93階層以降と突然の失踪
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──93階層以降と突然の失踪
93階層以降もほぼ上層と同じ戦いが繰り広げられた。
レヴィアと久隆によるリザードマンの即時排除。マルコシアとフォルネウスによる牽制。それから、フルフルの付呪によるリザードマンの速度低下と友軍の身体能力ブースト。そして、最後は一斉攻撃。
もちろん、臨機応変に運用するものもある。サクラの狙撃やマルコシアも魔法などは運用方法を変えることもある。だが、基本的な流れは同じ。
久隆たちも何度も人狼との戦いの経験を重ねていくのに、人狼との戦いに慣れてきた。人狼は確かに素早く、そして強力な攻撃を放ってくる。だが、ある程度戦うとその動きにもパターンがあることに気づく。
人狼の攻撃はほぼ相手の即死を狙った攻撃だ。首や心臓など、人体の急所を狙ってくる。久隆たちが防御しない限り。久隆たちが防御すると、今度は武器を狙って攻撃を行ってくるのが常である。
剣道に型があるように、柔道にも型があるように、人狼の戦いの型が見えてくる。
そこまで見えれば、人狼は正体不明のおっかない怪物から、倒せる相手に変わる。
久隆たちは人狼の攻撃パターンを全て読み取ろうと戦闘を重ねていき、ようやく人狼の攻撃パターンをある程度理解した。
「人狼の攻撃パターンはある程度分かってきたな」
「ええ。肝心なのは敵は攻撃する際に勢いをつけるために大きく腕を振り回すという点です。その動きが見えたら防御を、フェイントの可能性はほとんどありません」
「魔物は駆け引きをしないというわけか」
魔物はよくも悪くも動きが直線的だ。
フェイントをかけたりはしない。迂回突破をしたりはしない。待ち伏せたちはしない。そういう生き物であった。
そういう生き物であるからこそ、今の久隆たちでも戦えているのだ。
これが攻撃にフェイントをかけたり、迂回突破して挟撃をかけてきたり、階段の傍で待ち伏せしたりするような生き物であったら、久隆たちも損害を出し、ダンジョン攻略は困難になっていたかもしれない。
だが、それは無用の心配。魔物たちは侵入者を見つけるとどこまでも直線的に行動する。ゴブリンから人狼に至るまで全ての種族において。
それでも、久隆は油断しない。
いつ、魔物が戦術というものを理解するのか分からないのだ。迂回突破や待ち伏せぐらいならば、戦いの素人でも思いつく。魔物に知性はないというが、久隆は敵を侮るべきではないと思っている。
彼は待ち伏せに備えて、無人地上車両で念入りに偵察するし、迂回突破される可能性に備えて後方にも注意する。
敵を侮って痛い目を見た事例は歴史上いくつもある。そんな失敗の歴史を繰り返すべきではない。敵に少し用心するだけで、その攻撃を失敗に終わらせられるならば、そうするべきである。
もちろん、お化けに怯えるような用心の仕方間違っている。あくまで現実的な脅威に対して備えなければならないのだ。
「しかし、これで95階層か。モンスターハウスまではもう少しだな」
「ええ。モンスターハウスはこれまで以上の戦いになりますよ」
「備えよ、だな」
久隆たちはいよいよ問題のモンスターハウスまで残り僅かな位置にまで迫った。
「では、行くぞ」
久隆が95階層に続く、階段に足を踏み入れたとき、彼の視野が暗転した。
何が起きたか久隆が把握するのには時間がかかった。
「レヴィア! フルフル! マルコシア! フォルネウス! サクラ!」
それぞれの名前を呼ぶが返事がない。
「畜生」
久隆は敵に発見される恐れを考えながらもライトをつけようとした。
その時だった。視界が再び明るくなったのは。
「やあ。お兄さん。久しぶりだね」
「ラル……? お前はいままでどこに行っていたんだ?」
現れたのはラルだった。
いや、ラルだけではない。
魔女帽子を被り、タクティカルベストのようにポーションが収められるポーチがついた物の上からレラジェたちと同じ『姿隠し外套』を羽織った女性がいた。女性はティーカップを手に、久隆の方に視線を向ける。
それからもうひとり。ラルと同じくらいの年齢と背丈の少女がいた。少女はノースリーブの白いワンピース姿で、久隆のことを睨んでいる。
「ごめんね。お兄さん。実はお兄さんに言ったことは嘘なんだ。ボクは最初からこのダンジョンにいたんだ。このダンジョンが生まれるもっとも最初から。つまりはそこにいるダンジョンコア君が生まれた瞬間から」
「ダンジョンコア……?」
久隆が部屋の中を見渡す。
「そうだよ。私がダンジョンコアだ」
久隆を睨んでいた少女がそう告げる。
「お前がダンジョンコア……? 予想してたものとかなり違うな……」
「一時的に意思疎通が取れるようにこの形になっているだけだ。仮の姿。本当は性別なんてないし、人間の姿もしていない。だけど、こうじゃないとお前たちとは喋れないからな。仕方なくだ」
「そうか。また難儀だな」
畜生。ダンジョンコアを最初に見たのが少女の姿だったなんて。これからダンジョンコアを破壊しなければならないとしたら精神的な負担は無視できないぞと久隆は思う。
「それで、ラル。そこにいるのは誰だ?」
「彼女は君たちが探している人物。ベリアだ」
「ベリア? こんなところにいたのか?」
どうりで見つからなかったわけである。べリアはこの奇妙な空間にいたのだから。
「初めまして。君が久隆君だね。私のことを探してくれていたとラルから聞いたよ。私ももう少しで100階層に到達しそうだったんだが、こうしてラルに拉致されてしまった」
「よろしく。まあ、こんな状況だが。レヴィアたちは本当にお前のことを心配していたぞ。レヴィアだけじゃない。魔族全員がだ。それなのにどうして上に上らず、下に降り続けたんだ?」
「それが最適解だと思ったからだ。私の魔法と『姿隠しの外套』があれば、ダンジョンコアまで到達できるはずだった。まあ、私も100階層のエリアボスがドラゴンゾンビだと聞かされて、流石に諦めたがね」
ベリアはお手上げだというように肩をすくめてみせた。
「そうだぞ。100階層の番人はドラゴンゾンビだ。お前たちでは絶対に突破できない。そもそも異世界人。お前が関わることじゃない。どうしてお前は魔族たちに肩入れするんだ? お前の利益になっているのか? ダンジョンのもたらす富に目がくらんだか?」
「いいや。俺は元軍人としてするべきことをしているだけだ。いや、人としてするべきことをしているだけだ。困っている人がいたら、助ける。そういうものだろう?」
「クソ! お前のせいで私は殺されかかっているんだぞ!」
ダンジョンコアが叫ぶ。
「ダンジョンは金鉱山。魔族も人間もそう思っている。だがな、私には意志がある。生き残りたいという意志がある。鉱山のように枯渇したら、殺されるなんて運命はごめんだ! 私は生きている! 私は生きているんだ!」
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