生きたい
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──生きたい
生きたいと叫ぶダンジョンコア。
畜生。こんなことは想定しなかったぞと久隆は思う。
ダンジョンコアに意識があって、それは生きたいと望んでいる。レヴィアたちを助けるということはこのダンジョンコアを殺すことになるのだろうか?
「なあ、共存は考えなかったのか? お前は魔物の数を調整して、魔族を殺さず。魔族もお前を殺さないという方法は考えなかったのか?」
「魔族が殺さなければ人間が殺す。これは争奪戦なんだ。魔族と人間の醜い富の奪い合いだ。魔族がダンジョンを攻略した後、私たちダンジョンコアを破壊するのは、魔力の枯渇もあるが、富を人間に渡さないためでもある」
「そして、お前は国境線の不確かな位置に生まれた」
「そうだ。魔族たちは間違いなく私を殺す。富を人間に奪われるくらいならば、と。人間でも同じだろう。魔族に富を奪われるくらいならば私を殺しておくはずだ」
「そうか……」
ダンジョンコアが侵入者を皆殺しにしたがる理由は分かった。彼女は殺されることを避けようとしているのだ。彼女が意思疎通の取れる生き物であっても、魔族たちにとってはこのダンジョンの富を敵対する人間に渡すわけにはいかない。
ベリアと合流して元の世界に戻れば、ダンジョンコアは破壊されるだろう。
「お前の立場は分かった。だが、この世界に来ても話は変わらないぞ。この世界にもダンジョンから富を得たがっている人間が大勢いる。そういう人間のことは考えなかったのか? そもそもお前がこの世界にダンジョンを飛ばしたのか?」
「私だって欲深い人間がどこにでもいることは知っている。お前だってそのひとりだろう。ダンジョンから持ち帰った財宝で何をしているんだ? 酒か? それとも女か? 私だって馬鹿じゃない。だから知っている。この世界の住民はダンジョンの存在を知らない。仕組みを知らない。だから、永遠にダンジョンから富が得られると思うだろうし、富が尽きても研究のために私を生かすはずだと」
間違いではない。もし、日本情報軍のような組織がダンジョンの存在を知れば、そこから富を得て、秘密作戦の予算にするだろう。彼らは国会で予算が通りそうにもない作戦を行っているのだ。
そして、富が尽きてもダンジョンコアは破壊されない。興味深いサンプルとして、富士先端技術研究所あたりで保管され、生き延びることができるだろう。
この世界にダンジョンを飛ばしたのは間違いではない。
しかし、誰がそんなことをダンジョンコアに教えた?
誰がダンジョンコアをこの世界に飛ばした?
「ボクだよ。ボクがダンジョンコアにこの世界の情報を教えて、この世界に飛ばした。そういう約束だったからね」
「ラル……?」
「ボクは見た目よりも危険だということさ」
ラルは不敵に微笑んで見せた。
「それで、これからどうするつもりなんだ? 元の世界に戻るつもりがないならば、この世界に本当に根を下ろすのか? そんなことをしたって、いつまでも生き残れるわけじゃない。実験に使われて、解明されれば、哀れに廃棄されるだけだぞ」
「それでも向こうの世界にいるよりも長生きできるはずだ」
「本当にそう思うのか? ラルが情報を教えたなら、彼女は意図的に情報を隠している。この世界の軍隊は魔族たちとは比べ物にならないほど強力だ。瞬く間に全ての階層を制圧し、あっという間にお前をも見つけ出すだろう。そして、研究スピードも早い。俺の腕は義肢だ。そして、この義肢が生まれたのは20年前で、最初は大したものじゃなかったのが、今では数十トンもする機械を動かす動力に使われている」
「だけど……!」
「ここにもお前の居場所はない。与えられるのは速やかな死だけだ」
久隆が冷たくそう告げるのに、ダンジョンコアは黙り込んだ。
「ラル。本当か?」
「嘘ってわけでもないね。けど、少しは長生きできるんじゃないかな?」
ラルは肩をすくめてそう告げた。
「何故だ。何故なんだ。どうして私は殺されないといけない! 私だって生きているんだぞ! 富を生み出すからか? 私だって好きで富を生み出しているわけではない! ダンジョンコアとしての性質がそうさせるだけだ!」
ダンジョンコアが叫ぶ。
「生きたい! 生きたいと望むことがそんなに悪いことなのか? ただ、生き続けたいと望むことがそんなに悪いことなのか? 理不尽だ! どうして、どうして、私は殺されないといけないんだ!」
ダンジョンコアの瞳からは涙があふれ続けていた。
「お前だって大勢の魔族を殺しているだろう。そいつらだって生きたいと思っていたはずだ。お前は自分が生き残るために他人を殺した。そうなればもう理不尽でもなんでない。ただ、お前が始めた殺し合いの結果として殺されるだけだ」
久隆はそう冷たく言ってのけた。
「だってさ。いまさら魔族と和解はできない。下の世界に帰れば殺される。それで、君はどうしたい、ダンジョンコア君? このまま魔族の皆殺しを図っても、今度はこの世界の軍隊が攻め込んでくるだけだ。お兄さんのいったことはただしいよ。この世界の軍隊は魔族たちとはレベルが違う。圧倒的戦闘力でドラゴンゾンビですらも瞬殺されるだろう」
「クソ、クソ、クソ。ラル、お前はこうなることが分かっていたのか?」
「いいや。適当な僻地に飛ばしたから、この世界の軍隊が登場する前に魔物によって魔族たちは皆殺しになるはずだった。そうすれば、君はひっそりとこの世界で生きていけただろう。誰かが見つけるまでは。その誰かが予想以上に速かっただけだ」
ラルは肩をすくめてそう告げた。
「諦めろ、ダンジョンコア。魔族と和解はできないかもしれないが、延命はできるように説得してやってもいい。向こうの世界に戻って、人間の軍隊が攻め込むまではダンジョンコアを破壊しないように、と」
「ふざけるな! 私は生き延びたいんだ! 魔族に首元にナイフを突きつけられたまま、いずれ時間の問題である人間の軍隊が来るまでの間だけ生かしてもらうために慈悲を乞う? ふざけてるのか! 私は生き延びる! 全員を殺して!」
「そうか。なら、交渉の余地はない」
久隆は思った。意志疎通の取れる相手でも殺さなければならないと。ダンジョンコアがいくら意思疎通が取れる存在でも、久隆は殺す。久隆は戦場で意志疎通が取れる存在を何人も殺してきたのだから。
今さらそこにダンジョンコアが加わっても仕方がないとしか思わない。
「ラル。こいつらを100階層に転移させろ。ドラゴンゾンビで殺す」
「本気かい?」
「本気だ。こいつらさえ死ねば魔族たちは無力だ。殺されるしかなくなる。私は魔族を皆殺しにしてでも生き延びる。この世界の軍隊が攻めてきても生き延びる。どうあっても生き延びるんだ。死にたくないんだ……!」
ダンジョンコアは搾り出したような声でそう告げた。
「だってさ。お兄さん。悪いけど、お兄さんたちを100階層に転移させるよ。ドラゴンゾンビはすぐにお兄さんたちに気づくだろう。生き延びたければ逃げることをおすすめするよ。では、機会があったらまた会おうね、お兄さん」
ラルが微笑む。
「ボクはお兄さんのこと、そんなに嫌いじゃないから」
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