゴのショートケーキやチーズケーキ、チョコレートケーキとかシンプルなものばかりだ」
「いいじゃないですか! ヴェンディダードには甘味はあまり手に入らない希少品なんですよ! そもそも砂糖の値段が高くて……」
「戦国時代みたいだな、お前の国」
戦国時代は日本も砂糖はなかなか手に入らなかったそうだ。
「何はともあれ、今日は凱旋だ」
久隆たちは地上に戻っていく。
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