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88階層から90階層へ

……………………


 ──88階層から90階層へ



 久隆は88階層に降りると同時に索敵を始める。


「リザードマン16体。8体の群れがふたつずつ」


「数、減りましたね」


「ああ。奇妙な話だが」


 そこで久隆は考えた。


 ダンジョン側も配られたカードで勝負しているのではないかと。


 ダンジョンが全てモンスターハウスにならないのは、そうするだけのカードがないから。エリアボス前の階層のモンスター数が少ないのは、油断させれるためではなく、単にカードが足りないから。


 本当にダンジョンのカードが無制限ならば、全ての階層をモンスターハウスにしてしまえばいいし、エリアボス前に強力な魔物を集め、エリアボス前に探索者の体力を極限まで削っておけばいい。


 そう考えると下層にいくほど抵抗が激しくなるのは、一種の縦深防御だ。これまでの階層の魔物で疲弊させ、疲弊しきったところに強力な魔物をぶつける。防衛線はただの線ではなく、深い縦深を持っているというわけだ。


 ダンジョンに知性があるとしたらそうするだろう。


 ただ単に上層でレベルを上げて、下層に挑もうというゲーム設計者の観点からダンジョンは作られないはずだ。ダンジョンの攻略にはダンジョンコアがかかっている。ダンジョンコアはダンジョンの命のようなものだと久隆は認識している。


 それが奪われるか否かというときにゲームのように難易度を徐々に上げていくサービスなどしないだろう。やはり、ダンジョンは探索者を殺そうとするはずだ。


 これから先、どのような罠が待ち受けているか分からないなと久隆は思う反面、ダンジョンも無尽蔵に魔物を生み出せるわけではないと知って安堵した。


 しかし、ダンジョンはひとつの間違いを犯している。


 それは縦深防御となった陣地を攻略するためには浸透戦術などが必要になるが、ダンジョンの場合は一度一度状況を立て直してから挑めるという点だ。


 ダンジョンは少人数かつ、後方支援のない探索者を想定したようだが、久隆たちには病院も兵糧も衛生も、様々な後方支援がついている。


 ダンジョンにとってはじわじわと敗北に向かって進むだけだ。


 強力な打撃力を以てして、久隆たちの歩みを止めなければ、ダンジョンは敗北し、ダンジョンコアを奪われる。レヴィアたちにとっては朗報だ。ベリアと生きて合流できれば、そのままダンジョンコアを制御して元の世界に帰ることができる。


 だが、ダンジョンにとっては終わりを意味する。


 ダンジョンという名の魔物にもそろそろトドメを刺さなければなるまい。


「まずは偵察だ」


 無人地上車両(UGV)が走行して映像を送ってくる。


「リザードマン7体、リザードシャーマン1体。武器はハルバードと盾」


 盾はやはりこれまのラウンドシールドではなく、長方形の盾だ。


「もうひとつの群れも同様。これはいけるか」


 群れはふたつ。数はさほど多くはない。


 モンスターハウスを経験したあとの久隆たちにとっては容易な目標のように思われた。事実、この階層は脆弱だった。


 久隆たちは相手をしっかりと確認してから勝負に挑む。


 まずは隠密。それからリザードシャーマンの狙撃。正面切っての戦い。


 ハルバードというリーチの長い武器と重装歩兵の盾で武装したリザードマンは面倒だったが、倒せない相手ではなかった。久隆は盾ごとリザードマンを蹴り飛ばし、生じた隙に斧を振り下ろす。


 だが、やはり一番有効だったのはレヴィアの魔法だ。


 纏めて3、4体を仕留められるレヴィアの氷の槍は絶大な威力を発揮した。


 戦闘は15分ほど行われ、それで終結した。


「確認した。この階層にはもうリザードマンはいない」


「やったのね!」


「ああ。やったな」


 久隆たちは勝利を味わう。


 それからそれぞれの体力を再チェックし、89階層へと潜る。


 89階層にいたのはたった4体のリザードマンだけだった。リザードシャーマンもいない。このことはやはりダンジョンには配られたカードがあると考える久隆の考えを補足するものだった。


 当然ながら60体のリザードマンを相手に勝利できる久隆たちが4体のリザードマンで歩みを止めるはずもなく、久隆たちはあっという間に89階層を制圧。


 いよいよ90階層が射程に収まった。


 90階層にはサイクロプスがいる。巨人だというが、これまでの装備で戦える相手なのか、それとも装備を整えなおさなくてはならないのか。


 それを確かめに90階層に久隆とサクラが潜ることになった。


「久隆、久隆。大丈夫なの?」


「見てくるだけだ。戦わない。だから、安心して待っていてくれ」


 久隆はそう告げて90階層への入り口を見る。


「サクラ、行くぞ」


「はい。久隆さん」


 90階層の構造はグリフォンとヒポグリフやワイバーンが出没した部屋にやや似ていた。天井こそそこまで高くないものの、螺旋階段があり、そこを下って降りていく。


 部屋は薄暗く、サイクロプスのものと思われる足音がするが、姿ははっきりと見えない。久隆は螺旋階段のところで潜み、状況を判断する。


「サクラ、どう思う?」


「また発炎筒の出番ですかね」


 薄暗くて姿が見えにくいのでは、まずはその姿を映し出す必要があった。


「姿が見えればいいのだが」


「ライトを使いますか?」


「じっくりと観察したい」


 久隆はサイクロプスの足音が階段の方に近づいてくるのを待った。


 そして、サイクロプスの足音がゆっくりと階段に近づいてくる。


「見えるぞ」


 久隆がそう告げてサクラがサイクロプスの姿を見る。


 偵察部隊の報告通り8メートルの巨体。一つ目だが、眼球はそこまで大きくはない。通常の目より若干大きな程度である。ということは、相手の視力には問題があるということになる。奥行きのある空間を把握したりするのは苦手だろう。


 だが、問題はどうやって倒すかだ。


 ここでは久隆とフォルネウスは役立たずだ。彼らも8メートルもある巨人を相手にはできない。囮ぐらいにはなれるだろうが、そこまでだ。


 打撃はレヴィア、マルコシア、サクラに任せなければなるまい。フルフルの付呪は魔法攻撃強化のそれだ。


 頭部を狙うのが確実だと思われる。サクラの狙撃で眼球を潰し、レヴィアたちの魔法で畳む。魔法の集中砲火で撃退するしかない。


 相手はデカい。撃てば当たる。それがいい点だ。


 悪い点は相手がデカい分、移動速度も速いということ。


 やはり、久隆たちが囮にならなければ、レヴィアたちを守るのは難しいだろう。


 サクラが早期に相手の視界を潰したら、後は音で反応するはずだ。久隆たちが音を立てながら、逃げ回れば相手は翻弄される。


「これぐらいでいいだろう。引き上げよう」


「了解」


 久隆たちは89階層に戻っていく。


……………………

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