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戦闘力の問題

……………………


 ──戦闘力の問題



「ふうむ。外交的孤立か。生活必需品は国内で生産できているのか?」


「それはヴェンディダードのモットーです。全ての生活を自分たちの手で。ヴェンディダードではあらゆるものが専門業者だけに頼らず、自分で作れることが理想とされます。もちろん、質は落ちますが、生活必需品が確保できていれば助かることは多々ありますから。魔法ゴケもそのような考えから各家庭で育てられています」


「ならば、無理をして外国とやり取りする必要はないんじゃないか?」


「将来的な問題です。これから外国でしか採取できない資源が生まれ、それが生活に関わらないとも限りません。それに外交チャンネルとしては、いざという時に戦争の停戦を仲介してもらうなど役立つこともあるのです。認めたくはないですが……」


「ああ。それはあるな」


 日本もかつては石油が入ってこなければ干上がっていた。それからもレアメタルやレアアースなどの地下資源が常に求められていた。


 海底採掘技術の発展により、日本は海洋地下資源をリーズナブルな価格で採取できるようになったが、戦略資源となるものは多くあって困ることはない。未だに日本は資源輸入国だ。


 ヴェンディダードでも自動車や半導体などの工業製品が国家の命運を左右するようなことになれば、外国を頼らざるを得ないかもしれない。外交チャンネルを維持しておくのは悪い選択肢ではない。


 もっともどのような物資が魔法の使えるヴェンディダードで戦略資源になるかは分からないが。


「さて、暫く仮眠でもしておけ。30分。休める時に休んでおくものだ」


 久隆はそう告げて壁を背にして、休み始めた。


 レヴィアたちもマットの上で休む。暫しの静寂が訪れる。


 久隆は体を休めながらも頭は働かせていた。


 これまでの経験からどれほどの規模の戦闘に耐えられるか。


 魔力はどれだけ続く? 前衛はどれだけ持つ?


 相手はリザードマンという装甲車並みの装甲を持った敵だ。決して油断はできない。それでいて勝利するためには何が必要なのか。


 優れた戦術というものは概ねシンプルである。複雑怪奇に絡まった作戦を予行演習もなしに実行するのは難しい。久隆とサクラは室内戦闘などの閉所での戦闘について数多くの経験があり、訓練を受けているが、レヴィアたちはそうではない。


 西側の特殊作戦部隊のやり方を熟知している2名がいても4名がそうでないならば、あまり意味はない。戦闘とは連携することにあるのだ。ワンマンアーミーというのは軍事行動では好まれるものではない。


 連携し、互いをカバーし合い、各々の最大限のパフォーマンスを引き出す。それこそが軍事行動だ。ひとりだけ突出しても、いずれそのひとりは倒れる。ひとりで全てをこなせるのは映画の世界だけだ。映画では何もかもが都合よく運ぶが、孤立した兵士というのは発揮できるパフォーマンスが酷く限られる。


 久隆も実際、孤立したときは碌な戦闘はできなかった。


 結局のところは相乗効果だ。戦闘に参加できる人数分の戦力は単純な加算ではない。ランチェスターの法則によれば、近代戦において戦闘力は武器の性能に乗算して兵力数の2乗だ。兵力数をただ加算するわけではないのだ。


 もちろん、全ての戦闘と作戦においてこの法則が成り立つわけではない。だが、無視できない法則ではある。少なくとも軍事関係者で有名なランチェスターの法則を知らない人間はいないだろう。


 久隆はそのようなことを考えながら、今の戦力で何ができるかを考える。


 リザードマン20体は勝利できた。これが2倍、3倍になったら。


 魔力の消耗は? レヴィアたちの体力は? フォルネウスとサクラの持久力は?


 久隆がそのようなことを考えつつ、結論が出ないうちにタイマーが音を立てて鳴った。時間が来たのだ。


「よし。休憩は終わりだ。いくぞ」


「おー!」


 久隆たちは立ち上がる。


 マットを畳んで収納し、久隆たちは77階層の階段を見つめる。


「いよいよ77階層ですね」


「ああ。だが、今の俺たちなら勝てる」


「もちろんです」


 フルフルはちょっと自信ありげにそう返した。


 フルフルの弱点は自分に自信がないことだった。だから、行動も消極的だったし、いざというときに頼られようとしなかった。


 だが、今のフルフルには自信がある。行動は積極的で、いざというときには頼れる存在だ。今の彼女は最大限のパフォーマンスを発揮している。


 今の久隆たちならばリザードマンのモンスターハウスでも突破できる。そのような確信に近い見通しがあった。


「全員、魔力の消耗には注意。サクラ、矢の予備は十分だな?」


「十分です」


「よろしい。では、降りるぞ」


 久隆たちは77階層に降りていく。


 久隆は事前にレラジェたちの偵察報告を渡されている。それによれば、77階層の構造は、まず階段のある小さなフロアがあり、そこから十数メートルの廊下があり、その先にリザードマンたちの集まっているフロアがある。78階層への階段はその先だ。


 基本的に迂回突破などができる階層ではないのはいつものこと。進みたければ、立ちふさがる魔物たちをばったばったとなぎ倒しながら進むしかない。


 久隆はまずは音を立てずに階段から降り、索敵を始める。


「リザードマン、約60体。この数にはなるか……」


 76階層が通常階層でそれでいて20体のリザードマンだ。モンスターハウスともなればこれぐらいの規模であることは予想できた。


「全員、挟撃の心配はしなくていい。魔法を可能な限り叩き込み、相手に打撃を。俺たちは1体たりとも魔物を後衛に近づけさせない」


「了解なの」


 久隆たちはゆっくりとリザードマンたちの溢れるフロアに近づく。


 久隆の作戦ではリザードマンで溢れるフロアからある程度離れた場所で戦闘を開始し、適時状況に応じて後退と前進を繰り返すつもりだった。


 廊下の長さはたったの十数メートル。リザードマンが本気になって押したら、久隆たちは階段のあるフロアまで押し返されかねない。そうさせないのが久隆とフォルネウス、サクラの役割だ。


 レヴィアたちには指一本触れさせない。


 久隆たちは前衛としての役割を全うすべく、前方を進む。


「見えた。武器は長剣と盾。面倒な組み合わせだな」


 短剣ほどでないにしろ、長剣も腕力のあるリザードマンなら手数が打てる。ハルバードのような打撃力はないにしろ、どのみち命中すれば死を覚悟しなければならないだけの武器だ。


 久隆にはそもそも白兵戦の経験がさほどない。実際のところ、フォルネウスは久隆より上手くやっている。剣技に関しては剣を専門に扱ってきたフォルネウスの方に利がある。久隆は人工筋肉の出力に物を言わせて薙ぎ倒しているだけだ。


 久隆が扱ってきたのはほとんどの場合、何かしらの銃であり、白兵戦は隠密の際に軍用ナイフを使用する程度のことだった。この2045年に剣を振り回して戦うような酔狂な民兵も海賊も存在しないし、銃で戦う場に剣を持ち込むのは馬鹿のすることだ。


「では、諸君。鬨の声(ウォークライ)を響かせろ!」


 今、戦闘開始のコングが鳴った。


……………………

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