防犯グッズ
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──防犯グッズ
久隆たちはアガレスへの報告を終えて、地上に戻ってきた。
今回は一体何日経過しているものかと思いつつ、久隆は裏口から家に入る。
「久隆か? 今回はそこまででもなかったな」
「何日経った?」
「1日。何日潜っていたんだ?」
「それぐらいだ」
確かに今回は1日程度潜っていた。
「なあ、朱門。以前話していた毒の話だが、接触した相手だけ殺す毒というのはあるか? それもデカい爬虫類に効くような」
「それが本当に爬虫類ならば有効なアイテムはある。タンパク質を強制的に分解するナノマシンだ。本来ならドラッグデリバリーシステムとターゲットマーカーで目標の腫瘍だけを分解するナノマシンなんだが、ターゲットマーカーがなければ全身のタンパク質を分解するまで分解を継続する」
「それが使えるのか?」
「おすすめはしない。相手は未知の生物だ。地球の生き物と同じような4つのDNAコードで生み出されるタンパク質を持っているとは思えないからな。それにこれを武器として利用するには専門知識が必要になってくる」
「他に使える毒は?」
「ブラックマーケットを探せば、毒ガスでもなんでも」
「畜生。じゃあ、このアイディアはなしだ」
いくら久隆でも警察などの注意を引くブラックマーケットに手を出す気にはなれなかった。毒で殺す作戦はなしだ。
「昔から竜は睡眠薬で眠らせて殺すものだが」
「ワイバーンです。ドラゴンではありません」
「違いが分からん」
マルコシアが告げると朱門は肩をすくめた。
「睡眠薬を使うってのは行けると思うのか?」
「自分で言っておいてなんだが、相手の動物の神経系や脳組織のサンプルがない限り、イエスとは断言できない。可能性としてはあり得るが、上手くいかない可能性もありますというしかないな」
「じゃあ、それも却下だ」
久隆は初期案を披露してみることにした。
「唐辛子スプレーはどうだ?」
「唐辛子スプレー? 竜──じゃなくてワイバーンを相手にか?」
「ああ。感覚器は人間と同じらしいからな。強力な刺激も効くだろう」
久隆が考えていたのは何らかの方法でワイバーンに唐辛子スプレーを浴びせかけるという作戦。ワイバーンの目と鼻が潰せたら、あの明るい階層も意味がなくなる。久隆たちは地上に降りて戦うことができるようになるだろう。
「なんというか、ロマンがないな……」
「戦場にロマンを求めるな。戦場では勝つことだけを考えていればいいんだ」
朱門がかっくりすると久隆はそう言い放った。
「しかし、どうやってワイバーンに唐辛子スプレーを?」
「サクラ。お前の出番だ。ワイバーンが地上に降りるのを待ってワイバーンの顔面付近に唐辛子スプレーの中身を詰め込んだ容器を叩き込む。そして、導火線でそれを起爆する。それでワイバーンに唐辛子スプレーを浴びせられる」
サクラが首を傾げると、久隆はそう答えた。
作戦はシンプルだ。唐辛子爆弾を相手の眼前に叩き込む。そして、それが炸裂すればワイバーンの嗅覚と視覚は失われる。相手の混乱しているうちに地上に降り、そこからは久隆たちがワイバーンを相手にする。
「それならば、相手が地上にいる時に矢で頭を貫けば……」
「ワイバーンの頭蓋骨がどの程度の厚さなのか分からない。フルフルの付呪も使えない。そのような状況で確実に頭を狙えるならばそうするが。無理なんじゃないのか?」
「確かに……。鱗だけならともかく、頭蓋骨も込みとなると……」
「そういうことだ。一か八かの賭けに出て、2度目がないという事態は避けたい。魔物は学習しないかもしれないが、流石に少しの記憶ぐらい残しているだろう」
地上にいるときに頭を狙われた記憶が残っていれば、そのことに警戒するようになるだろう。今度は螺旋階段で待ち伏せされるかもしれない。そうなったらお手上げだ。
「容器の爆発には何を?」
「実を言うとこんなこともあろうかと花火の一部を残しておいた。この火薬を使って、簡易型のパイプ爆弾を作る。威力は最低限だが、唐辛子エキスをまき散らすには十分だ」
久隆は将来的に自分たちが爆弾を必要とする可能性を考えて、花火売り場で大量の花火を買い込み、その一部を残しておいたのだった。
もちろん、テロ対策に煩い日本の警察は不審な花火の大量購入があった場合は、通報するように各販売店に呼びかけている。黒色火薬でも量があれば人を殺せる威力を発揮するのだ。それを販売するわけだから、販売店も注意を払う。
だが、久隆たちの暮らしている田舎では徹底されていなかった。それに久隆たちは家族連れを装って花火を購入していった。だから、販売店から警察に通報されるようなことにはならなかった。
まあ、久隆たちにしても花火は普通に消費し、一部を取っておいただけだ。本当に万が一の場合に備えて。
そして、今、その万が一の場合が訪れた。
久隆は簡単なパイプ爆弾を考えていた。簡単と言っても爆弾の基本である釘や画鋲などを詰めることは忘れない。憎きワイバーンを相手に可能な限りの打撃を与えなければならないのだ。
「導火線よりも遠隔起爆式にした方がいいのでは?」
「それだと重量が増えすぎないか?」
「大丈夫ですよ」
久隆たち特殊作戦部隊の隊員たちは手ごろにある道具で爆弾を作り、ゲリラ戦を行うということも訓練されている。どのような状況に陥るか分からない特殊作戦部隊ではあらゆる状況を想定して訓練を行う。今回もその一環だ。
「なら、遠隔起爆式にしよう。なるべく軽量にするが、重さはあるぞ?」
「前の私ならば断わっていたでしょうが、今の私ならば行けます」
サクラの武器も、サクラ自身の人工筋肉も、ダンジョン内での戦闘で強化されている。重みで弾道がずれることも考えられるが、そこはグリフォンとヒポグリフ戦のように事前に訓練を重ねておくしかない。
手で投げるという案もあるが、それよりは矢で飛ばした方が命中力はいいと久隆は判断した。しかし、予備策としては手投げも視野には入れておく。
「そうと決まれば唐辛子スプレーを買いに行くぞ。レヴィアたちは留守番していろ」
「了解なのね」
久隆はホームセンターまで車を走らせて、唐辛子スプレーとパイプ、それから遠隔操作センサーを購入した。遠隔センサーは子供が電気工作に使うものだ。夏休みの宿題のためにこのような商品を扱うコーナーが残っていた。
後はこれを組み合わせていって、パイプ爆弾を作り、唐辛子スプレーをセットすれば完成だ。ワイバーンにとっては悲惨な目に遭うことになるものができる。
だが、問題がないわけではない。
一時的に視力と嗅覚を奪ったとして自由に飛び回る敵をどのように撃破するのか。
レヴィアの魔法で動きを鈍らせるとしてどれほど動きが鈍るのか。もし、動きがそこまで鈍らなかった場合のプランBを考えておかなければならない。
前線指揮官も後方の司令部の参謀たちも予備計画を常に考えている。敵が必ずしもこちらの思ったように行動してくれると限らない以上、予備計画は必要になる。撤退するにせよ、立て直すにせよ計画が必要だ。
「ああ。畜生め。べリアは何故潜り続けている」
久隆はひとりの車内でそう愚痴った。
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