92階層突破
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──92階層突破
久隆たちは92階層へと降りる。
降りたと同時にいつもと同じように偵察を実行する。
「リザードマン3体、人狼6体」
「これならリザードマンは付呪なしでいけるかもしれないの」
「そうだな。3体ぐらいならどうにかなりそうだ」
久隆は念のために偵察を実行するため無人地上車両を展開させる。
「人食い植物がいるな。べリアがこれにやられたとは思いたくないが」
人食い植物などの危険な植物類が並ぶのを偵察で見ながら、久隆はリザードマンたちを確認する。確かに3体。ハルバードを手にしたリザードマンがタブレット端末に映し出される。
「リザードマン、視認。他の場所にはいないようだが。3体だけか」
それから久隆は人狼を探す。
「人狼を視認。数6体。武装はなし。まあ、こいつらの牙と爪が武装のようなものだが」
人狼たちは無人地上車両に気づいた様子はない。
「さて、上層と同じ方法で叩くぞ。いいな?」
「了解なの!」
「それからフルフルは身体能力ブーストの付呪をまずかけておいてくれ。防具劣化は今回は大丈夫だ」
「分かりました」
フルフルの負担を少しでも減らしておかなければ、いざという時の頼りはいつだってフルフルなのだ。
「サクラは俺と一緒にリザードマンを片づけるぞ。狙撃で援護を」
「了解」
サクラの援護が受けられるのはありがたい。サクラの援護は必中かつ必殺だ。
「それでは挑むぞ。まずは隠密でリザードマンに接近する」
久隆たちは慎重に食人植物や有害な花粉を吐き出す植物を避けながら進み、目標のリザードマンに向けて着実に前進していく。
「背後を取った。位置的にも人狼は背後から来る。マルコシア、フォルネウス。頼むぞ。連中をリザードマンを片付ける間、遠ざけておいてくれ」
「了解」
マルコシアとフォルネウスが頷く。
「では、3カウントだ」
3秒のカウントが始まる。
3──2──1──。
「今だ」
「『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を!』」
「『降り注げ、氷の槍!』」
奇襲は大成功だった。
リザードマン3体のうち1体は死亡した。
残りに久隆が斬り込む。
リザードマンは応戦しようとしたが動きが鈍い。
そこを久隆が切り伏せ、サクラが狙撃する。首を刎ね飛ばし、頭を射抜き、リザードマンを片づけていく。
「背後! 来ました!」
「すぐにいく!」
背後では恐ろしい速さで肉薄した人狼がマルコシアとフォルネウスと交戦中だった。
今は何とか炎で退けている。
「フルフル、速度低下の付呪だ!」
「『沼に嵌りて、その足に重荷を! 枷を嵌めたまえ!』」
それによって人狼の速度が数段階低下する。
「サクラは援護! フォルネウス、斬り込むぞ!」
「分かりました!」
久隆は突撃し、速度が鈍った人狼の頭に斧を突き立てる。人狼が爪で攻撃しようとしてくるのを蹴りで払いのけ、次の人狼を始末する。
フォルネウスも炎に燃える剣で人狼を貫き、燃やす。他の人狼は炎を恐れて、フォルネウスに近寄ろうとはしない。
サクラは引き続き狙撃で援護する。久隆たちの傍にいる人狼から始末していき、彼らの戦いを後方からサポートする。
人狼との戦いは今までの魔物とは異なる。いや、久隆が戦ってきたいかなる相手とも異なる。海軍時代に、軍学校で習ったような兵科に、人狼と同じと言えるようなものは存在しなかった。
高速で移動し、激しい攻撃を仕掛けてくる。それだけ見ればテクニカルが該当すると言えるだろう。だが、人狼はテクニカルと違ってより小さく、そしてより素早い。
この小ささが戦いのネックになる。小さく、致命的なダメージを与える存在は危険だ。こちらの攻撃は命中しにくいのに、相手の攻撃は命中しやすくなるのだから。
それにダンジョンという限られた空間において小ささは武器だ。狭い廊下を縦横無尽に移動しつつ、攻撃を回避し、反撃に転じてくる。
久隆は一度海軍時代に閉所制圧用の無人機を開発しているという話を聞いたが、それが完成したら、人狼と比べられたかもしれないと思う。
「ラスト」
最後の1体めがけて久隆が斧を振り下ろす。
人狼は倒れ、金貨と宝石を残して消える。
「やったのね、久隆!」
「ああ。全員の連携のおかげだ。特にフルフル。お前には助けられた。礼を言う」
フルフルの速度低下の付呪のおかげで比較的安全に人狼たちを制圧することができた。そのことは確かだ。
「お役に立てたなら幸いです」
フルフルはそう告げて微笑んだ。
「他のみんなもよくやった。勝利だ」
無人地上車両で既に他に敵がいないことは確認している。いるとすれば厄介な食人植物程度のものである。
「食人植物は焼いていった方がいいのか?」
「ものによっては焼却することで有害な物質を放出するということもありますし、これもダンジョンの魔物のうちなので、ある程度倒さずにおけば、再生成が行われない可能性もあります」
「では、残していくか」
食人植物は来ない獲物を待ち構えてずっと佇んでいた。
「さて、ここでひとつ休憩しておこう。それぞれの戦ってみての感想を聞きたい」
久隆はマットを敷いて、そう告げる。
「レヴィアは人狼とは戦ってないのね。人狼はやっぱり強いの?」
「強いですね。炎を恐れますが、炎によるダメージを正確に回避します。魔法をいくら叩き込んでも命中しません」
マルコシアが渋い表情でそう告げる。
「速度低下の付呪があればある程度は戦えます。それがなければ1体倒すだけで精一杯ですよ。フルフルさんには感謝してます」
フォルネウスがフルフルに頭を下げてそう告げる。
「確かに相手は素早いです。私も狙いを定めるのに苦労します。フルフルさんの付呪がなければ簡単には命中しないでしょう。となると、フルフルさんの付呪は必須ですね。しかし、また彼女に戦闘の要所を一手に担わせてしまうというのは……」
サクラは唸るようにそう告げる。
「私は大丈夫です。これぐらいの付呪ならば問題ありません。重ね掛けでもないですし、引き続き付呪で援護させてください」
そんなサクラにフルフルがそう告げる。
「消耗したときは必ず言うんだぞ、フルフル。今回もお前抜きで戦い抜くのは不可能に近い。どうあってもお前の助けが必要だ」
「分かりました。魔量管理を適切に行って、また倒れるなんてことにはならないようにします」
フルフルも自分が倒れるようでは、戦闘は上手くいかないと分かっているようだ。
「それぞれの出来ることやっていこう。そうすれば勝利できる」
この捜索班のバランスはいいし、経験も豊富だ。
それぞれがベストを尽くせば、きっと100階層まで突破できる。
久隆たちはそう信じて、93階層に繋がる階段を見つめた。
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