サイクロプス戦
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──サイクロプス戦
いよいよサイクロプスに挑む時がやってきた。
89階層に作戦に参加する魔族たちが集まる。
「近衛騎士は囮だ。相手を友軍魔法使いに近づけるな。サクラがなんとかして目を潰すので、囮の役割は音を立てて移動することになるだろう」
「了解!」
近衛騎士たちは囮という役割を快く引き受けてくれた。
彼らもそうしなければこの階層を突破できないという結論に至ったのだろう。
「宮廷魔術師団は付呪のかけられるものは友軍に魔法攻撃上昇の付呪をかける。魔法攻撃こそがこの作戦の要だ。しっかりとやってくれ」
「分かりました!」
宮廷魔術師団の士気は高い。彼らは活躍の機会を待っていたに違いない。
「では、近衛騎士団から先に降りる。慎重に降りてくれ。降りている途中で戦闘に巻き込まれたくはない」
久隆はそう告げてサクラに宮廷魔術師団の誘導を任せ、自分は近衛騎士団を率いて90階層を下っていった。
90階層で重々しい足音が聞こえてくるのに、近衛騎士団に緊張が走る。
だが、指揮官である久隆が恐怖を感じさせないため、緊張こそすれど、恐怖で立ち止まれなくなることはなかった。
「こちら久隆。近衛騎士団は位置についた」
『こちらサクラ。了解。これより宮廷魔術師団を展開させます』
久隆たちがいつでも囮になれる位置に立ったことを確認して、サクラが宮廷魔術師団を連れて階段を降りてくる。宮廷魔術師団の展開までもう少しだ。
サイクロプスのシルエットがうっすらと見える。この広い階層の中で棍棒を手にしてうろついている。まだこちらに気づいた様子はない。
『こちらサクラ。宮廷魔術師団の展開完了』
「よろしい。では、サクラ。始めてくれ」
『了解』
サクラが単身で狙撃に向かう。
サクラは狙撃位置に就くと、無線機を2回鳴らして合図してきた。
久隆もそれに2回鳴らして返事する。
サクラのコンパウンドボウから矢が放たれ、その強力な威力の矢がサイクロプスの眼球を貫いた。
雄叫びが響き渡る。
「近衛騎士団! 囮作戦を開始するぞ!」
「了解!」
視覚を潰され、聴覚と嗅覚のみが索敵手段になったサイクロプスに近衛騎士団が盾など剣や槍などで叩いて、大きな音をだし、誘導する。
サイクロプスはすぐに誘導に乗り、近衛騎士団を追い回す。
「『賢きものよ、より多くの叡智を極め、力を得よ。賢者に力を!』」
その間にフルフルたちが宮廷魔術師団に付呪をかける。
魔法攻撃が降り注いだのは次の瞬間だった。
氷の嵐が吹き荒れ、石の槍が地面から突き出し、爆炎がサイクロプスを襲う。
並みの魔物ならばこの一撃で倒れるところだが、そこは流石にエリアボス。そう簡単には倒れない。近衛騎士団を追い回しながら棍棒を振り回し続ける。
そして、再び魔法攻撃が炸裂する。
魔法攻撃はサイクロプスを覆い隠したが、そこから再び姿を見せたサイクロプスはあまりダメージを負っているようには見えない。少しばかり動きが鈍くなった程度であり、今も近衛騎士団を追い回している。
そして、3回目の魔法攻撃。
やはりサイクロプスは致命的なダメージは受けない。
魔法攻撃は5回まで繰り返されたが、サイクロプスは健在だった。
「レヴィア。そっちの消耗は大丈夫か?」
『まだまだいけるのね!』
「頼むぞ」
致命的なダメージこそなけれど、サイクロプスの動きはどんどん鈍っていっている。このまま撃ち続ければ、いつかは倒れるはずだ。
そして、6回目の魔法攻撃。
「まだ耐えるか」
サイクロプスに確実にダメージは入っている。だが、なかなか倒れない。
このまま攻撃を続けて、倒れるのを待つか?
