ワイバーン戦の準備
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──ワイバーン戦の準備
パイプ爆弾と唐辛子エキスの組み合わせはすぐに完成した。
「後はこれを飛ばせるか、だが」
火薬とパイプの重みに加えて唐辛子エキスの重みが加わった唐辛子爆弾の重さは発炎筒のそれとは比較できない重さだ。
果たしてこれを矢に括りつけて飛ばせるのかというのが問題だった。
最後の手段としては手投げがあるが、相手が飛行中であったり、地上を高速で移動中であった場合、狙うのは容易ではない。
しかし、矢にしたところで重みのせいで弾道がずれたり、速度が低下しては意味がない。最終的には手で投げた方がましという結論に至るかもしれない。
何はともあれ、挑戦あるのみだ。
「これが実物と同じ重さのパイプと唐辛子エキスになる。今回はただのパイプに土を詰めたものと、水を詰めたものになるが」
暴発の危険がある以上、実物でテストすることはできない。地下80階層ならともかく地上で爆発音が響けば、警察に通報される。
そう考えて久隆はサクラに同じ重さのパイプを渡した。
「結構重いですね」
「ああ。軽量化の努力はしたがその程度の重みは生じる。やれそうか?」
「試してみましょう」
サクラは十二分にパイプ爆弾の重みを確かめると、矢にダクトテープでしっかりと括りつけ、裏山に設置した的を狙った。
サクラはやや上方を狙って弧を描くようにして、的を狙う。
そして、矢が放たれた。
矢は高初速で射出され、弾道は緩やかな弧を描き、的に刺さった。
「ふむ。ある程度の距離ならいけますね」
「そうか。目標に突き立てることは可能か?」
「この速度だと難しいかもしれません」
矢は見るからに減速していた。空気抵抗と重さが影響しているのは間違いない。
「そうか。ある程度目標に迫ったら手動で起爆するが、まずは目標に近づけないとな」
「予備のプランは?」
「手投げ式の一式。それから直接と唐辛子スプレーを浴びせる案。直接浴びせるのはぞっとするがな。相手は火炎放射を使用してくるという。あれが真正面に迫ったら、炎を吐くのが先か、唐辛子スプレーを浴びせるのが先かの勝負になる」
「では、何としても目標に矢を浴びせなければなりませんね」
「ああ。頼んだ」
サクラは矢を回収し、訓練を始めた。
「火炎放射……。盾で防ぐというのもありだが、機動力は間違いなく低下するし、あの螺旋階段ではレヴィアたちを守り切るのも難しい」
機動力か、防御力か。
全員がファストロープ降下の技能持ちならば、螺旋階段にワイヤーを結びつけるなりなんなりして、一気に地上まで降下することもできるだろう。だが、捜索班の中でファストロープ降下の経験があるのは久隆とサクラだけだ。
ファストロープ降下は素早い展開を可能にする反面、危険を伴っている。うっかり間違えば地上に真っ逆さまだ。あの高さから落ちれば重傷ないし、死亡するだろう。
素人に訓練なしでファストロープ降下をやらせるわけにはいかない。となると、あの螺旋階段を地道に降りていくしかない。それまでの時間稼ぎが唐辛子爆弾で行えればいいが、失敗した場合はどうするのか。
失敗の例はいくつか考えられる。まずはサクラの狙撃が失敗したという場合。この場合は速やかに79階層に撤退ということになる。
また別のパターンでは一時的にワイバーンの視覚と嗅覚を潰すも、相手が立ち直るのが早いか、あるいは暴走状態になる場合。この場合は撤退は難しい。ワイバーンの混乱を見て、階段を降り始めている途中で敵に立ち直られたら、上にいくも下にいくも地獄である。火炎放射が飛んできて、乱戦を繰り広げることになるだろう。
その場合は手投げ式の予備の唐辛子爆弾を使用するか、唐辛子スプレーを直接浴びせかけるかだ。どちらもリスクは大きい。
だからと言って、盾を構えて前進するのは難しい。盾は重たい金属製のものを使用することになるだろうし、それを使用したからと言ってワイバーンからの攻撃を全て防御できるとは限らない。
最悪の場合、盾ごとワイバーンに掴まれて、地上に叩き落とされかねない。
それに盾では後方のレヴィアたちを守れない。レヴィアたちを置いて先行するにしても、レヴィアたちがいなければ足止めは難しい。
一か八かの作戦というのは馬鹿げているが、サクラの初撃が上手くいかなければ、作戦はほぼ失敗だ。2度目からはワイバーンも警戒するだろう。チャンスは一度しかない。
唐辛子エキスの量を増やして確実性を増す? ただでさえサクラの矢に負担がかかっているのにそれは難しいし、どの道見えてない状況で暴れられたら意味がない。
「運頼みとはぞっとするな」
久隆はそうぼやいた。
だが、この作戦は運頼みだ。サクラの狙撃が失敗しても失敗。予備計画は弱い。一歩間違えば全滅。これまでの中で最高に危険な勝負となる。
これまでのエリアボスはまだ確実性があった。今回はそういう物はない。
ギャンブル染みた作戦が唯一の作戦。だが、それ以外に方法はない。
大規模な兵力の動員は地形的観点からして不可能。動員するにしても、誰かが先に地上に降りて、ワイバーンの気を逸らさなければならない。
その降りる過程でワイバーンに襲われたら、それで失敗。この場合、失敗とは死か重傷を意味するものである。
万が一に備えて久隆が79階層に回復魔法使いの待機を要請したのはそういうことだ。
後方支援の準備はできている。後は前線がどれだけ踏ん張れるかだ。
今は上手くいくことを神に祈るしかない。とは言え、久隆は無神論者だが。
「久隆、久隆。上手くいきそうなの?」
サクラを残して家に戻るとレヴィアが出迎えた。
「さてな。サクラ頼みだ。サクラの攻撃が失敗したら撤退するしかない。成功したとしてもリスクはいろいろとある」
「うー。レヴィアの魔法があればワイバーンにも勝てるのに」
「そうならいいんだがな」
レヴィアの魔法を叩き込むにせよ、まずは地上に降りなければ。不安定な螺旋階段で戦うのはリスクがあまりにも大きすぎる。
「強硬策も考えておくべきかもしれん。いざとなれば俺がファストロープ降下して、地上にワイバーンを引き付ける。その間に、レヴィアたちは螺旋階段を素早く降りろ。他に方法はないだろう」
「それで久隆は大丈夫なの?」
「なんとかするさ」
久隆の家の物置には倒木などを撤去するためのロープが準備されている。それと軍手を使えば、ファストロープ降下も不可能ではない。
ただ、降下してからが問題だ。ワイバーンを相手にタイマンをしなければならなくなる。リザードマンと違って相手は空を飛ぶし、炎も吐く。久隆ひとりで相手にできるかと言われれば、かなり難しいところだ。
飛び回る敵を相手にするのには遠距離火力が必要になる。それもあの速度で飛び回るとすれば、かなり精度の高く、レスポンスの早い火力が。
全ての頼みの綱はサクラが握っている。
サクラが唐辛子爆弾を炸裂させられれば、ワイバーンの動きを一時的に封じ、その隙にレヴィアたちが魔法でワイバーンの動きを鈍らせ、打撃を与えられるだろう。
後は地上に叩き落とす、久隆とフォルネウスでトドメを刺す。
そこまで上手くいく保証はないが、これ以外の計画がないのも事実である。
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