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ダンジョン内の様々な事情

……………………


 ──ダンジョン内の様々な事情



 久隆たちは家に帰ると溶け切ってしまう前にアイスクリームを冷凍庫に入れ、それから各種食材を保存しておいた。まだ時刻は昼だ。昼飯は昼飯で弁当を買ってきている。


「おーい。昼飯だ。集まってくれ」


 と言いつつも、集まったら集まったでダイニングテーブルの数が足りないなと思う。


「お帰りなさい、久隆様」


「おう。イポス。すっきりできたか?」


「ええ。とても! ダンジョン内は比較的低温で湿度も高くないとはいえ、探索をしていれば汗は掻きますからね。久隆様の家のお風呂ですっきりさせてもらいました。髪の毛も洗えて満足してます」


「それはよかった。風呂というのも重要だからな。衛生環境を保たないと、病気の原因にもなりかねない」


 だから、陸軍は仮設の風呂という装備を持っているのだ。


 衛生環境の悪化は精神状態の悪化を招くし、病気の原因ともなる。皮膚病から別の病気が起きるということもあり得る。そこら辺のことは朱門が専門だ。


 風呂は風呂でも衛生的な風呂でなくてはならないというところも大切だ。


 不特定多数の人間が入る風呂というのは様々な病原菌が持ち込まれることを意味する。陸軍は風呂を設営するだけでなく、風呂の衛生管理も行っている。あれはあれで専門的な知識が必要とされる分野なのだ。


 たかが風呂、されど風呂。


 兵士と被災した民間人の衛生を保つためにはたゆまぬ努力が必要とされている。


 久隆もイポスたちが入った後の風呂は一度掃除してからお湯を入れ替えるつもりである。最近は風呂も自動掃除機能があるのでボタンひとつで綺麗になる。


「飯にしよう。好きな弁当を選んでくれ」


 久隆はイポスたちの趣味が分からなかったので適当な惣菜と弁当を買ってきていた。マルコシアが言うには野菜の多い食事が好まれるそうなので、なるべく野菜の多いものを選んできたつもりだ。


「いただきます」


 いただきますと聞こえるのは翻訳魔法が食前の言葉を意訳しているからだろうと久隆は思っている。魔族には、ヴェンディダードには独自の食事の前に言葉があるはずだ。


「災害非常食をいつも渡しているがあれは食ってて飽きないか?」


「そんなことは全然。今は食事があるだけありがたいです。補給が途絶えたときの苦労を皆が知っていますから。それにあれは温かくしていただけるので、とても美味しいですよ。ご飯というのは最初のうちは戸惑いましたけど、なかなか美味しいものですし」


「ヴェンディダードにも米食の文化はあるんだよな?」


「ええ。南方の出身者は喜んでいました。中央の出身者や西方の出身者はパンやパスタを恋しがっていましたが、それでも美味しいものは美味しいです」


「パンとパスタか。手に入らないか工夫してみよう」


「そんな。我々のわがままで久隆様のお手を煩わせては」


「食事というのは文化だからな。文化は尊重すべきだ」


 とは言え、パンもパスタも種類が多くある。パンの種類だけでも欧州のパンのみで相当な種類があると言っていい。どのパンが受けるのか分からない。


 だが、普通のパンでも久しぶりに食べるならば、納得してくれるだろうと久隆は楽観的に考えていた。どの道、気分の入れ替え程度のものでパンやパスタを長期的な補給を行うわけではないのだから。


「ダンジョン内の水はどうなっている? ペットボトルの水だけで足りているか?」


「はい。今は魔力回復ポーションも支給されているので、それを使って水系統の魔法が使えるものも飲み水などを提供しています。ただ、やはり魔力回復ポーションがいつ、どれだけ必要になるか分からない以上、無駄遣いはできないので、水浴びなどは行えませんが……」


「ううむ。そこは衛生グッズで我慢してもらうしかないな」


 これからどんどんと風呂のために魔族たちをダンジョンから引き上げてもいいのだが、そうするとダンジョン内の戦力が不足する恐れもあった。


 少人数ならば久隆も受け入れられるので、これからは補給などに来た魔族に風呂に入って帰ってもらうということも考えようと思う久隆だった。


 久隆も何日も風呂に入れないときの苦痛は分かっている。サバイバル訓練でも実戦でも、泥の中に浸かって、何日も敵を待ち続けることがあったのだ。


「他にダンジョンで困っていることは?」


「やはり太陽の光を浴びられないことでしょうか。体調を崩すものもいます」


「その問題は継続中か……。こちらとしても受け入れられる人材を滞在させることぐらいしかできない」


「だ、大丈夫ですよ? ただ、ダンジョン内ではそういう問題があるというだけで、それを解決してもらいたいなとどいう厚かましいことは……」


「だが、問題なんだろう。少しずつ調整してどうにかしないとな」


 イポスが慌てて言うのに、久隆がそう返す。


「久隆様は人が良すぎです。我々のわがままをいちいち聞いていたら、大変なことになってしまいますよ」


「それでもダンジョン内の魔族たちには可能な限り、万全のコンディションでいてほしいからな。これには俺たちの命もかかっている」


 そう、イポスたちダンジョン内の魔族のコンディションは久隆たちの生死にかかわることなのだ。


 イポスたちは久隆たちにとって必要な後方連絡線を確保しておいてくれる。後方連絡線は撤退する場合においても、補給を受けることでも、重要になってくる。


 つまるところが、イポスたちは久隆たちの命綱なのだ。


 命綱の状態を確認し、しっかりと整備するのは、それを使うものにとって当り前のことである。久隆もそういう観点から、しっかりと命綱であるイポスたちのコンディションに気を配っていた。


 それに何より、久隆はお人よしなのだ。


 本人は否定するだろうが、久隆はお人よしだ。そうでなければまずレヴィアたちに関わるという危険なことを避けていたし、レヴィアたちのために闇医者である朱門を呼び寄せようともしなかっただろう。


 そんな久隆だからこそ、ダンジョン内の状況を気にし、できることをしようとしているのである。久隆はできる限りの援助をしておきたかった。彼らが命綱であるからという理由のみならず、彼らが人間とほとんど変わらない生き物であるために。


 いや、久隆ならば見た目が人間に近くなくとも、コミュニケーションが取れなくとも、相手に悪意がない限り協力していただろう。


「さあ、弁当が温かいうちに食ってしまおう。ダンジョン内の問題はそれからよく考える。そちらでも戦力不足にならない範囲で抽出できる兵力を考えておいてくれ。兵士にも休暇は必要だ」


 たとえ泥の中に3、4日ずっと目標を待ち続けていても、一度任務を終えれば、後方で休暇が取れるのは特殊作戦部隊でもそうだった。休みなく戦い続けるということは少ない。日本を模した基地で休暇を取り、リフレッシュしたら次の任務ということだった。


 上の人間も分かっているのだ。いくら優秀でも特殊作戦部隊員も人間であるということが。そして、人間にはナノマシンを叩き込んでいても越えられないラインがあるということも。


……………………

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