それまで宮廷魔術師団は消耗に耐えられるか?
何か手を打たなければ、このままでは勝利できない。
そして、7回目の魔法攻撃。
サイクロプスはじわじわとダメージを負っているが、未だに近衛騎士団を追い回している。久隆はもはや他に手はないと判断とした。
「サクラ。狙撃で牽制しつつ、螺旋階段までサイクロプスを誘導してくれ」
『了解。ですが、何をするつもりなんですか?』
「致命傷を負わせる」
久隆はそう告げて宮廷魔術師団の展開している螺旋階段傍まで走る。
「レヴィアたちは急いでここから離れろ。フルフルは俺に付呪を。できれば重ね掛けで頼む。できるか?」
「できます」
「頼む」
久隆がそう告げてフルフルの方を向く。
「『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を!』『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士にさらなる力を!』」
久しぶりのフルフルの付呪の重ね掛けだ。体内で暴力衝動が暴れまわる。
「じゃあ、急いでここから退避しろ。直にこっちにサイクロプスが向かってくる」
「了解なの!」
サイクロプスの足音が響いてくる。
久隆は大急ぎで螺旋階段を上る。だが、彼は戦いから逃げようとしているわけではない。彼は強力な一撃をサイクロプスに叩き込むつもりなのだ。
『こちらサクラ。間もなく誘導完了』
「よし。こっちの準備は万端だ」
久隆はしっかりと斧を握りしめる。
そして、サイクロプスが螺旋階段の前に姿を見せた。
次の瞬間、久隆は空を飛んだ。
そう、螺旋階段から飛び降りたのだ。
斧をサイクロプスの頭に狙いを定めて。
斧を持った久隆が勢いよく飛び降りてくるのにサイクロプスは気づかず、暴れ続ける。だが、もはや命運が決まった。
久隆の斧がサイクロプスの頭に叩き込まれ、サイクロプスは悲鳴を上げて倒れた。
大量の金貨と宝石が現れ、サイクロプスの死体は消える。
「……やったな」
久隆はただそう述べた。
遅れて歓声が響き渡る。
「やったぞ! サイクロプスを倒した!」
「俺たちが勝利したんだ!」
魔族たちは喜び、歌う。故郷の歌を。
そう、90階層まで来たのだ。100階層は目前。超深度ダンジョンでも100階層までくればゴールは見え始める。そのはずであった。
「負傷者などは!?」
久隆が喜ぶ魔族たちに向けて尋ねる。
「いません! 久隆様の見事な指揮のおかげです」
「それならいいが。宮廷魔術師団の消耗具合は大丈夫なのか?」
久隆はレヴィアたちに向けて尋ねる。
「みんなちょっと疲れているのね。けど、倒れるまでではないの!」
「そうか。よし、じゃあ、凱旋だ。80階層に行って、アガレスに勝利を伝えよう」
「おー!」
久隆たちは80階層に凱旋する。
一部の魔族はそのまま90階層に留まった。彼らは拠点を整備するという仕事がある。
80階層ではアガレスたちが待っていた。
「久隆殿! どうであった?」
「サイクロプスは排除した。100階層までこれで潜れるはずだ」
「おお……。ついに、ついにか……」
アガレスは喜びのあまり言葉を失ってしまった。
「100階層で終わりだといいんだが」
「ああ。そうであることを祈りたい。我々は長く戦ってきた。そろそろ終わりを見せてもらってもいいはずだ。神はそこまで残忍ではないと祈りたい」
だか、久隆は最悪を想定する。
100階層を越えるダンジョン。自分たちはまだ折り返し地点に入っただけではないのかという可能性。久隆は最悪を想定し、備える。
「では、まずは偵察を頼む。何が待ち受けているかを知りたい」
「分かった。レラジェたちに命じておこう」
久隆たちにとってレラジェの情報は命綱だ、それがなければまともには動けない。一度、偵察なしで突っ込んで痛い目を見た久隆たちは分かっている。
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