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サイクロプス討伐祝い

……………………


 ──サイクロプス討伐祝い



 エリアボスであるサイクロプスは撃破された。


 あとは100階層までの道のりを切り開く。


 そこで終わりならばハッピーエンドだ。


 だが、久隆はそこまで楽観的にはなれなかった。きっと問題が生じるという思いがあった。100階層で終わりではないか、あるいは100階層のエリアボスが尋常ではないほど強力か。いずれにせよ、まだ楽観的にはなれない。


 今回のサイクロプス戦も非常に際どい戦いだった。


 久隆がフルフルの付呪の重ね掛けで、強化され、これまでの魔法攻撃で動きが著しく鈍ったサイクロプスの頭を叩き割るという荒業をやらなければ、戦闘は長引き、宮廷魔術師団の中にも倒れるものが出てきただろう。


 そうなっていれば致命的だ。1名の負傷者を助けるのには2名はかかる。そんな人数的な余裕はあの状況ではなかった。


 勝利が得られたのは奇跡のようなものだ。


 今後もこんな奇跡頼りの戦いをしていたら、いつかは破綻する。死傷者が出て、ダンジョンから脱出するのは、ダンジョンを元の世界に戻すのは、いよいよ以て困難になることだろう。


 できる限り、確実な攻略手段を考えなければ。


 限られた人数で、限られた火力で、限られた状況で、確実な勝利を得る。


 それこそが前線指揮官である久隆の役割だ。


 その久隆はダンジョンを抜けて地上に戻ってきた。


「よう。遅かったな。何と戦ってきたんだ?」


 家では朱門が待っていた。


「サイクロプス。ひとつ目玉の巨人」


「わお。また面白そうなことしてるな。どうやって倒したんだ?」


「魔法で弱らせてから、頭を斧で叩き割った」


「そりゃ凄い」


 ひゅーと朱門は口笛を吹く。


「となると、まだレベルが上がったんじゃないか?」


「なあ、このまま人工筋肉が成長していくとして、本当に耐えられるのか?」


「俺にも分からん。こんな事例を担当したのは初めてだ。だが、今のところ、お前の義肢にも、お前の元部下の義肢にも異常はない。異常というのは筋繊維が破断するようなことだ。それは見受けられない」


「つまり、まだ耐えられると?」


「ああ。本格的に不味い状況になるまではまだ余裕がある。まだ人口筋肉は常識の範囲内だ。せいぜい、重装空挺部隊が使用している強化型パワードスーツのそれ程度だ。未知の領域じゃない」


 この世界には重装空挺部隊という兵科が存在する。


 空挺部隊というのは通常軽装だが、重装空挺部隊は違う。対戦車ミサイルを搭載した駆逐戦車やパワードスーツ、装甲兵員輸送車、自走迫撃砲、空挺戦車などで武装した文字通りの重装部隊だ。


 輸送機の大型化と空挺降下手段の多様化によって、このような兵科が生まれた。日本陸軍空挺旅団も重装空挺連隊を保有している。アメリカ軍や空挺部隊に力を入れているロシア軍ほどではないが、それなりの装備が整っている。


 そして強化型パワードスーツは正面は30ミリ機関砲の砲撃に耐えられ、アクティブディフェンスシステムを搭載して対戦車ミサイルや対戦車ロケット弾から身を守り、それに加えて20ミリ機関砲や多目的ロケット弾、対戦車ミサイル、40ミリオートマチックグレネードランチャーを武装として装備している。


 当然ながら、それだけの武装と装甲を抱えた巨人を動かすのには巨力な動力が必要になる。それが人工筋肉だ。特別に遺伝子操作された海洋哺乳類から摘出され、加工された人工筋肉がその動力源に使用されている。


 久隆の今の人工筋肉はその恐ろしいまでの装備と装甲を備えた巨人と同等だった。


「まあ、レベルを上げるなと言っても無理だろうし、いざとなれば別に人工筋肉を移植してやるよ。だから、安心しておけ」


「助かる、朱門」


 こういう時に闇医者がいるのは本当に助かると久隆は思った。


「久隆、久隆。お話は終わったの?」


「ああ。終わった。俺の体はまだ大丈夫だ」


「それはよかったのね! それで、今回もみんなでお祝いをするの!」


「そうだな。何がいい?」


「焼肉!」


「飽きないか?」


「飽きないの!」


 久隆も肉が食いたかったのでレヴィアに同意することにした。


「じゃあ、予約を取るから、ゲームでもして待ってろ」


「はーい!」


 レヴィアはゲームをしに、リビングに向かった。


「さて、と」


 久隆は焼肉屋に電話をかけて予約を取ると、その時間帯まで時間をつぶすことにした。時刻はまだ昼頃。暑い夏の日差しが差し込んできている。


「サクラ。ちょっと聞きたいことがあるんだが」


「なんですか?」


「どうして俺だったんだ?」


 そう、サクラはどうしてプロポーズの相手に久隆を選んだのか。


 それがずっと久隆の中では謎であった。


「久隆さんが魅力的な男性だから、では納得してくれないのですか?」


「俺以外にも若くて、魅力的な奴はいただろう?」


 久隆はそう返す。


「そうですね。確かにそうです。ですが、私が自分の命を任せられたのは久隆さんだけです。そこまで信頼できたのは久隆さんだけです。他の誰でもなく、久隆さんを信頼したんです。だから、今もあなたを信頼しています。今のあなたも頼れる人です」


 サクラははにかむように微笑んでそう告げた。


「軍隊の日常と退役軍人の日常は違うぞ?」


「同じですよ。銃弾と爆発がなくなっただけで、やはり信頼のおける人でないと。これからお互いを頼りにできるような、そんな人ではないと」


 そう言ってサクラははにかむように笑った。


「俺はそんなに信頼できるか……?」


「ええ。とても。レヴィアちゃんたちへの対応を見てもそう言えます」


「そうか」


 久隆は自分で自分のことが信頼できなくなるというのにと久隆は思う。


 レヴィアたちを巻き込んだのは間違いじゃないか。本当に自分は魔族たちを元の世界に帰せるのだろうか。朱門は何の問題も起こさないだろうか。


 疑問に思うことはたくさんある。


 それでもサクラは自分を信頼してくれている。


「その信頼には応えないといけないな」


「はりきっていきましょう。そして、全てが終わったら……」


 サクラが微笑む。本当に美人だと久隆は思った。


 彼女とならば、一緒にやっていけるかもしれない。少なくとも自分が戦争で体験したことの理解者にはなってくれる。


「ああ。そうだな。全てが終わったら」


 それから時間になり、久隆たちは焼肉屋に向かった。


 いつものように食べ盛りの若者たちががつがつと肉や野菜、魚を食べるのを久隆は肉を焼きながら眺めていた。


 いつか、全てが終わったら。


 この楽しい連中も元の世界に帰る。それが正しいことなのだ。


 だが、久隆は心どこかでは望んでいた。


 この愉快で、ともに苦楽を経験してきた連中と離れたくないと。


 それがわがままだということは分かっている。


 それでも久隆はもう少し今のような時間を過ごしたかった。


 孤独さが紛れるから。


……………………

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