疲労との戦い
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──疲労との戦い
久隆たちは一度、しっかりと休んでから進むことにした。
レヴィアのコンバットハイも戦闘が終わって暫く経てば終わり、疲労が一気に出てくるだろう。それでも80階層までの道のりを作るというならば、一緒に行くしかない。
レヴィアの焦りの原因はやはりべリアかと久隆は思う。
べリアは痕跡こそ残せど、未だに追いつけない。べリアと2名の魔族だけで、碌な補給もなくそこまで進めるとは思えないのだが、べリアは痕跡を確かに刻んでいる。死体も見つかっていない以上、生きているのだろう。
しかし、いつ死体が見つかってもおかしくないことは事実だ。
べリアが交戦を避けて進んでいることは間違いないが、モンスターハウスやエリアボスを相手にどこまでその戦法が通じるのか。そうそうダンジョンの方も突破を許さないようにしているだろうから、いずれ歩みは止まる。
そうなったとき、逃げる場所がある久隆たちと違い、べリアたちは魔物たちに囲まれている。逃げ場はない。
それが生存を難しくしている。
久隆も急がなければならないという気持ちはある。ダンジョンを元の世界に戻すためにはべリアの力が必要なのだ。べリアがいなければ、ダンジョンを元の世界に戻せず、レヴィアたちも元の世界に戻れない。ダンジョンコアに辿り着いたとしても。
だから、レヴィアが次第に焦っていくのは分かる。
だが、焦りすぎて、自分たちまでやられては二次遭難だ。それでは誰も助からない。
「さて、しっかり飯を食ってから挑もう。もうそういう時刻だ」
何分70階層までは辿り着くだけでも時間がかかるし、リザードマンたちも進軍をさえぎる障害となっているので、時間だけは確実に過ぎていく。
久隆は災害非常食を人数分温め、付随するトレーに乗せて配る。
「レヴィア。まだいけそうか?」
「多分……」
レヴィアのコンバットハイも終わっている。疲労が出始めたころだ。
「今は休め。飯を食って、暫く仮眠だ。それから80階層までの道のりを作る。お前のことは頼りにしているんだ。頑張ってくれよ」
「分かったの!」
レヴィアは災害非常食をもぐもぐと食べる。
「しかし、ワイバーンはどうするのですか?」
「グリフォンとヒポグリフ戦の再来だが、今回は敵が早期にこちらに気づくようになっている。何せ、明るく照らし出されているそうだからな。だから、まずは相手を一時的にせよ、戦闘不能に追い込む必要がある」
久隆はそう告げてマルコシアの方を向く。
「マルコシア。ワイバーンの感覚器というのは魔族や人間と同じか?」
「ある程度は。嗅覚や聴覚がどれだけ優れているかは分かりませんが、感覚器そのものは魔族や人間と同じく、見て、聞いて、嗅いでと外部の環境の影響を受けます」
「なるほど。ならば、打つ手がないわけじゃない」
久隆が頷く。
「スタングレネードでもあればいいのですけれどね」
「広い場所ではスタングレネードの威力は抑え込まれる。空を自由に飛ぶ相手にスタングレネードをピンポイントでぶつけるというのは難しい。だが、確かにあれば便利ではあるな。だが、それはないものねだりだ」
サクラが告げると久隆が肩をすくめて返す。
流石にテロ対策がうるさく騒がれている世の中だ。スタングレネードを通販しているところなどない。
似たようなものを自作できないのかと言われれば、そのような訓練を受けていた久隆たちならば閃光を発する爆弾ならば作れる。ただ、本格的なスタングレネードには劣るし、音による制圧効果も見込めない。
しかしながら、久隆にはちょっとした秘策があった。
上手くいくかはさっぱり分からない。もしかすると無意味かもしれないし、無謀かもしれない。それでも何とかしてワイバーンの注意を逸らさなければ、勝ち目はない。
「飯を食ったら休め。見張りはしておく。だから、ゆっくり休め」
「分かったの」
レヴィアたちは横になって休む。
仮眠を1時間ほど取ったら、次の階層に挑むかと久隆は思った。
レヴィアたちには助けられている。レヴィアたち抜きでダンジョンを攻略するのは不可能だろう。もっともダンジョンを攻略する目的もレヴィアたちのためなのだが。
ここから80階層まではもう少しだ。78階層が最後の難関で、79階層はいつものように魔物が少ないという偵察報告を読んでいる。
78階層を攻略すれば、80階層が見える。
一度80階層を自分の目で見てみて、それからワイバーン対策を考えたい。久隆はそう思っていた。
ワイバーンの脅威というものが現段階でははっきりしない。
グリフォンやヒポグリフと違うことは間違いない。エリアボスは地下に潜れ潜るほど、強力なものになっている。ワイバーンもグリフォンとヒポグリフのようには倒せないだろう。何せ、グリフォンとヒポグリフの時と違って敵の姿は見えるものの、敵も自分たちの姿が見えるのである。
とにかく、今は疲労を癒すことだ。
久隆は平気だが、レヴィアたちはこのモンスターハウス攻略でかなりの魔法を使っている。魔力もかなり消耗した。魔力が増減を繰り返すと疲労するというならば、レヴィアたちはかなり疲労しているはずだ。
今は彼女たちがゆっくりと休めるように配慮するべきだ。
久隆はダンジョンの壁に背を預け、神経を覚醒させたまま身を休める。
この手の休み方は軍隊時代に身に付けた。いつでも戦闘可能となれるように半分起きていながら、体を休ませる。軍隊時代はナノマシンが睡眠すらも管理してくれたが、それがなくなってからも身に付いた習慣は維持されている。
ナノマシンのメタンフェタミン染みた覚醒作用こそないものの、この手の休み方でも体は休まる。もっとも完全に休みたければ、安全な後方で休むしかない。
ここは戦場なのだ。ホテルのベッドでも、ネットカフェのソファーでもない。
皆がいつの間にか寝入っていた。サクラは久隆と同じように警戒しながら眠っているが、他の面子はしっかりと休んでいる。
今は疲労との戦いだ。しっかりと疲労を癒さなければ78階層での勝利も望めない。そして、78階層を突破しさせえすれば、残りはエリアボスまで一直線だ。
それぞれがしっかり休んでいることを確認しつつ、久隆も休んだ。疲労は感じないものの、体が疲れているのは間違いない。今は久隆も身を休めるべきだった。
静かな時間が過ぎていき、やがて腕時計のアラーム音が鳴る。
「時間だ。そろそろ起きろ」
「ふわあ……」
「休めたか?」
「休めたの!」
「よし。78階層、行けそうか?」
「行けるの!」
久隆は起きてきたマルコシアとフルフルの方を見る。
「そっちもいけそうか?」
「行けます!」
「大丈夫だと思います」
マルコシアとフルフルがそう返す。
「では、78階層に挑むぞ。油断はするな。とは言え、77階層のモンスターハウスを突破できたんだ。無理なことはないだろう。だが、モンスターハウスと違って、挟撃の危険は残っている。迅速にやるぞ」
「了解!」
そして、久隆たちは78階層に潜っていく。
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