行動計画
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──行動計画
「リザードマン18体。ふたつの群れに分かれている」
久隆は82階層に降りると同時に索敵を行う。
「近い方の群れからやりますか?」
「そうするのがセオリーだろうな。まずは偵察だ」
久隆はそう告げて無人地上車両を展開する。
無人地上車両はダンジョン内を駆け抜けていき、目標のリザードマンの群れを発見した。8体の鎧リザードマンとリザードシャーマンがいる。
それから無人地上車両はさらに進み、離れた方の群れを探る。
リザードマンが9体。リザードシャーマンはいない。
「朗報だ。今回はやりやすいかもしれないぞ」
「そうなの?」
「ああ。リザードシャーマンは1体。リザードシャーマンがいる群れを潰したら、次の群れに移る。その時点で隠密は必要ない」
両方の群れにリザードシャーマンがいた場合、片方を完全な隠密で始末してから、もう片方に移らなければいけなかった。それはかなりタイトな作戦だ。成功する見込みは限りなく低い。別の手を考えなければいけないレベルだった。
だが、久隆たちにとっては都合のいいことに、18体のリザードマンの群れにおいて、リザードシャーマンは1体。群れの中に1体がいるのみである。それさえ片付ければ、後は普通のリザードマン戦のように戦えばいい。
それも今回はリザードシャーマンについている護衛は8体のみ。上層よりやりやすい。
「リザードシャーマンから叩く。先導するのでついて来てくれ」
久隆は打撃チームを率いて進む。別ルートからサクラの支援チームが進む。
静かに、だが確実に久隆たちは目標に迫る。
支援チームが辿っているルートも分かっている。上層で打ち合わせておいたからだ。戦闘計画は念入りに作られている。
このルートを進んだ場合の支援チームのルートはこう。何十通りもあるパターンを考え、行動している。
打撃チームが早く着きすぎていけないし、支援チームが早く着きすぎてもいけない。軍隊では時間厳守というのは、僅かに1分の誤差で、作戦が失敗する可能性があるからだ。敵の動きに対して同時に行動しなければならないときに1分でもずれると、作戦全体がパーになることがある。
もちろん、その場合の予備計画も準備されてるが、最初の有力な作戦が潰れた場合のリカバーには苦労するものである。
久隆とサクラは海軍時代のようにお互いの速度を考慮しながら、一定の速度で目標に進み続ける。
「見えた。打撃チームより支援チーム。目標を確認」
『こちらも目標を確認』
「護衛を引きはがす。適度なタイミングでの狙撃を」
『了解』
ここまでくれば上層と同じだ。
久隆ははぐれたリザードマンを1体ずつ仕留めていき、サクラが狙撃する瞬間を待つ。
石などを使って注意を引き、リザードマンたちを誘い出し、殺す。
確実に、着実に。リザードマンたちの注意を久隆たちの方向に向ける。
『狙撃可能』
「やれ」
そして、サクラがリザードシャーマンを狙撃した。
「よし。纏めて始末するぞ。いくぞ、レヴィア、フルフル!」
「了解なの!」
久隆たちは隠密を止め、真正面からリザードマンたちに挑む。
「『我が敵の守りを蝕み、錆びつかせよ!』」
「『降り注げ、氷の槍!』」
フルフルが付呪をかけ、レヴィアが魔法を叩き込む。
残っていたリザードマンたちは纏めてレヴィアの魔法を受けた。
そして、敵が傷ついたところに久隆が斬り込む。
斧を振り上げ、リザードマンの首を刎ね飛ばす。兜ごと頭を叩き割る。
「支援チーム、合流しました!」
「来たな。もうひとつの群れを殲滅するぞ」
全てが計画通りに進んでいる。
このまま群れを殲滅することは可能だろう。
久隆たちはリザードマンへの正面攻撃で侵入者に気づいたもうひとつのリザードマンの群れを迎え撃つ。
リザードマンたちの武装はハルバード。
久隆たちはフルフルが付呪をかけ、レヴィアとマルコシアが魔法を叩き込むいつものセオリー通りに攻撃を加え、それからフォルネウスと久隆が斬り込む。
既に戦闘に慣れていた久隆たちは9体のリザードマンを殲滅するなど大した問題ではなかった。あっという間に9体のリザードマンを屠り、階層を完全に制圧した。
「今回は上手くいったな」
「いつも上手くいってるのね」
「これからが問題だ」
既に敵は群れを分散させるという手段に出ている。
リザードシャーマンが2体、3体の場合、久隆たちは行動計画を根本から見直さなくてはならない。打撃チームより支援チームという役割を取りやめ、サクラとフォルネウスだけの狙撃チームを作り、隠密でリザードシャーマンを狙撃して即座に離脱する。狙撃に失敗した場合、他のリザードマンの群れも侵入者に気づくだろう。その場合は、残るメンバーで正面から戦うしかない。
フルフルは対抗魔法を相手にかけ、リザードマンの付呪を封じ、久隆が前線を支え、レヴィアとマルコシアま魔法で可能な限り敵に打撃を与える。
フルフルがリキャスト可能になったら防具劣化の付呪をかけ、残る敵を久隆が殲滅する。最悪の場合はフルフルの付呪なしで久隆が敵に挑む。
レヴィアの冷気を発生させる魔法で敵の動きを鈍らせるという選択肢もあった。場合に応じて攻撃か、それとも支援かを使い分けなくてはならないだろう。
いずれにせよ、タイトな作戦になる。
群れが増え、リザードシャーマンが増えた場合、より綿密な作戦計画を立てなければなるまい。そうしなければ、本当に最悪の状態が訪れる。
「サクラ、フォルネウス。念のためにふたりだけで行動することも考えておいてくれ。リザードシャーマンの数が増えると面倒なことになる」
「了解」
サクラはすぐに久隆の意図を読み取った。
「マルコシアはこちらに加わってくれ。いざという場合に火力が多い方がいい」
「分かりました」
マルコシアは久隆の指揮下に入る。
「さて、問題は次の階層だ。恐らくはこれまでの傾向からしてリザードシャーマンの数は増えているはずだ。上手くやらなければならないな……」
久隆はそう告げて83階層に続く階段をじっと見つめた。
「久隆、進むの」
「ああ。そうだな。進もう。疲労は大丈夫か?」
久隆は全員に問いかける。
「今のところは大丈夫です」
「まだまだやれます!」
フルフルとマルコシアが揃ってそう告げる。
「分かった。では、進もう」
モンスターハウスは86階層。それまでに一度付呪を受けたリザードマンの脅威がどの程度のものなのかを知っておきたいという気持ちもあった。威力偵察を行うことも考えたが、今はとにかく前に進むしかないということは分っている。
「出たとこ勝負ってのはぞっとするな」
久隆はそう告げて階段を下った。
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