素敵なディナータイム
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──素敵なディナータイム
久隆たちはダンジョンから引き上げた。
「今回も疲れたのね。けど、これでまた一歩べリアに近づいたの!」
「ああ。べリアに追いつくのも時間の問題だ」
今はべリアはまだ死んでいないということを祈るしかない。べリアがいなければダンジョンコアに到達しても意味がないのだ。
「さて、ワイバーン戦勝利だが、何か食いたいものはあるか?」
「焼肉!」
「すっかり焼いた肉が好きになったな?」
「この世界の焼いた肉は格別なのね」
前は焼いただけの肉に文句を言っていたレヴィアだが、今ではすっかり焼肉を食べたがる肉食系女子になっていた。
「では、焼肉でいいか?」
「私たちは異論ありませんよ」
久隆が尋ねるのにフルフルたちが頷いて返す。
「じゃあ、晩飯は焼肉だ。予約しないとな」
久隆はそう告げて家の裏口から家に入る。
「よう、久隆。今回は何を倒してきたんだ? ドラゴンか?」
「だから、ダンジョンにドラゴンは出ないと言っただろう」
家では朱門が待っていた。エリアボスに挑むということで負傷する可能性があったので、素面でいてもらっている。医者がいざという時に酔っぱらってもらっていては困るのだ。久隆は少なくない金額を朱門に支払っているのだから。
「じゃあ、何と戦ったんだ?」
「ワイバーン。空飛ぶトカゲだ。もっとも飛ぶ前に仕留めたがな」
「ワイバーンとドラゴンって同じものじゃないのか?」
「厳密には違うらしい」
どう違うのかは分からないが、少なくともドラゴンは侵入者を殺そうとはしないそうだと久隆は朱門に語った。
「温厚なドラゴンねえ。かなりイメージから逸れるな。こっちのドラゴンときたらヤマタノオロチにセントジョージのドラゴンだろ?」
「まあ、そうだな。だが、この世界に現物のドラゴンはいない。俺たちは勝手にイメージしただけだ。そう考えるなら、現物のドラゴンがいるヴェンディダードのイメージの方が正しいんだろう」
「確かにな。本物のドラゴンのいる方が正しいか」
朱門はそう告げながら冷蔵庫を覗き込んだ。
「さて、お前たちも無事に帰ってきたことだし、1本どうだ?」
「今日は焼肉だ。車を運転しなきゃいけない」
「焼肉か。まだまだ俺も若いと思うんだが、そこまでがっつりとは食べられなくなったな。若いころは馬鹿みたいに食べてたんだが」
「ナノマシンの老化予防措置を受けてないのか?」
「受けてるとも。俺は巷の自然主義者じゃない。ナノマシンだろうが何だろうが、自分が健康でいられるためのものは受けている。ただ、それでも肉をがっつり食べる気にはなれないというか。ヒレならいいんだがな。それから魚が美味く感じるようになった」
「それは分からんでもない。俺たちの小さい頃は魚は食えなかったからな」
久隆たちが子供時代には海産物は深刻な環境汚染に晒され、乱獲と合わせて漁獲量は大幅に減少し、食卓に上らなくなっていた。
ナノマシンが開発されて海洋汚染の除去が始まってから、ようやく食べられる魚が水揚げされるようになり、養殖技術の大きな進歩もあって、食卓には再び魚が上がり始める。それはアジアの戦争を挟んだあとのことだった。
久隆たちは食べなれない魚を嫌厭し、その美味しさを知ったのは軍に入って、食堂で魚が提供されるようになってからだった。
久隆たちは魚とはこんなに美味しかったのかと改めて知り、それからは日本でも魚の消費拡大を訴える水産庁のキャンペーンもあって、魚は再び食文化に根付いた。
久隆も朱門も大人になってから魚の美味しさに気づいた口だ。肉が嫌いというわけでは決してないが、肉と魚のどちらかを選べと言われれば、魚を選びがちだ。
「今の時期だとウナギか」
「そうだな。ウナギだな。ウナギ食いたくなってきた。街の方に行ってくる」
「お好きにどうぞ。俺たちは肉食系が多いんで、焼肉屋だ。しかし、ウナギも食わせてやりたいな……」
「宅配を頼めばいいじゃないか」
「この田舎まで網羅してるサービスがあると思うか?」
「それもそうだな」
美味いウナギが食いたかったら街まで行くしかない。
だが、IDを持たないレヴィアたちは連れていけない。
「じゃあ、俺たちは焼肉屋に行くが、朱門、お前はいつごろ帰ってくる?」
「明日だな。ウナギで一杯ひっかけて、それからバーに寄ってくる。酒が入るから、ホテルに泊ってくる」
「分かっているとは思うが、偽装IDをそうほいほいと使うなよ?」
「分かっている。偽装IDを使うのは金貨と宝石を運ぶ時と、警察に見つかった時だけだ。普通にウナギを食うのに偽装IDを使うような馬鹿じゃない」
「ならいいんだが」
偽装IDを保有している時点で犯罪行為だ。久隆は朱門から辿られて、ダンジョンの存在が明らかになることを恐れていた。
「よし。じゃあ、焼肉屋に行くぞ。準備はいいか?」
「着替えたの!」
「いいみたいだな。なら、車に乗れ」
久隆たちは車に乗り込むと焼肉屋を目指した。
焼肉屋での夕食は大いに盛り上がった。
レヴィアはがつがつと肉を食べるし、フルフルはサイドメニューのサーモンのマリネをもぐもぐと味わい、マルコシアは肉を次々に焼いていき、フォルネウスは白米と肉の組み合わせの良さに気づいたのか何度もご飯をお替りしている。
「よく食うな。流石は若者だ」
「ですね、けどここのお肉は美味しいですから」
サクラも肉を焼きつつ、運転しないことをいいことに焼酎を頼んでいた。
久隆は運転があるので、酒類はNGだ。
そもそも久隆はそこまで酒飲みではない。家では孤独感を晴らすために晩酌程度の量は飲むが、がっつりと宴会のように飲むことはない。海軍時代は体内循環型ナノマシンがアルコールを強制分解して無害化していたこともあるだろう。
「焼酎、美味いか?」
「ええ。九州の焼酎は美味しいですね。この芋焼酎いけますよ」
氷をカラカラと言わせながらグラスを揺らし、サクラが焼酎を味わう。
サクラほどの美人ともなると酒を飲んでいるだけでも様になる。宣伝広告に使えそうなものだ。こんな美人が自分にプロポーズしたことを久隆は未だに実感できずにいた。
どうしてサクラは自分を選んだのだろうか。久隆は考える。
苦楽を共にした関係だから? 安直だなと久隆は思う。
だが、世の中とはそういうものではないかという思いもある。人間の結婚というのは案外しょうもない理由であったりするのだ。映画のようにロマンスに満ちた結婚というものばかりではない。
もちろん、ロマンスはあった方がいいだろう。だが、軍人の生活からロマンスを導き出すのは難しい。海軍は男女の問題に実の親のように煩かったし、軍人たちにしても出世したいならば、同じ軍人同士でのロマンスは避けていた。
そして、久隆はロマンスよりも出世を目指していた。
「ふー。お腹いっぱいなの! ごちそうさまなの!」
「満足したか?」
「したの!」
「それならよかった。では、帰るぞ」
久隆たちは満ち足りた様子で自動車に乗り、帰宅していった。
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