途中休憩
本日2回目の更新です。
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──途中休憩
昼食にしようと告げて、バックパックを下ろす久隆。
「あ、あ、あ、あれだけ死にかかったのに、よく食欲なんて湧きますね……」
「腹が減っては戦はできぬなのよ、フルフル」
「それはそうですけど……」
それにしてもである。さっきまでまさに死にかかっていたのだ。危うく殺されるところだったのだ。フルフルはそう簡単には頭を切り替えられない。死の臭いがする中で食事をするなどということは。
「フルフル。食欲が湧かなくても食え。食うのは義務だ。まだまだ先は長い。この階層のような魔物だらけの階層があるかもしれない。その時にエネルギー不足で倒れるなんてことがあれば、レヴィアの命も危険に晒される。空腹を感じなくとも、確実にエネルギーは消費しているんだ。それが表に出るまで待っていてはダメだ」
久隆はそう告げておにぎりに齧り付いた。
「分かりましたよ……。食べます、食べます。陛下のためですから」
フルフルもおにぎりを齧り、麦茶を飲む。
「こんな階層は上に上がるときに他にもあったか?」
「え、ええっと。この階層はいわゆるモンスターハウスというもので、魔物の密度が濃ゆい場所なんです。私が確認していたのはこの1階層だけですが、10階層にひとつはこういう階層があると本には記されています」
「これが10階層にひとつもあるのか? しかも、これから先に潜った先でも?」
「ええ。あると思います。私としてはガクブルですけど……」
10階層に付きひとつのモンスターハウス。
恐らく10階層ごとに存在するエリアボス。
25階層以上ということが確認されているダンジョン。
これはちょっとばかり苦しくなってくるなと思う久隆だった。
「安心するの。15階層でアガレスたちと合流したら戦力は増えるの。ちゃんとしたパーティが組めるの。もちろんフルフルも続投してくれるの」
「ひえっ! わ、私も15階層より下層に行くんですか……?」
「フルフルほどの付呪師は他にいないの。そして、パーティには付呪師がひとりはいるべきなの。後は回復役と前衛がもうひとりほしいところなの」
レヴィアは満足げにおにぎりを食べながらそう告げる。
「ひとり、ふたりと言わず、10人くらいで──」
そこで久隆は気づいた。
「そうか。ダンジョンの広さ的に大規模な戦力の展開は無理か」
ダンジョンの通路はさほど広くない。
出没する魔物に応じて変化しているようだが、鎧オーガが出没する廊下でも幅は4、5メートル。広い場所だと10、20メートルレベルの廊下というより部屋と称した方がいいフロアになるが、基本的にダンジョンは閉所だ。
旧ソ連式に波状攻撃を仕掛けるならともかく、狭い戦域に展開できる戦力の規模は限られる。より以上は作戦行動の支障になるだけだ。
補給の面でもそうだ。
あまり大勢を連れていけば、それだけの補給が必要になる。6、7日間で後方連絡線が遮断されることが分かっているダンジョンで、補給線を維持し続けるのは難しい。基本的に往復6日以内で済ませて、10階層ごとに存在するだろうエリアボスエリアに物資を移動させていくしかない。
地上からの補給はもはや何度も何度も魔物を壊滅させるしかないだろう。
幸いにして10階層に至るまで問題になるのはこの6階層ぐらいである。10階層までとにかく大量の物資を運び込んでおくしかない。
10階からアガレスたち友軍のいる15階層まではどんな敵が出るかまだ聞いていないが、それを聞いておくべきだなと久隆は思った。
「フルフル。10階層から15階層までは魔物はどうなっている?」
「これまでの調査で判明しているのはやはり鎧を纏ったオーガと鎧付きのオーク。それからゴブリンの弓兵と……15階層傍にはジャイアントオーガが出没します……」
「ジャイアントオーガってのはどんなのだ?」
「人間は無知ですね……。通常のオーガよりひと回りは巨大なオーガです。角が生えていて、武装しています。分厚い脂肪、筋肉、皮膚、骨格で攻撃を弾き、その巨体に似合わぬ速度で突撃してくる厄介な敵です。あ、あれと戦うことは避けましょう……?」
「いや。物資を安全に運ぶには15階層までの道のりをクリアにしておかなければならない。魔物たちは全滅させていく。そして再構成までの間に物資を次々に運ぶ」
物資を運んでいるところを襲われでもしたら目も当てられない。物資はダメになるかもしれないし、運んでいる久隆たちが危険に晒されるのは言うまでもない。
魔物は皆殺しにして階層をクリアにしていく。6、7日後、また同じことすることになったとしてもそうする。安全性の確保と兵站線の確保が最優先だ。この今使っている斧もいつ使えなくなるか分からない。頑丈な斧だが、何度も頭蓋骨を砕いたり、鎧を砕いたりなど本来の用途ではない使い方をしていては。
「それから聞いておきたいんだが、拠点になっている15階層にはどれほどの人間──魔族がいるんだ? かなり多いか?」
「私が出発したときには15名が生き残っていました。ですが、4名は重症でしたし、回復魔法も魔力回復が間に合わないぐらい必要で……。あれからアガレス閣下たちが、25階層より下の階層から生存者を引き上げていない限りは15名かそれよりも……」
「そうか」
状況は危機的だ。
医者でもいればいいのだろうが、流石に診療所の医者を連れてくるわけにはいかない。彼自身老齢だし、彼がいなくなれば誰がこの田舎の地域医療を支えるというのだ。
しかし、他に医者と言えば……。
「ふむ。医者にひとりだけ心当たりがある。だが、そいつを雇うためには金が要る」
「お、お金ならそこら中にあるじゃないですか!」
「ここの金貨は換金が難しい。宝石については不可能と言っていい。そして、そいつを雇うには大金が必要だ。反社会的組織のマネーロンダリングと疑われるほどの大金が必要だ。少しばかり難しい」
「そ、そうですか……。ま、まあ、別に人間の医者なんかに期待してませんけれど」
と言いながらも、フルフルは目に見えてがっかりしていた。
「換金する手がないわけじゃないんだが……。何分、このダンジョンの件は俺の世界の人間に知られない方がいい。俺たちの世界には魔法なんてないし、ダンジョンも存在しない。だから、調べたがる人間も、利用したがる人間も出てくるだろう。そうなると、そっちが元の世界に帰るのが難しくなる」
今のレヴィアたちは漂流した宇宙人みたいなものだ。それも特殊な力を持った。
政府は、軍部は、仕組みを調べたがるだろう。ダンジョンで富がもたらされるならば、使わない手はないだろう。異世界に帰さず、利用し続けることを選択するだろう。それが久隆には心配だった。
政府の陰謀だのなんだの与太話の半分以上はデマだが、一部には事実もあるのだ。
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本日の更新はこれで終了です。
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