部隊運用のコスト
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──部隊運用のコスト
休暇中の場合、同じ特別陸戦隊でも別の分隊が派遣されるようなケースは当然ある。戦地では特殊作戦部隊が必要だ。だが、それが休暇中であるというのならば、別の部隊を派遣する。当然の選択だ。
ある意味では特殊作戦部隊は過保護な状況に置かれていた。それぞれにメンタルケアは任務がない場合週1回でおこなわれていたし、健康診断も頻繁に受けた。カウンセリングは本人が望むのであれば、上官にも話せない話を聞いてもらうことができた。
それもそうだろう。特殊作戦部隊を育成するのには時間と金がかかっている。訓練に使う銃弾の数は他の部隊の比にもならないし、訓練期間も他の部隊とは比べ物にならない時間を費やしている。
地上での任務から空挺降下。そして水中での任務。あらゆる任務ができなければ、日本海軍特別陸戦隊は務まらない。そして、そのあらゆる任務に応じられるようになるまでには、ひたすら訓練するしかない。
訓練。訓練。訓練。
訓練にも金がかかるし、こんなにつらい訓練には耐えられないと出ていくものたちもいる。人的リソースが限られた日本国において、軍人になり、危険な特殊作戦部隊にまで志願してくれる人間は貴重だ。
だから、特殊作戦部隊の隊員の価値は高い。自然とそうなるのだ。
久隆も様々な高度な訓練を受け、入隊試験に合格したのちも、訓練続きの日々を過ごした。可能な限り実戦に近い環境で訓練を行うという都合上、拡張現実もフルに使われた。出没する敵はリアルな人間の姿をしており、それを射殺することでいざという時に引き金を引けるように訓練される。
戦車や装甲車も登場する。こちらは現物が使用されている。
戦車を撃破するか、やり過ごすかは指揮官の判断次第だ。
ここで話したいのは訓練をどのように耐え抜くかではなく、訓練にどれほどの資金が必要となるかである。
拡張現実による訓練システムの開発費用。訓練に参加する装甲車の整備・燃料費用。訓練に使用するレーザー交戦装置の維持費。そういうものが積み重ねっていき、膨大な額の費用が出ていく。
特殊作戦部隊は訓練の頻度も多く、対抗部隊もそれに応じて動くので年間の特殊作戦部隊の戦力を維持するための費用はとても高いものになる。
また、特殊作戦部隊は戦闘ができればいいというわけではない。
現地の民間人や友好的な民兵を味方に付けるのに現地の言葉か中国語を話せるようになるのは最低限の必須項目で、他にも様々な言語の教育を受ける。加えて、心理学についても詳しくなくてはならない。
そのように特殊作戦部隊の任務が増えれば増えるほど、その戦力を維持するための資金は増え続け、海軍にとって大きな負担となりつつあった。
それでも海軍が特殊作戦部隊を抱えているのは、独自の陸戦戦力があった方が、揚陸作戦の際などに艦艇を危険にさらす可能性が減るからだ。
アジアの戦争では揚陸作戦の際の意志疎通の乱れでスムーズにことは運ばなかった。その反省点から海軍は元からあった特殊作戦部隊を拡大して特別陸戦隊に再編成したのだ。2045年になっても陸軍、海軍の中の悪さは続いてるということである。
維持費の問題。この手の問題は特に特殊作戦部隊に顕著だが、一般部隊の維持費が軽いかと言われるとそうではない。陸海空情報軍の日本国防四軍は末端の兵士であろうとも、その命を助けようと手を尽くす。
この少子高齢化の時代において軍に入る人間は少なく、その上兵士の専門性も上昇の一報を続けているからである。ただ、敵に向けてライフルが撃てればいいわけではない。対戦車ミサイルやドローンを扱う兵士にはエンジニアとしての素質も必要となる。
単純な歩兵というものは先進国においては絶滅したと言っていいかもしれない。どの歩兵も何かしらの技能を有しており、それを使える戦場に投入される。そして、その手の技能というのは軍隊で養われるものなのだ。
そして、イポスたちも同じだ。
今はかけがえのない戦力である。民間軍事企業を雇えず、秘密裏に作戦を進めなければいけない以上、彼らの戦力はとても貴重だ。剣術という銃器によらない戦闘技能を身に付けている騎士たちも、超常の力である魔法を使う宮廷魔術師たちも、どちらも欠かすことのできない戦力だ。
だから、久隆は彼らに費用を投じることに不満はないし、彼らの負担が可能な限り減るように手配することも当然だと思っている。
彼らは代わりの効かない特殊作戦部隊の隊員よりも高度な戦力なのだ。それを風呂に入れたり、家でリラックスしてもらうだけで適切なコンディションが保てるならば安いものである。
「イポス。ダンジョン内の問題は俺たち全員の問題だ。少しずつ解決していこう」
「そう言っていただけるとありがたい限りです……」
イポスは祈るように久隆を見た。
「上層まで上がってきた部隊には休暇を取らせよう。健康診断も必要だろう。風呂に入り、太陽の光を浴び、美味しいものを食べて、ベストコンディションでダンジョンでの戦いに再び挑んでもらえれば幸いだ」
彼らには戦ってもらわなければならない。
援軍はいないのだ。彼らが戦い続けるしかないのだ。
そんな中でひと時の安らぎが得られるならば、久隆は喜んで手を貸す。
「そう伝えておきます。皆が戦えるように、と」
「頼む。未だに俺のことを信頼していない魔族はいるのか?」
「いいえ。まさか。誰もが久隆様のことを恩人だと思っていますよ」
「恩人というのはあれだが、信頼してくれているのならば助かる」
共同作戦の要は相互理解と信頼だ。
相互理解は演習で育む。信頼は外交による交流によって育む。
久隆は外交官ではないので、外交の何たるかを知っているわけではない。ただ、彼は外交的に問題のない国家間の共同作戦は上手くいくことを知っている。逆にそうではない国家とはなかなか上手くいかないということも。
軍人同士で信頼を得ることもできる。だが、軍人のやれることには限界がある。だから、外交官の仕事があるのだ。外交官は国家間の歯車に信頼という油を差し、相互が円滑に動ける環境を整える。
ときとして軍人もそれに参加する。特に海軍の艦艇は解放することで、陸軍の駐屯地祭りと同等に近い効果が得られる。
自分たちにはあなた方に隠すことはない。そう示すことで、信頼を得るのだ。
アジアの戦争からかなり経ったが、関係国との関係は修復されつつある。未だに不満と不信がくすぶるところもあるものの、アジア全体でもう国家同士の衝突はごめんだという考えが広まっていた。
外交官たちの努力もあり、再びアジアに平和が訪れていた。
外交官にとってもどうにもならない軍閥や民兵、海賊を除いて。
魔族とも相互理解と信頼を得ていかなければならない。久隆は外交官ではないが、外交官のような役割を果たさなければならない。
このふたつを得ておかなければ勝利は遠くなるのだから。
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